1-2 大体小説は最後の方になるとやる気をなくすもの
それから2カ月後。
「よし、終わり! これでエピローグまで完成だ!」
イーノスは基本的に書き始めたら一気に最後まで書いてしまうタイプだ。
彼は『自覚なき特権者と、姉妹の毒』を全て書き上げた。
「あんた、もうちょっと静かにしなさいよ」
大声で独り言を言っているのが聞こえたのか、母親シャーロットは少し迷惑そうに彼の部屋のドアを開けた。手には切ったリンゴを持っている。
「あら、もう書き上げたの? あんたの作品」
「うん。結構面白いと思うな。ネットでいろんなバズワードを集めてみたから、審査員の人も喜ぶかなって」
「バズワードってどんなの?」
「有害な男らしさ、シスターフッド、ハイヒールのない生活とか、そんな感じかな。少しでも皆が読んでくれるといいんだけどね」
手を頭の後ろで組みながらゲーミングチェアを揺らすイーノスを見ながら、シャーロットは少し不思議そうに尋ねる。
「あら? その小説、新人賞に出すんじゃなかったの? 原稿をプリントアウトして郵送するのが普通だと思うけど」
「あはは、古いよそれは。今使っている小説サイトがあるんだけどさ。そことタイアップしているから、タグを付けただけで応募したことになるんだ。……あ、美味しいね、このリンゴ。ありがと、母さん」
そういいながら、フォークをリンゴに突き刺して口に運びながら笑いかけるイーノス。シャーロットは自身もリンゴを口に運ぶ。
「それってつまり……新人賞を勝ち取らなくても小説を読んで貰えるってこと?」
「うん。……まあさ、こういうのって『異世界転生』とか人気のジャンルばかりが上位に上がるから、こういう作品はあまり読んでもらえないことも多いんだけどね」
「そりゃ、あんたの作品のジャンルじゃ難しいわよね。……で、ペンネームは本当に私の名前を使ったのね」
「へへ、いいでしょ。『マザー・シャーロット』って」
そう得意げに笑うイーノス。
そしてリンゴを全部食べた後、彼はニコニコと鞄からゲームソフトを取り出した。
「で、ようやっと僕も小説から解放されて、ゲームを始められるってわけなんだ。こないだ出た新作だから、もう早く始めたくってさ!」
「ったく……本当にあんたって変わらないわね。昔っからゲームゲーム……少しは外で体を動かそうとか考えないの? その腹、少しはひっこめなさいよ?」
普段イーノスは工場で肉体労働をしているが、その分食事量も年齢に比して多い。
そのせいもあり、現在は些か肥満気味となっている。……まあ、シャーロットも人のことを言える体格ではないのだが。
「いいじゃん別に。……よし、原稿も公開が終わったし。これで後は結果を待つだけだな。折角だし、母さんも一緒にゲームやらない?」
「ううん、面倒だからいいわ。……ほどほどにしときなさいよ?」
「はーい」
そういってイーノスはパソコンを切った。
そしてベッドにごろんと転がりながらゲーム機の電源を入れるのを見て、少し呆れたようにシャーロットは部屋を出ていった。




