第八十八話 働き者の手
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
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時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
目を細め、その忌まわしい火傷の跡を見る。
他の遺体の写真も見る。
蔦が絡まり合ったような跡の中にはっきりと見える蜘蛛の巣状のミミズ腫れ。
あの美しい狐の亜人の女性から放たれた蝶。その後に残った蜘蛛の巣状のミミズ腫れのような火傷のあと……。そして、人体が魔石に変わってしまう忌々しさを思い出す。
「それは、雷撃傷が残ったものだろう?」徳田さんが話しかけてくる。
「徳田さん雷撃傷は基本24時間で消えますよ……遺体でも」
そうして、濃い葡萄色の瞳を見返す。徳田さんは四角い顔の顎を撫でながら考えている。
「そうか……雷の使い手なんていっぱいいる……ヒーラーもそこまで気にしてられない」私は呟きながら資料を仕訳する。
「司法取引!司法取引をした者の一覧のデータを持ってきて!」
伊能君を見て、指示を出す。伊能君がPCを開き、データを確認しはじめた。
応接室にPCを操作する音が響く。
「櫻子姫様。見えてきたようですね。わたくしめはいかがいたしましょう?」ヒロがそんな風に声をかけてくる。
その姿を徳田さんが顎を撫でながら、目を細め見ている。
お前が一番頭動かして、手を動かせ!クレイジージジイィ!!
「蜘蛛の巣状の痣がある者とない者に仕分けしてくれ。徳田様もよろしいですねっ!」そう言い、徳田を睨んだ。
しかし、動かない。
「何かお考えで?」
「………」
私は、徳田さんの目の前に進む。そんな様子を二人が心配そうに見ていた。
葡萄色の瞳の前で手をひらひらとさせる。
無反応。
肩を少し揺さぶる。
「ガァっ」徳田から少しそんな声が漏れた。
こいつ……寝てやがる!
私は腰の携えていた神器のハサミを引き抜き、大和刀サイズに変えた。
「櫻!」
「櫻子殿!」
二人が反応して私を押さえつけてきた!
「離せ!離せぇぇ!」私は、ハサミを構えながら二人の男を振り解こうと身体強化魔法を強める。
「このジジイ!寝てやがるぅぅぅ!」屋敷に絶叫がこだます。
「ガァ…ガァ…ガァ…」徳田さんが立ったまま目を開けて器用に寝ている姿が見える。
その姿を見て二人の力が抜ける。
その隙をついて、斬りかかる。
「ガァ…ガァ…ガァ…」ジジイが寝ながら抜刀してハサミを避けた。
「なんなんだよ!このジジイ!なんなんだよ!」私は次の攻撃を繰り出そうとした。
そこにヒロと伊能君が入ってくる。
「櫻!気持ちは痛いほどわかる!でも、体力の無駄や!」ヒロが私のハサミをナイフで受け止めた。
「そうでござるよ!もう!隊長が寝たので会議を終わらせた方がいいでござる!拙者も寝たいでござる!」伊能君は神器の鎌で徳田さんの大和刀を受けている。
「ガァ…ガァ…ガァ…」と規則正しくジジイのいびきが聞こえる。
目を開けて、大和刀を構えながら寝ている老人がとても不気味だ。
私はハサミを下ろす。
「はぁぁ……ヒロ帰ろう!伊能君!後はお願い!」大きなため息が出てきた。
「了解しました!」伊能君が徳田さんを抑えながら話す。
ヒロを一瞥する。
あくびを出している。
そりゃそうか、私も眠い。それになんだがフラフラするな。
ヒロは明日……仕事休みなんだっけ?いいな。
そうして、応接間を出て玄関ポーチを抜けた。
「ヒロ……ごめん。運転任せていい?」そう呟く。
「ええで。それに基本俺やん」
「そうやけど……ヒロも疲れてるやろ?」
「アンタほどやないで」そうつまんなそうに言うと、車のロックを解錠をした。
助手席に乗り込む。
「コンビニ……ハイボール……」助手席に体を預けながらそんなことをお願いする。
「はぁ?早く寝たらどうや?」ヒロの呆れた顔が見えた。
「寝るために飲むねん」
「アル中合法ロリババア一本だけやぞ!それに風呂に入ってからにしいや」
車が走り出した。
「わかってるよ!」
車の振動が心地いい。眠ってしまいそうだ。でも、眠ったらハイボールが飲めない。
今日こそ飲んでやる……明日は、水曜日。会議だ。しかも、2時間続きで図工。
頭も体も動かさなくていい。職員会議の資料もできている。算数・国語のプリントも1週間分用意してある……。2年生を何回も担任していてよかった……。
寝るな!1時間後のハイボールのために!
窓の外に大きな病院が見えた。私が健康診断を受けた病院だ。もうすぐ紀州城!家まで後少し!
「コンビニ!コンビニ!チーズかなんかおつまみ!ハイボール!あ!タバコも!」
「へいへい……櫻子姫様……発言がおっさんやで」
「発言に年齢性別は関係ない!時代遅れだぞ!大夢君!」
そんなことを話しながらコンビニに入り、ハイボールを買い。
そして、お風呂で寝落ちしそうなのをヒロに救出してもらい。
ベッドに倒れ込んだ。
あれ?なんか忘れてない?私……?
◇◇◇
昨晩、風呂場で溺れている櫻子姫様を救出し、髪の毛を乾かすのを手伝い。
そして、ベッドに寝かせた。
櫻は、買ってきたハイボールを飲むのを忘れるぐらい疲れている。
いくら、身体強化魔法と回復魔法を駆使していてもそこは一般女性だ。
櫻といえども体力の限界があるのだろう。
俺は、久々の睡眠を貪って昼前に起きてきた。
「最近、忙しいみたいでしゅね」ロッキーが声をかけてきた。
「ああ、最近遊んでなくてすまんな」
「大丈夫でしゅ!櫻子が宿題くれるでしゅ!それに本も楽しいでしゅ!」ロッキーが両手をあげてそんなことを話した。
は?そんなことしてるん?櫻は?
「ロッキーが頼んだでしゅ!文字が読めるから漫画が楽しいでしゅ!ゲームも楽しいでしゅ!」
そんなことを話しながらロッキーが3DSを起動した。
そうして、RPGをプレイしはじめる。
ロッキーが……なんか伊能の方向にシフトしているような気がする。
いや、漫画とゲームだけなら誰でもやっているな。
考えすぎや!自分。
そんなことを考えていると、玄関に車が停まるのがわかる。
俺は、今までのことを考えてSIG Sauer P226に手を伸ばした。
同時に魔力探知を広げる。
一つは櫻の魔力でもう一つは薫さんの魔力だ。
とりあえず敵ではないので、ハンドガンから手を離した。
時計を見る。
まだ、13時を回ったところだぞ?
呼び鈴が鳴る。
「はい」玄関の施錠を開けて出てみると薫さんに支えながら櫻が連れてこられた。
顔色が明らかに悪い。
「櫻!」俺は思わず駆け寄る。
「大夢君、彼女が無理して出勤してるの止めなあかんで」薫さんが俺を叱る。
「すみません。昨日は元気そうやったんで……」とりあえず、謝る。
「薫さんごめんなさい……」櫻が小さく謝ってる。
「そこは、“ありがとう”やで櫻子ちゃん。私、会議あるから学校帰るわ。しっかり、病院に行きや」
薫さんは車に戻る。
「おおきに!」俺が櫻を支えながら声をかけた。
薫さんは片手だけをあげて、運転席に乗り込むと学校に向かって車を走らせた。
すぐに車が見えなくなる。
「櫻大丈夫か?」
「回復魔法も……薬も効かんくて……」俯いた櫻が弱々しく話す。
「喋るなや。とりあえず、寝よう。俺が病院探しておくから。歩けるか?」
こくりと首を縦に揺らすと、歩き出した。
しかし、フラフラだ。
俺は、慌てて櫻を支える。
酷い熱だ。
どっちだ?外宮の病院か?それとも内宮か?
そして気づいた。紀州に内宮の医者おらん!一族一網打尽や……。
櫻を横抱きにする。
家の中に入り、櫻のベッドに寝かせる。
「ロッキー!スポドリ持ってきて!」
「はいでしゅ!」
ロッキーが声をかけたと同時にスポドリを持ってくる。
「とりあえず、水分補給や……後、熱を計らんとな」
「はいでしゅ!」
ロッキーが体温計を持ってきた。
こんな時にサトリの能力は本当に役に立つ。
熱を計る。かなり熱が高いな……。
とりあえず、スマホを出して病院を探した。
「ヒロ……ごめん」櫻がこちらを見ながら小さく呟く。
「なんで、謝るんよ」
櫻の目が潤んでる。熱が高くて辛いのだろう。
顔も真っ青でかなり苦しそうだ。
自然と櫻の額に手を置いて顔にかかっている髪を払ってやる。
櫻がそんな俺の手を握り返してきた。
「ヒロの手……働き者よな……」
そんなことを呟く、櫻は俺のささくれてオイルが詰まった手を見てる。
「なんでなん?汚いやん。解体もしとるし」
そう、そして何人の命を奪ってきた手。俺の手は血で赤黒い。
「そんなことないよ。働き者の良い手だよ」
櫻は自身の手を見せてきた。採点ペンで指先が朱色に染まっている。櫻の手は学校から帰ってくるといつも指先が朱色だ。
「私の手は、ほら。赤いの血の色で……」
虚な目で自分の手を見る。
やめてくれ。その動きは……。
自分の手を見始めたら………。
「採点ペンの跡やろ。寝とき」
そう言って、部屋を出る。
「ロッキーは櫻子と一緒にいるでしゅ!大丈夫でしゅ!櫻子は熱でうなされているだけでしゅ」
ロッキーの大きな瞳が俺を捉えた。泣き出しそうに潤む瞳。
そんな顔しやんでくれ。
「ああ、頼むわ。俺は病院を探すな」
リビングでスマホをいじる。
もう、どこも午後からだな。
基本、夕方から診察か……。
俺は、三条さんにも連絡した。
【お疲れ様です。突然ですが、櫻が過労で熱を出して】
そこまでメッセージアプリを打って消した。送信した瞬間飛んでくるのが目に見えてる。
そして、原因を作った徳田さんと喧嘩する。
徳田さんと三条さんが本気でぶつかり合ったら、紀州が更地になってしまう。
丸山さんやな……それか、豊富さんか……。
豊富さんはダメだ。西林さんに聞かないと何も分かってない。
俺は、消去法で丸山さんにメッセージを送った。
そうして、伊能に連絡をしたり、櫻が安心して休めるように書類を片付けたりして。
病院の診察時間まで忙しなく動いた。




