表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】次はどなたの婚約者になればよろしいんですか?え、王太子ですか!?~たらい回し令嬢は、気づけば伝説になっていました~  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/4

第二話 偽装婚約者から舞踏会の盾役へ。

 雑に使われているな、と自分でも思う。

 だが住環境は快適である。

 快適さは重要だ。


 ところが、その件は二ヶ月で終わった。

 マリアンヌが「やはり別の方を好きになりました」とあっさり去っていったからだ。

 レジナルドは三日落ち込み、四日目には立ち直った。


「本当にすまなかった」

「お気になさらず。新刊は大変よかったです」

「君はもっと怒ってもいい」

「怒って状況が改善するなら考えます」


 レジナルドは深く項垂れた。


 そのやり取りを見ていたグラン伯爵夫人は、ある日の午後、エレーヌを私室に呼び出した。

 美しく、賢く、そしてこの家の実質的支配者である人だ。


「エレーヌちゃん、お願いがあるの」

「ろくでもないお願いの時の笑顔ですね」

「あら、もう見抜けるようになったのね」

「半年もいれば」


 伯爵夫人は満足そうに頷いた。


「今月末の王宮舞踏会に、レジナルドの婚約者として出てほしいの」

「またですか」

「またなのよ。本当に困った子で」


 今度は、どこかの令嬢がレジナルドの親切を好意と勘違いし、その兄が大層腹を立てているらしい。

 エレーヌが公式の場で隣に立てば、余計な誤解を鎮められる。

 要するにまた盾である。


「ご安心ください」


 エレーヌは紅茶を置いた。


「私はすでに、使い回されることに慣れました」

「言い方」

「事実です」

「でもあなた、嫌そうじゃないのよね」

「書庫予算が維持されておりますので」

「それでいいの」

「今のところは」


 伯爵夫人は吹き出した。

 そして真顔に戻る。


「でも、ありがとう。あなたがいてくれて、本当に助かっているわ」

「……そう言われると、少し困ります」

「どうして?」

「雑に使われている自覚はあるのですが、感謝までされると怒る理由が減りますので」

「まあ」


 伯爵夫人はひどく楽しそうに笑う。


 舞踏会の夜。

 深い翠色のドレスを身にまとい、髪を整えられ、翡翠の首飾りまでつけたエレーヌは、鏡に映る自分を見て少し驚いていた。

 案外、自分もそれなりに見えるものらしい。


 だが王宮の大広間に足を踏み入れた瞬間、その感慨は吹き飛ぶ。

 眩しい。人が多い。音楽が大きい。

 早く帰りたい。


 笑顔を貼りつけて立っていると、不意に低い声がした。


「楽しんでおられますか」


 振り返るとそこにいたのは、藍色の礼服を纏った青年。

 端正な横顔、研ぎ澄まされた雰囲気、そして一歩下がった位置に控える近衛たちの緊張した空気。


 隣でレジナルドが凍った。


「エレーヌ」

「はい」

「王太子殿下だ」

「……あ」


 書庫の肖像画で見たことがある。

 本物の方が疲れて見える。


 エレーヌがとっさに淑女の礼を取ると、王太子アルベールはわずかに目を細めた。


「その反応は、私が誰だかわかった上でのものですね」

「肖像画で拝見したことがございます」

「似ていましたか」

「ええ。ですが」

「ですが?」

「本物の方が、お疲れのように見えます」


 周囲の空気が一瞬で固まった。

 レジナルドが目を見開く。

 近衛たちも息を呑んだ気配がした。


 普通なら口にしない。

 王太子に向かって、初対面で、疲れて見えるなど。


 けれどアルベールは怒らなかった。

 むしろ、少しだけ驚いたように瞬いてから、ゆっくり笑う。


「そう見えますか」

「はい。もし失礼でしたら申し訳ございません」

「いいえ。初めて言われました」

「皆様、思っていても仰らないのだと思います」

「でしょうね」


 その笑みは、先ほどまでの儀礼的なものより少し柔らかい。


「では改めて。楽しんでおられますか」

「正直に申し上げてもよろしいでしょうか」

「ぜひ」

「少々、情報量が多いです」

「情報量」

「照明、音楽、装飾、人の数、視線の数、全てが多くて」

「なるほど」

「知的好奇心は刺激されますが、長居には向いておりません」

「王宮の舞踏会への感想としては、かなり珍しいですね」


 アルベールは肩を揺らして笑う。

 その笑いは、不思議なほど自然に見えた。


「一曲、お相手願えますか」

「私でよろしいのですか」

「あなたがいい」


 ざわめきが広がる。

 レジナルドはもはや声も出ない。


 エレーヌは観念して手を差し出し、曲に合わせて踊りながら、アルベールは言った。


「あなたは面白い方ですね」

「それは褒め言葉でしょうか」

「ええ。私の周囲には、私を退屈させない人間がほとんどいないので」

「それはお疲れにもなるでしょうね」


 アルベールは今度こそ、はっきりと笑った。


 翌日、王太子からグラン家へ手紙が届いた。

 エレーヌ宛てである。


 伯爵夫人はそれを見た瞬間、椅子から立ち上がる。


「まあ、まあまあまあ!」

「どうかなさいましたか」

「王宮にお茶のお誘いよ!あなた個人に!」

「何かの間違いでは」

「王太子殿下の直筆で間違えることなんてある?」


 なかった。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



こちらの作品もよろしくお願いします
▶ 婚約者の浮気現場に遭遇しましたが、一向に終わらないので証人を集めてきました
異世界恋愛/婚約者の浮気/修羅場コメディ/証人集め/婚約解消/冷静令嬢/ざまぁ/ハッピーエンド
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ