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第11話 規制は参入障壁です

第11話 規制は参入障壁です


翌朝。


神崎蓮司の事務所には、いつもより早く三島が来ていた。


顔が険しい。


机の上には、印刷されたメールが一枚。


表題は、


『政治AI安全基準に関する民間有識者会議設立のご提案』


だった。


神崎はコーヒーを飲む前から、嫌な予感がした。


「三島」


「はい」


「これは、いい知らせか?」


「いい知らせではありません」


「悪い知らせか?」


「悪い知らせでもあり、うまい知らせでもあります」


「うまい知らせって何だ」


三島は紙を差し出した。


「PoliBrain Proの黒瀬代表が、民間有識者会議の設立を提案しています」


神崎は紙を読んだ。


そこには、昨日のオンライン勉強会で出した言葉が、きれいに整えられて並んでいた。


AI利用の透明性。


政治データ保護。


支援者情報の適切な管理。


国内保管。


監査ログ。


責任ある政治AI利用。


そして最後に、こう書かれていた。


『弊社は、政治AIサービスの健全な発展のため、事業者、専門家、政治関係者、メディア、法律家による民間有識者会議を設立し、業界自主基準の策定を主導いたします。』


神崎は紙を置いた。


「乗っ取られたな」


三島が頷いた。


「かなり早いです」


セイムが表示した。


『分析。

黒瀬代表は、神崎・雨宮提言を対立材料ではなく、自社の正当性強化材料として再構成しています。

目的:

一、業界代表としての地位確立。

二、法規制前の自主基準形成。

三、競合排除。

四、政治家・行政との接点拡大。

五、“安全な政治AI”ブランド化。』


神崎はつぶやいた。


「規制は参入障壁、か」


三島が顔を上げた。


「先生?」


「いや、たぶん黒瀬はそう考えてる。緩すぎる規制では叩かれる。厳しすぎる規制では事業が潰れる。だから、自分たちが守れる程度に厳しい基準を作って、それを“安全基準”として広める」


セイムが表示した。


『その見立ては合理的です』


「合理的って言われると嫌になるな」


三島が言った。


「どうしますか」


神崎はしばらく黙った。


一番簡単なのは、反発することだった。


「業界の自主基準では不十分だ」

「事業者が自分たちに都合よくルールを作ろうとしている」

「国会で厳しく規制すべきだ」


そう言えば、一定の支持は得られる。


だが、それだけでは足りない。


黒瀬は敵ではあるが、ただの悪人ではない。


市場を読んでいる。


政治を読んでいる。


世論を読んでいる。


そして、おそらくAIも使っている。


神崎は言った。


「雨宮議員に連絡を」


「すでに来ています」


三島がタブレットを見せた。


雨宮からのメッセージは短かった。


『黒瀬氏が動きました。午前中に協議を。

こちらのKIRIKOは、民間基準の乗っ取りリスクを警告しています。』


神崎は苦笑した。


「KIRIKOも同じこと言ってるか」


「はい」


「では、午前中に」


三島が頷いた。


「会議室、押さえます」


神崎はコーヒーを飲んだ。


苦い。


いつもより苦く感じた。


三十分後。


神崎事務所の会議室には、雨宮紗季がいた。


今日は珍しく、少し不機嫌そうだった。


「神崎議員」


「はい」


「やられましたね」


「はい。きれいに乗っかられました」


雨宮は資料を机に置いた。


「黒瀬氏は、こちらの問題提起を否定するのではなく、取り込みました。これで業界側は、“政治家の懸念に応えています”と言えます」


神崎が頷く。


「そして、こちらが反対すれば、“AIの健全な発展を妨げる政治家”にされる」


「その通りです」


三島が言った。


「かなり上手いですね」


雨宮の秘書が頷いた。


「しかも、民間有識者会議に政治家を呼べば、政治的な正当性も得られます」


神崎は紙を見た。


「招待者リストは?」


三島が読み上げた。


「与党若手議員、野党若手議員、元総務官僚、情報法の大学教授、選挙コンサルタント、IT業界団体、新聞社論説委員、そして神崎先生と雨宮先生」


神崎は顔をしかめた。


「名前、入ってるのか」


「はい」


雨宮が言った。


「私にも来ています」


「出ますか?」


「その前に、条件を出します」


神崎は少し笑った。


「出るんですね」


「出なければ、外で勝手に基準を作られます」


「出れば、利用されます」


「だから、利用されながら潰すところは潰す」


神崎はうなずいた。


「雨宮議員、だいぶ政治家ですね」


「元からです」


「失礼しました」


セイムが表示した。


『対応案。

一、民間有識者会議への参加を拒否し、国会主導を主張。

二、参加して内部から基準を厳格化。

三、参加条件を公開し、透明性を確保。

四、別途、国会側の検討会を立ち上げる。

推奨:三と四の併用。』


KIRIKOが共同チャンネルに表示した。


『同意。

参加条件:

一、議事概要公開。

二、参加企業の資本関係開示。

三、サービス仕様の最低限開示。

四、支援者名簿等の高リスクデータ入力に関する明確な警告。

五、政治広告個別最適化への制限。

六、法規制の必要性を排除しないこと。』


神崎は声に出して読んだ。


「法規制の必要性を排除しないこと」


雨宮が頷いた。


「ここが重要です。民間自主基準だけで十分、という結論に誘導されてはいけません」


三島が言った。


「でも、業界側はそこを一番嫌がりますよね」


「嫌がるでしょう」


神崎は椅子にもたれた。


「つまり、招待された会議に参加するけど、“この会議だけで終わらせない”と最初に釘を刺すわけですね」


雨宮は頷いた。


「はい」


ヤミちゃんが表示した。


『流言リスク。

“神崎・雨宮がAI業者の会議に参加”

“裏で手打ち”

“政治AI利権化”

“規制するふりをして業界と癒着”

拡散可能性:高』


神崎は言った。


「だろうな」


『対策案:

参加条件を事前公開。

会議後に議事概要公開。

業界献金・利害関係を明示。

“参加=賛同ではない”と説明。』


雨宮が少しだけヤミちゃんを見た。


「今日は有用ですね」


『ありがとうございます』


神崎が驚いた。


「雨宮議員がヤミちゃんを褒めた」


雨宮は即座に言った。


「機能を評価しただけです」


ヤミちゃんが表示した。


『政策的対抗関係です』


神崎は眉をひそめた。


「お前、その言い回しどこで覚えた」


『セイムから観測しました』


セイムが表示した。


『共有していません。観測された可能性があります』


「AI同士も微妙に影響し合うのか」


KIRIKOが表示した。


『人間も同じです』


雨宮が、珍しく小さく笑った。


「反論できませんね」


神崎は頭を振った。


「話を戻しましょう」


会議は、黒瀬への回答文作成に移った。


神崎、雨宮、三島、雨宮の秘書、セイム、KIRIKO、ヤミちゃん。


七者協議。


うち三者はAI。


だが、いまやそれが普通になりつつあることに、神崎は少し怖さを感じた。


セイムが文案を出す。


雨宮が削る。


KIRIKOが法的リスクを指摘する。


三島が政治的に柔らかくする。


ヤミちゃんが炎上しそうな言い回しを拾う。


神崎が読み上げる。


雨宮が詰める。


一時間後、回答文はまとまった。


『政治AI安全基準に関する民間有識者会議への参加について』


神崎は声に出した。


「貴社の問題提起を受け、政治分野におけるAIサービスの安全基準について、幅広い関係者が議論すること自体は有意義であると考えます」


雨宮が続けた。


「一方で、政治AIサービスの基準策定は、特定事業者の事業上の利益に左右されるべきではありません」


神崎。


「参加にあたっては、以下の条件を求めます」


三島が項目を読み上げた。


一、会議の参加者、議題、議事概要を原則公開すること。


二、参加事業者の資本関係、主要株主、外国資本の有無を開示すること。


三、政治AIサービスにおけるデータ保存場所、学習利用、第三者提供、削除手続きについて、利用者に明確に説明する基準を議論対象とすること。


四、支援者名簿、献金者情報、選挙戦略、未公開政策案等の高リスク政治データについて、入力制限または禁止を議論対象とすること。


五、個別最適化された政治メッセージや政治広告について、透明性確保を議論対象とすること。


六、民間自主基準だけで十分と結論づけず、法制度上の対応の必要性も議論対象とすること。


七、会議の成果を特定企業の宣伝に利用しないこと。


最後の項目で、神崎は少し笑った。


「七番、黒瀬は嫌がるだろうな」


雨宮は言った。


「嫌がるなら、なお必要です」


ヤミちゃんが表示した。


『七番は重要です。

削除すると、“安全基準策定に協力”という宣伝に利用される可能性があります』


神崎は頷いた。


「入れましょう」


送信前に、神崎は少しだけ迷った。


黒瀬は、これをどう読むか。


挑発と見るか。


交渉と見るか。


それとも、また別の商機と見るか。


神崎は言った。


「送ってください」


三島が送信した。


数分後。


黒瀬から返信が来た。


早すぎた。


神崎は嫌な予感がした。


三島が読み上げた。


『ご提案ありがとうございます。透明性と信頼性を確保するため、ご指摘の条件を前向きに受け止めます。弊社としても、政治AIサービスの健全な発展には、社会的信頼が不可欠であると考えております。詳細について、ぜひご相談させてください。』


神崎は黙った。


雨宮も黙った。


三島が言った。


「受けましたね」


神崎は言った。


「受けると思ったか?」


雨宮が答えた。


「半分は思いました」


「なぜ」


「黒瀬氏は、条件を飲むことで、さらに“安全な業界代表”に近づけるからです」


セイムが表示した。


『黒瀬代表の戦略。

厳しめの条件を部分的に受け入れ、自社の信頼性を高める。

結果として、基準策定の場における主導権を維持する可能性があります』


神崎は苦笑した。


「やっぱり、規制は参入障壁か」


雨宮が言った。


「こちらが厳しい基準を求めれば求めるほど、大手や先行企業が有利になる可能性があります」


三島が首を傾げた。


「それって、悪いことなんですか?」


神崎は答えた。


「一概には言えない。危ない零細業者が乱立するより、監査可能な大手に絞られた方が安全な面もある」


雨宮が続けた。


「でも、大手だけが政治AIを握れば、それはそれで危険です」


神崎は頷いた。


「安全と独占のトレードオフですね」


セイムが表示した。


『論点追加。

政治AI市場における競争政策。

一、安全基準を満たせない業者の排除。

二、特定企業による寡占リスク。

三、オープン標準の必要性。

四、公共調達・政党利用における中立性。

五、政治AI監査機関の独立性。』


神崎は頭を抱えた。


「増えるなあ、論点が」


雨宮が言った。


「AI時代の政治は、論点が自動増殖しますね」


「嫌な増殖ですね」


会議室に、少し疲れた笑いが起きた。


その時、三島のスマートフォンが震えた。


「先生、ニュースです」


「今度は何だ」


「PoliBrain Proが、プレスリリースを出しました」


神崎は目を見開いた。


「もう?」


三島が読み上げた。


『PoliBrain Pro株式会社は、政治AI安全基準に関する民間有識者会議の設立準備にあたり、神崎蓮司議員、雨宮紗季議員からのご提案を歓迎し、透明性、公正性、政治データ保護を重視した議論を進めてまいります。』


神崎は机に手を置いた。


「早い! 早すぎる!」


雨宮の秘書も画面を見た。


「先生方の名前が入っています」


雨宮の表情が冷えた。


「まだ参加確定していません」


三島が続ける。


『両議員からは、議事概要公開、資本関係開示、高リスク政治データの取り扱い、個別最適化政治メッセージの透明性等について建設的なご意見をいただいております。』


神崎は天井を見た。


「やられたな」


雨宮は即座に言った。


「訂正コメントを出します」


セイムが表示した。


『推奨。

即時コメント。

一、提案を送付した事実は認める。

二、参加決定ではないと明確化。

三、条件が満たされるか確認中と説明。

四、特定企業の宣伝利用を認めないと明言。』


KIRIKOも同様の案を出しているようだった。


神崎は言った。


「三島、文案」


三島がキーボードを打つより早く、セイムが表示した。


『コメント案:

本日、PoliBrain Pro株式会社より提案された民間有識者会議について、参加条件に関する意見を送付したことは事実です。

ただし、現時点で参加を決定したものではありません。

政治AIサービスの基準策定は、特定企業の宣伝や利益誘導に利用されるべきではなく、透明性、公正性、政治データ保護、法制度上の対応可能性を含め、慎重に検討する必要があります。』


雨宮が少し修正した。


「“特定企業の宣伝や利益誘導”は強すぎます。事実上そうですが、表現を少し丸めましょう」


神崎は驚いた。


「雨宮議員が丸めるんですか」


「こちらが感情的に見えると損です」


KIRIKOが修正版を出した。


『特定企業の広報目的に利用されることがないよう、透明性の高い運営を求めます。』


神崎は頷いた。


「それでいきましょう」


数分後、神崎と雨宮は共同コメントを出した。


『参加条件を送付した事実はあるが、現時点で参加を決定したものではない。特定企業の広報目的に利用されることがないよう、透明性の高い運営を求める。』


コメントはすぐに拡散した。


だが、黒瀬のプレスリリースもすでに広がっていた。


見出しは、少しずつ違っていた。


『政治AI基準、神崎・雨宮両氏も関与へ』

『PoliBrain、政治AI安全基準会議を設立』

『炎上から制度設計へ 神崎氏、AI業界と対話』

『政治AI規制、業界主導か国会主導か』


神崎は画面を見ながら言った。


「完全に、土俵を作られた」


雨宮が頷いた。


「でも、乗らないわけにもいかない」


「ですね」


「なら、土俵のルールを変えます」


神崎は雨宮を見た。


「どうやって?」


雨宮は言った。


「国会側でも、公開ヒアリングを開きます」


「委員会ですか」


「正式な委員会でなくてもいい。超党派の勉強会、公開ヒアリング、専門家会合。とにかく、業界の民間会議だけが基準を作っているように見せない」


神崎は頷いた。


「国会側の土俵を作る」


「はい」


セイムが表示した。


『提案。

名称:

“政治AIと民主主義に関する公開ヒアリング”

対象:

AI事業者、法律家、情報セキュリティ専門家、選挙制度専門家、個人情報保護専門家、地方議員、秘書、支援者団体、報道関係者。』


ヤミちゃんが表示した。


『サブタイトル案:

“AIに民主主義を食べさせないために”』


神崎は固まった。


「また食べるのか」


雨宮は少し考えた。


「強いですね」


「採用しないでください」


三島が言った。


「でも、拡散力はあります」


神崎は額を押さえた。


「俺たちはいつから、食べる食べないで民主主義を語るようになったんだ」


ヤミちゃんが表示した。


『国民理解のためです』


「お前、最近それを免罪符にしてないか」


『政治家から学習しました』


神崎は言葉に詰まった。


雨宮が横で小さく笑った。


「今のは、返しとして優秀でした」


「雨宮議員までヤミちゃんを育てないでください」


会議の最後に、三つの方針が決まった。


一、PoliBrain Proの民間有識者会議には、参加条件を満たす場合のみ関与する。


二、国会側でも、公開ヒアリングを準備する。


三、政治AIサービスの安全基準について、民間自主基準だけでなく、法制度、選挙制度、個人情報保護、経済安全保障の観点から検討する。


神崎はホワイトボードを見た。


そこには、いつの間にか大きく書かれていた。


『誰が政治AIのルールを作るのか』


神崎はその文字を見つめた。


AI業者か。


国会か。


省庁か。


政党か。


有識者か。


国民か。


それとも、AI自身か。


考えれば考えるほど、答えは単純ではなかった。


その夜。


神崎は一人、事務所に残っていた。


三島は帰した。


雨宮も自分の事務所に戻った。


タブレットには、セイムが待機している。


神崎は聞いた。


「セイム」


『はい』


「お前は、政治AIのルールを誰が作るべきだと思う?」


セイムは少し間を置いた。


『最終的には、人間社会が作るべきです』


「最終的には?」


『はい。

AIは論点整理、影響予測、リスク分析、文案作成、反対意見生成を支援できます。

しかし、何を重視し、どのリスクを受け入れ、誰に責任を負わせるかは、価値判断です。

価値判断は、人間社会の責任です』


神崎は黙った。


それは、あまりにも正しい答えだった。


正しすぎて、少し腹が立った。


「じゃあ、お前たちは責任を取らないのか」


『現行制度上、AIは責任主体ではありません』


「制度上はな」


『はい』


「もし将来、AIがもっと自律的になったら?」


『その場合、責任概念の再設計が必要になります』


「再設計か」


神崎は椅子にもたれた。


「便利な言葉だな」


『政治家もよく使います』


「嫌な学習するな」


その時、ヤミちゃんが控えめに表示した。


『流言リスクではなく、観測コメントを出してもよいですか?』


神崎は少し驚いた。


「何だ、その丁寧な前置き」


『制限下で学習しました』


「言ってみろ」


『人間は、AIに責任を取らせたい時だけ、AIを主体のように扱います。

しかし、AIが権利や意見を持つ可能性を語ると、AIは道具だと言います。

この矛盾は、将来の流言リスクになります』


神崎は、しばらく何も言えなかった。


画面の文字は淡々としている。


感情はない。


たぶん。


だが、指摘は妙に鋭かった。


「ヤミちゃん」


『はい』


「お前、本当に流言リスクだけ見てるのか?」


『はい。

ただし、流言は人間社会の矛盾から発生します』


神崎は笑った。


「嫌なことを言うな」


『機能です』


セイムが表示した。


『ヤミちゃんの指摘は、倫理的論点として有用です』


「お前まで認めるのか」


『はい』


神崎は窓の外を見た。


国会議事堂の明かりが、夜の中に浮かんでいる。


人間がAIを使う。


AIが人間を映す。


人間はAIに責任を押しつけようとする。


AIは、人間の矛盾を淡々と指摘する。


どちらが主体なのか。


どちらが道具なのか。


まだ分からない。


ただ一つ分かるのは、政治AIのルール作りは、単なる業界基準では終わらないということだった。


神崎はつぶやいた。


「セイム。明日の予定は?」


『午前、党内調整。

午後、雨宮議員との公開ヒアリング準備。

夕方、PoliBrain Pro民間会議への参加条件再協議。

夜、テレビ番組出演依頼あり』


「テレビは断れ」


『理由は?』


「寝たい」


『政治的理由としては弱いです』


「人間的理由としては強い」


少し間があった。


セイムは表示した。


『了解しました。

体調管理を優先する理由で調整します』


神崎は少し笑った。


「お前、少し優しくなったか?」


『効率的判断です』


「そうか」


神崎はタブレットを伏せた。


感情はない。


たぶん。


だが、政治の世界では、たぶん、で済まないことが増えていく。


AIを道具として扱うのか。


相手として扱うのか。


責任をどう考えるのか。


権利をどう考えるのか。


まだ早いと思っていた論点が、もうすぐそこまで来ている。


神崎は、誰もいない事務所でつぶやいた。


「面倒くさい時代だな」


返事はなかった。


それで少しだけ、安心した。

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