囮作戦
爆発龍対龍神様。ファンタジーの世界の命運を賭けた世紀の決戦!
「うぐ…… 何と言う圧力。クソ! 」
どうやら爺さんが押されているよう。
ファンタジーの神であり龍神様の爺さんは無敵じゃないのか?
まずいぞ。これでは堪え切れない。
おいおいしっかりしてくれよ! こっちは跪いてるんだからさ。
つい心の声が漏れそうになる。危ない危ない。爺さんのやる気が削がれるぞ。
それにしてもなぜここまで? それほど爆発龍は強いのか?
「強いな。お前はまさか…… 」
爺さんが語ろうとするが構わずに火を吹く爆発龍。
ルール無視の反則プレーに走る爆発龍。
これは最低最悪だ。当然戦いにルールもきれいも汚いもないが。
それにしたってイカレてないか? もう人間の心を完全に失ったらしい。
「まずいぞ。奴らは正気を失っている。これはまずい…… 」
そんなこと言われなくてもは前から分かってたこと。
せっかくの救世主がまったくの期待外れではどうにもならない。
「神様これを! 」
セーフティゴーグルを渡そうとするが制される。
「いやいい。最新のがあるからな。ほれお前も一つやろう」
意外にも真面目に改良してたらしい。さすが商売上手。
だが神の力があればいくらでももっと早く簡単に作れると思うけどな。
すると動きが遅いのはやっぱりこの爺さんが手を抜いてることにならないか?
「ありがとうございます神様! 勝利を頼みます! 」
これ以上は戦いの邪魔になる。僕らは離れたところで見守るとしよう。
「うむ。任せろ。神に二言はない! 」
そう言うとセーフティゴーグルを装着。これでガードは完璧になった。
たとえ倒せなくても持ちこたえることぐらいはできるだろう。
しかし見た目が爺さんだから不安なんだよな。持って後一時間ぐらい?
このまま続ければ確実にやられる。ぼうっと見守っていればこっちが危ない。
急いで次の手を打つしかない。でもどうする?
父さんだって何も思いついてないみたいだし。クソ! 困ったぞ。
一時間が経過。応援の甲斐なく爺さん劣勢。明らかに疲れて来たのが分かる。
ここまで耐えたのも奇跡に近い。もう年なんだから無理するなよ。
ファンタジーの神であり龍神様の爺さんでも無敵ではなく間もなくやられる。
それが現実であり運命ならば受け入れるしかない。
さあこれからどうするか。
「逃げるか? 」
父さんのシンプルな提案。ただ僕たちは一応冒険者であり勇者だ。
その自覚を失くしてはいけない。逃げることは負けを意味する。
でもここで逃げないと世界は終わってしまう。それでは意味がない。
すると賛成するしかないのか。うーん。主人公で勇者だと立場上何とも。
「よし。それしかねえな! 」
テルファーが賛成するとハイもそうするかと消極的。
ゾークもアンも従う。仕方ないか。だったら僕だって。
父さんを先頭に夜道を戻る。こうすればあいつらだって追いかけてこないだろう。
一時退却だ!
ゆっくり慎重に。気づかれないように気づかれないように。
もちろん爆発龍は爺さんと戦ってるので基本的には大丈夫なはずだ。
こうして時間を稼いで対策を練ることに。
退却は一時的なもの。爆発龍から逃れても世界を滅茶苦茶にされるだけ。
時間稼ぎをしてベネットの人たちを犠牲にするのは耐えられない。
だからどっちみち僕たちは戦わざるを得ない。分かり切ったこと。
僕たちに残された時間は僅か。だからって当然誰もどうすることもできないが。
神にも敵わないものが僕たちでどうにかなるはずがない。
「カズ君主役でしょう? 必殺剣か奥義ないの? 」
ゾークはこんな時ばかり主役だと頼る。いや考えてどうにかなるものではない。
大体主役でいい思いしたかと言うと…… あるかも。でもその分辛い思いも。
「そうだぞカズ。お前も竜人なんだろう? 」
ハイまで人任せ。力ならハイのはずなのに。
僕はどちらかと言うと知識と戦略で勝ってきた知将。
主に父さんとハイが足を引っ張るのをどうにかしてきた訳だけど。
「そうだぜカズ! お前が何とかしろ! 」
テルファーまで。嘘だろう? 一旦逃げて来た奴らの言うセリフか?
皆どこまで人任せで自分勝手なんだよ。
「一年待ってくれ! いや半年だっていい。だから頼む!
その間にたくさん修行して誰にも負けない強さを身に着けるからさ」
ついに決心するがそれではどうも許してくれそうにない。
その間に世界は無茶苦茶になると言われてしまう。
「ほら囮を決めろ! 俺たちが完全に逃げ切れるよう囮になる奴を決めるんだ!」
非情な父さん。まさか僕たちで選べと言うのか? そんなの選べるはずがない。
「でもハイに悪いし…… 」
「何で俺なんだよ? カズでいいだろう? それが無理ならゾーク」
意外にも分かってる。これ以上さすがに騙されないか。身代わりはもう無理そう。
「仕方ない。テルファー! 」
ここは涙を呑んでテルファーに頼む。それが父さんから受け継いだ非情さ。
「馬鹿野郎! 誰が囮になるかよ! 」
本音が出たところで父さんが急かす。
「いいからお前たちの中で囮を決めるんだ。もうそんなに時間がないぞ! 」
さすがによく分かってる。でもそれでも自分はやらないと。
「ごめんねアン…… 」
ついとんでもないことを言ってしまう。でも優しいアンのことだから笑顔で……
あれ…… 余裕がなくなったのか顔がみるみる青くなっていく。
「ごめんなさい。お母様にそのような遊びは許さないと口酸っぱく言われてるの。
本当は助けてあげたいんですが言いつけは守らないと…… 」
ここに来てアンまでが醜い人間性を見せ始める。聖女ではないようだ。
人に押し付けて自分は助かろうとするアンもやはり普通の女の子。
それが悲しいが人間さ。僕だって囮など絶対嫌だからな。
でも誰かがならないと全滅は避けられない。
このままでは埒が明かないので多数決で決めることに。
文句ないだろうさ。ただ僕になりそうな気がする。
「カズ君がいい人? 」
何とハイとゾークが裏切った。しかしなぜか父さんは手を挙げない。
「テルファーがいい人? 」
父さんが何の躊躇もなく手を挙げる。これで残すは三名。
「父さんがいい人? 」
「ハイ! 」
合計三名。父さんに決定!
「お前たち後で後悔することになるぞ! 」
まるで負け犬の遠吠えのようだがそれでもなぜか余裕がある。
「ほら行ってこい! 」
テルファーから荒い送り出しを受ける父さん。
多数決だから仕方ないさ。今更ごねられない。
「ほら行くぞカズ! 」
なぜか引っ張られていく可哀想な僕。
「父さんどうしてそっちに走るの? 」
「いいんだって。奴らはジグザグには追えないんだ」
竜人の特徴を熟知している。当然か。父さんも竜人。僕だって竜人さ。
竜人には竜人で対応するしかないか。
「おい来やがったぞ! どうやら爺さんは疲れたらしい」
まずいな。するとファンタジーの神は消された?
願いを叶えてもらった恩を忘れて消すなんて酷過ぎる。
うぎゃあああ!
ダメだ。爆発龍となってはほとんど制御が効かない。ただの理性を失った集合物。
「こっちだ! こっちに来やがれ! 」
仲間を逃そうと囮に志願した父さんに僕。
息子だからか主人公だからか竜人だからかついて来いと無茶苦茶だ。
巻き込まれ型の僕はついに囮としての役割を果たす。
最終回前編に続く




