21話 異世界の凝視/Otherworldly Gaze
どんな冒険も地道に一歩ずつ。
色鮮やかに渦を巻く四色の極光。世界と世界を隔てる壁を通過する虚無にして虚夢の形容しがたい感覚と共に、四人の魔剣使いは再びあの鬱蒼とした異界の森へと降り立った。
「────。来たな、みんなちゃんといるな」
光が収束しながら溶けていき、最初に目を開けたハルが周りを見渡す。仲間のナツ、アキ、フユの三人も、自身の魔剣を掲げて瞑っていた目を開いた。
昨日の転移は半ば事故のようなもので、転移直後は気を失っていたこともあって何が何だかまともに理解が出来なかった。
しかし、今回は──今回からは違う。明確な意思と意志をもって『ここ』に赴いたのだ。
各々の魔剣の力と、「異世界へ渡る」という気持ちの共鳴による異世界転移。そうしてたどり着いたのは、見覚えのある光景。木々の間隔が広い森林の空間だ。
「よかったー、みんな無事に飛べたんだね。しかも昨日と違って気を失ってもないし!」
「それに荷物も、ちゃんと来てるね⋯⋯。やっぱり、身につけてた物は、一緒に転移できるって、証明された⋯⋯!」
「ああ、みたいだな」
日本の八王子市の空気から、むせ返るような異世界のあの草木の匂い。まだあれから一日だというのに懐かしさすら覚える。
「⋯⋯なあ、みんなさっき異世界に飛ぶ瞬間、てか光に呑まれた時によ、この『森』をイメージしたか?」
四人全員揃っていることや手荷物もちゃんと一緒に転移していることを確認し合う中、アキが魔剣、《繁栄と衰微の剣》の刃先を周囲に生い茂る草木に指しながら口を開いた。
三人はアキの問いかけに同意の意を示す。
「うん、あたしはしたよ。なんていうか行きたい場所をイメージする、みたいな感じ」
「私も⋯⋯無意識に、そうしたかな⋯⋯」
「俺もだ。そもそも『異世界』といっても、この森以外の場所の知識が一切ないからな。ただ⋯⋯」
ハルは改めて周囲の光景を見渡す。見覚えがある森とはいえ、それは森の雰囲気という意味でしかなく、昨日の転移位置や行動範囲内と一致するポイントなのかは判然としなかった。
「昨日俺たちが過ごした場所かはわからないな。森の木の見た目も、周りとほぼ区別がつかない」
「ここ、森のどのへんなのかな? やっぱり昨日の場所とはちょっと違うっぽい?」
「目印とか⋯⋯ないもんね⋯⋯。一応、昨日のバケモノのボスがドロップした、おっきい謎の石、どこかにありそうだけど⋯⋯」
「あのデケえ隕石もどきな。つっても、この森のどこなのかもわかんねえし」
「なら今後の課題だな。次に異世界転移する時は、わかりやすい『目印』をつけておいて、その座標に飛べるかだ」
ハルは詳しい考察と次に向けた検証事項をまとめ、三人に説明する。
「四人とも昨日の森を漠然とイメージした結果ここに飛ばされたんだとしたら、次はより具体的に⋯⋯だ。全員が同じモノを思い浮かべて転移することで、より確実に『任意の場所』に出られるかどうかを検証する必要がある。今後の死活問題にもなりかねない」
転移先の出現地点がどこになるのか──それはハルが言った通り、書いて時の如くの意味で「死活問題」だ。
初回にしろ今回にしろ、森林だったからまだいい。これがもし大海洋のど真ん中、火口の中心、果ては宇宙空間といった、人間が生存できない環境にいきなり放り込まれれば、魔剣の超人化の有無にかかわらずゲームオーバーだ。
「うん⋯⋯! 力と意志の共鳴⋯⋯シンクロが転移のカギだもんね⋯⋯! こっちに異世界転移する時は、みんな同じモノをイメージして飛べば、いけそう、かも⋯⋯! つまり、『ブックマーク』だね⋯⋯!」
「おお、ルーラみてえだな! 二つの世界を行き来する日々を送るんなら、ちゃんと『狙った場所』にピンポイントで出てこれるかは、メッチャ大事か!」
「んー、じゃあ一回日本に戻って、もっかい異世界飛んでみる? あたしたちの荷物とか置いといて、それ目印にするの」
「それもいいんだけどな⋯⋯。この異世界転移、感覚的な話⋯⋯これもエネルギーをそれなりに消費するらしい。みんなそんな感じはしないか?」
ハルは自身の《楽園と冥府の剣》の黒い刃に視線をやる。
魔剣を顕現化している現在、四人の高校生たちはバケモノをもいとも容易く葬り去る理外の超越者と化している。だがその力の持続時間、有効許容量といったリソース面は有限であることは、既に何度も話し合ったことだ。
「あー、言われてみりゃそうかもしれねえ。数字とか出てくれりゃわかりやすいんだけどな。昨日の『ステータスオープン!』が上手くいってりゃなー」
「アキ⋯⋯っ! またそのネタ⋯⋯っ! いつまで引っ張る気なの⋯⋯っ!」
「へへ、悪い悪い⋯⋯って魔剣こっち向けんなコエーよ! 冗談だって! いやホントすんません!」
「ふふ⋯⋯私も、冗談だよ?」
「いや目ぇ笑ってねえっつーの!」
意地悪な笑みと視線を向けられ、またしてもプリプリと憤慨を露わにするフユは、痴れ者に突きつけた《真実と欺瞞の剣》を下ろした。異世界でも相変わらず愉快な様子に、ナツは朗らかに笑った。
「あはは! ⋯⋯んー、でもそっか。つまり、異世界転移だって魔剣の力に限りがあるのと同じで、あんまりポンポン連発はできないかもってことだよね?」
「ああ、だからブックマークによる『チェックポイント』を対象とした転移の確認は、次に日本からこっちに来る時にしよう」
「オーケー。なら今からどうするよ。探索するにしてもこの森、どこになにがあんのかも、どんくらいの規模の広さかもわかんねえし⋯⋯いや、待てよ?」
アキは少し考える素振りを見せた後、思いついたように魔剣を天に向かって掲げ上げる。
「そうだっ⋯⋯ハイジャンプだ! 今のオレらなら魔剣パワーでメチャクチャ高く跳べるじゃねえか! だったら森の木より高く跳んで、空から周りを調べられるかもしんねえぜ!」
「あーなるほど! アキ冴えてんじゃん!」
昨日アキが気絶したハルを大樹の枝に避難させるために超跳躍したり、ワニ頭の怪物がハルを狙って捨て身の特攻をした際にフユが高速の大跳躍で阻止したことがあった。
つまり、高空からの見下ろしによって方角や地理関係を確認できる期待があった。
「やるなアキ、なら早速試してみるか」
「あたしもあたしも! 経験が活きたねー!」
「昨日は割と切羽詰まってて思いつかなかったかんなー」
「やってみる価値⋯⋯ありそうだね⋯⋯っ」
四人は荷物をドサドサと地面に下ろし、身軽な状態になる。昨日はアキが身長差のあるハルを抱えて特大ジャンプをしてみせたが、少しでも到達点が高くなるよう考慮するに越したことはない。
「じゃ、せっかくだし、みんなで一緒に跳ぼうよ! どれくらい能力に違いがあるかもわかるし! せーので行くよー!」
快活な声でそう提案したナツが腰を深く降ろし、下半身に力と意識を集中させる。他の三人も頷いて同じ体勢を取った。
「せーのっ!!」
ドォン! という地を蹴る音を炸裂させ、魔剣を握ったままの四人の超人は、弾道ロケットのように勢いよく空高くへと飛び上がった。
重力を無視して一瞬にして十五メートル辺りまで到達する四人の魔剣使い達。しかし高さ的に、長大な大樹の頭葉の樹冠付近までが限界であり、空から地形を見下ろすまでは叶わない。
上昇が終われば当然、置き去りにした重力が四人をそのまま落下させた。
「っだぁー! ギリ無理かー! 行けると思ったんだけどな。つーか木ぃデカすぎんだよー」
「いや、アイデアは悪くなかったぞ。みんなの個人能力を測る物差しにもなったしな」
「あんまり差はなかったっぽいね、あたしたち。なんか能力的に誰が上とかは特にない感じ?」
「うん⋯⋯みんな、おんなじくらいの高さだった。アキがちょっとだけ高かった、かな? レベルアップしたら⋯⋯これよりもっと、能力上がったり、するのかな⋯⋯? とりあえず、もうちょっと、色々工夫してみよ⋯⋯?」
アキ、ハル、ナツ、フユと次々に空中から地上に降り立ち、それぞれ所感を述べた。
「なあ、だったらよ、最初から高い位置からジャンプすりゃ行けそうじゃね? ほら、昨日ダウンしたハルを安置させた高いとこにある木の枝とか」
「アキ、多分それは難しいかもしれない。今思いっきりジャンプしてみてわかった。みんな足元を見てみろ」
アキの発案にハルが首を横に振り、視線を地面へと促す。土壌や草生した比較的柔らかい地面は、跳び上がる際の破壊的な踏み切りから放たれた大跳躍により、デタラメな力が加えられた証拠である軽いクレーターが出来ていた。
「跳ぶ瞬間に足場にかかるパワーが強すぎて、よっぽど太く丈夫な枝からじゃないと上手い具合に跳べないかもしれない。一応、いい感じの枝を探してみるか?」
「うーん、そういうもんか。まあ、昨日ハルを寝かせた時みてえなデカめの枝なら丁度よさげなんだけど⋯⋯あー、この辺りにゃ見当たらねえな」
「なら必然的にここは、同じ森であっても、昨日転移した位置やバケモノと戦った位置からは離れた場所ってことになるな。距離が遠いか近いかはともかく」
「そう⋯⋯っぽいね⋯⋯。太い枝と、近くにある、ドロップアイテムの大っきい石は⋯⋯それなりに特徴的だし⋯⋯。それで、次はどうしよっか⋯⋯?」
「! あっ、そうだ! あたしいいこと思いついた!」
前後左右もろくにわからない、異世界の地理関係の把握。おまけに森を形成する樹木の上背がいちいち高く、アキの提案である上空からの俯瞰を望むには、魔剣の超越化が漲る身体能力をもってしても容易にはいかないらしい。
そんな中、ナツは名案を思いついたように意気揚々と声を張り上げた。
「二段ジャンプだよ! ピョーンって跳んだ後もっかいピョーンって跳ぶの! 魔剣でスーパーマンになってるんだったら、そういう凄いスキルとかも使えそうじゃない?」
「いや使えねえよ、なに言ってんだお前⋯⋯」
「な、ナツ⋯⋯それじゃ、ホントにただの、アクション系のゲームだよ⋯⋯。超人補正でも、物理法則そのものを捻じ曲げられる⋯⋯ワケじゃないから、ね⋯⋯?」
「──! いや待て、行けるかもしれない」
アキとフユがナツの発案にツッコミを入れる中、ハルは数秒の思案の結果、彼女に賛同した。
「だよね!? ハルが言うなら行けるよ! やってみよ!」
「え? ハル、お前までマジで言ってる? ピョーン、ピョーンって連続で跳ぶ二段ジャンプだぜ?」
「ああ、大マジだ」
「いや、ゲームとかでよくあるアレだろ!? 空気を蹴ってジャンプすんのか!? 確かに魔剣発動中はオレらスーパー化してっけどよ、流石にそこまでは無理だって!」
「そういうことじゃない。『二人が同時』に跳んで、相方を足場にするんだ。そうすればもう片方の一人は、その地点からもっと高いところまで辿り着ける。これも一種の『二段ジャンプ』と言えなくもないだろ?」
「⋯⋯! あ、『踏み台役』と、『ジャンプ役』の空中コンビネーション⋯⋯! 確かに、それなら行けそうだよ⋯⋯っ!」
「あ、あれ? 二段ジャンプって、そういうやり方なんだ。普通にピョーンピョーンは無理かぁ⋯⋯」
「って言い出しっぺのお前は気付いてなかったんかよ! でもまあ、アイデア出しとしちゃあ上出来だぜ! ⋯⋯ん? いやちょい待てハル」
「どうした?」
つい数十秒前に言及されたばかりの重要事項をハルに指摘するアキ。
「さっき言ってたろ? 跳ぶ時の足元にかかる力がスゲェって。魔剣パワー発動中は身体能力がえげつねえことになってんだ。なら『二段ジャンプ役』はともかく、『踏み台』になるヤツはかなりヤバくねえか?」
「! あ⋯⋯そう、だね。地面が、こんなことになってるし⋯⋯足場になる人にかかる反動と圧力は⋯⋯凄く強いと思う⋯⋯」
「踏み台役が大ダメージを受けるかもってこと? じゃあやっぱダメなんじゃ⋯⋯」
「いや、運動面だけじゃなく、耐久面もある程度は超人化補正でカバー出来てるはずだ。もちろんそれでもリスクがあるのは承知の上だ。だから踏み台は俺が──」
──ハルがそこまで言いかけた、その時だった。
唐突に空より舞い降りる複数の大きな影。
樹冠の葉を揺らす空気の風圧と鳴動。
この異世界に来てから二度目──いや、三度目となる、『異形の怪物』とのご対面だった。
※読み飛ばしOKのおまけ
タイトル名の《異世界の凝視》は、諜報3を行ない、更に2マナで墓地からのフラッシュバックでもう一度使える、青の1マナインスタントカード。
ドローこそできないが、文字通り『異世界』をよく知るために最初の一歩としてよく観察するためと、一回目は上手くいかなくて二回目はやり方を工夫して行おうというカード名、カード効果、プロットの複数のミーニングの噛み合わせ。




