第八十七話 捕えられた蝶
『菊理姫様!お導きを!』〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます。〜
主人公櫻子とヒロの出会い編スタート!
毎日23時更新!
時系列
〜しくじり元公爵令嬢とこじらせ忌守君〜
〜英雄の誕生〜 ←鬱展開あり閲覧注意
〜定時で帰りたい領主は、今日も魔法犯罪に追われます〜
大広間の中央には、紀州の内宮の結界の場所を記した大きな地図が広げられていた。
山脈や河川、街道に沿って記された地名。その上には、捜査対象となる施設を示す札がいくつも置かれている。
「これが全て華丘家関係なんですか?」私は、最近送られてきた資料を照らし合わせながらその札を見る。
「いや、安宮派の有力者に施設全てだ」徳田さんがサラリとそんなことを話す。
「はぁ?そんなことを言ったら紀州の内宮全て開いて調べないといけないじゃないですか!?」思わず大きな声が出る。
「その通りだ!櫻子君!それが一番早い!」
「それが一番遠回りですよ!効率悪いです!」
「じゃ!どうするのだ?」
「情報を整理してですね……」
「そんなチマチマやっているから賊が付け入る隙ができるのだ!」ドンと机を叩く徳田。
「派手に動いてこちらの動きが読まれるのも問題があります!」私も机をバンと叩いた。
「なら、櫻子君。君ならどうする?」徳田さんが腕を組んだ。
大量の書類。内宮に関する資料。これを今から取捨選択する時間はない。
「伊能君!」私は伊能を見る。
「はい!伊達三等魔佐!」オタクが完璧な軍人スタイルで返事する。
「華丘家のもの以外の書類は避けてくれ」
「もう振り分け済みです!」元気よく知らせて欲しくないことを元気よく話された。
「振り分けてこれかぁ……」私は肩を落とす。
「本家筋とそうでないものを分けたらどうや?」ヒロがそんなアドバイスをしてくれた。
「そうやな……あと……特に華丘瑠璃って子の家やな……」
「それが……こちらでございます」そう言って、両手で書類の束を執事の如く差し出す伊能君。
「あぁぁぁぁぁ!」私の喉から絶望の声がなる。
そうして、天を仰いだ。
チラリとヒロを見るとヒロも天を仰いでる。
「な!上から順に潰した方が早いであろう?」クレイジージジイが何か言っている。
「それにしても、華丘家一族多くないか?」私がそもそも現代大和らしからなぬ一族の数を見る。
「これほど多かったら簡単に全員が安宮派になびかないと思うけどな……」そうして、書類を見る。
ヒロが顎に手を置きながら考えている。
おもむろにマジックバッグから手帳を出してきた。
「なぁ?華丘家ってお家騒動みたいなのないん?」そんなことを尋ねる。
「どうかな?」
「この前、遺留品からこの当主の華丘景房って男は…安宮派か大和派かで実の父親と揉めていたそう記録しているで」ヒロは手帳を見ながらそんなことを話す。
私は書類の束を見た。そうして、考え込む。
「確かに……これだけの一族だ。二つに分かれる方が自然」
私は、一枚書類を持ち上げた。
華丘千尋。
私が殺さずに逃した少年。あの時、保護をしていたら……テロリストにならなかったのだろうか?
しかし、当時の情勢を考えると……。
私は、何人もの子供も処刑されたのを知っている。
中には服役中に命を断つ者も……。
当時の法務大臣……長谷川平蔵様はやりすぎていた。
ーーーー。
まだ肌寒い二月の空。
しかし、春の訪れを知らせるような梅の香りが心地い。
梅林の中、私は一人の老人の後ろ姿を見ながら歩く。
葡萄茶色の気長しを着ている。
髪を後ろに撫で付けて、中折れ帽を被っている。
そうして、煙管を燻らせながら大輪に咲いた梅を愛でていた。
「櫻子って名前だけどぉ、俺は、櫻嬢ちゃんは梅の方が似合うと思うけどなぁ」そんなことを話してきた。
「なんで、この名前のなのでしょう?わたくしも知りません。亡くなった母がつけたそうです」そうして、白梅の可憐な花を見た。
「導子嬢のことだ。きっといい意味があるだろうよ」ぶっきらぼうに話す男性。
長谷川平蔵様
その暖かな藤色の瞳が私を見ている。
私のお母様、伊達導子の叔父上。
「教育伝達者になるって?」
「ええ……やはり、おかしいでしょか?」私は自分の手を見る。
手が真っ赤だ。
「人の命を奪ってきたわたくしが子供たちの師になるなど……」
「そんなことねぇよ。人の罪は消えねぇ。でも、罪をいつまでも背負うこともねぇ」そう言って、煙を吐いた。
「櫻嬢ちゃんみてぇに言うんなら“罪を犯した人は、その後の全てを諦め苦しみ生きよ、とは言わない。しかし、罪は消えない”こう言った方が櫻嬢ちゃんの言の葉らしいかな」そう言って、ふっと笑った。
そうして、煙管を咥える。
私はその初老の聡明な人の顔をまじまじと見た。
藤色の瞳は細く凛々しい。
深く刻まれた皺はその一本一本に歴史を感じるようだ。
「そんなに爺様の顔をまじまじと見るもんじゃねぇよ」照れくさそうに煙を吐いた長谷川様。
「櫻嬢ちゃんは、これからさね。もし、罪が気になるなら俺が貰っていくよ」
そう言って、長谷川様は一輪の梅の花にそっと手を置いた。
はらはらと散る梅の花。
その姿を小首をかしげて見るしかなかった。
私はその長谷川様の言葉の意味を理解できなかった。
理解できたのは………数ヶ月後だった。
内乱が終わり、全ての罪人の処分が決まったら
魔封じの首輪をして
介錯人も付けずに
切腹をしていた。
もがき苦しんだ後が惨たらしかったとヒーラーが話しているのを聞いている。
ーー罪が気になるなら俺が貰っていくよ。
その言葉が頭に響いて、しばらく離れなかった。
ーーーー。
「櫻」ヒロの声に私は顔を上げた。
目の前には、相変わらず大量の書類が積み上がっている。
梅の香りはしない、その代わり、カビの匂いがツンと鼻をつく。
「……ごめん。ちょっと考え事をしとった」
「眠いんちゃう?」
「それもあるかも……連日!大量の書類が回って来るんでねっ!」そう言って、徳田さんをひと睨みした。
そっぽを向くクレイジージジイ。
覚えていろよ!これが終わったらお前のポケットマネーで高い酒を大量に飲んでやる!
手元の書類に目を落とす。
「華丘家が安宮派についたのは意外だったみたいやな……当時のことをよく知っているのは……」
そこで、徳田さんを見た。
「ああ、ヒーラーとして外宮の者も治療していたぐらいだ。しかも格安で」
「外宮の人を……華族以外も治療していたということですか?」私は以前ヒロに教えてもらったことを思い出す。
内宮の病院は華族専用
「かなり、慈悲深く困っている者を見るとほっておけない御仁だった」徳田さんが腕をおろし、一枚の資料を見せてきた。
華丘清房
魔素神経内科医の名医。
特に暴走した魔素神経を抑制する薬の開発には妻の初江共に功績を残している。
さらには、外国の賞も数点受賞。
人柄は温厚で患者も分け隔てない。
子供が12人!?
「え!子供が12人!」思わず声に出る。
「実子以外に10人だ」
徳田さんの声で顔を上げる。
「華丘殿は能力を認めたものは一族に引き入れる。だから、血が繋がっていない兄弟縁者がこれほどまでに多いんだ」書類の束を見てため息をつく徳田。
どうやら、クレイジージジイも困っていたようだ。
「実子と養子の間に争いは?」
「表面上はない。でも、腹の底までは……」
「だから、殺されたわけですもんね。息子に」
ほんま、華族の方が野蛮や。
「大和軍に入りたかった者は……おらんかったのか?なんで、トップが変わったからっていきなり……」そう呟き私は自分の顎に手を置いて考える。
「櫻子姫様は本当に蝶よ!花よ!とお育ちになられたのですねぇ」ヒロがそんな私を見てからかいはじめた。
「は?何が言いたいんよ?」
「奴隷紋使ったんやろ?一族にも、ほれ」そう言って一枚の資料を見せてきた。
そこには内乱で死亡した者の記録と写真がある。
そこの首筋に蜘蛛の巣と蝶の火傷の後が見える。
憎悪と嫌悪感が身体中をのたうちまわった。




