↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
神を滅ぼす機巧人形編
58/62

第2章 第53話 魔王を凌駕する不完全

 僕は賢い人間ではない。

 どこぞの意地汚い女神様の都合で、〈邪神族〉に人体改造され転生をしたので、人ですらない。

 まあ、そんな種族の定義など、この際どうでもいいし、何なら然程気に留めていないのだが――。

 とどのつまり、僕は阿呆である。


『今更、改まって自己紹介をしだしてどうした。お前が考えなしの阿呆なのは、いまに始まったことではないだろう。お前は元来、阿呆……途方もない阿呆だ』


 そう何度も、連呼しないでもらいたい。

 傷付いてしまうよ。


『馬鹿言え。お前がそんな繊細なわけあるかよ。それに、言い出したのは……自虐したのはお前だろうが。あと、人体改造ではない。ノワールの身体に施したのは、もっと尊いものだ』


 ほう、そうなんですか。

 失礼しました。


『俗に言う、呪物生成である』

「言わないでしょ、俗には」


 聞いたことがないし、僕は呪物だと思われているのか。

 そんな禍々しい根源を宿してはいないのだけど。


『私だ』


 メノア様が堂々と言った。

 方向性としては間違ってはいないと思う。

 ――だが。


「メノア様は呪物というより、僕のことを盗聴や盗視しているストーカー予備軍かと」

『どれも私に当て嵌まるな。うむ、流石は稀代の女神、メノアである』


 ハハッ、とメノア様が高笑いした。

 何が流石なのかは、追求しないのでおこう。

 どうせ、陳腐な持論しか返ってこない。


『それで? なんだって急に自画自賛したんだよ』


 自画自賛をした記憶は無いですが、僕が自身を阿呆と批判したのには理由があります。

 へー、とメノア様。

 明らかな無関心。

 聞いてきたのは、メノア様なのにな。

 僕は阿呆です。


『愚鈍な』


 ですが、そんな僕でも――

 僕だからこそ、解る理論がある。


『何が理論だ。ただのお人形遊びだろ。遊びに定めれた理論も筋が通った方程式もありゃしない』


 あはは、と僕は内心で微苦笑する。

 距離をとり対峙している漆黒の騎士、ガイアを見た。

 子供のお人形遊び、というには少々歳はとり過ぎているが。


 ――チラリ。

 妖亜(ようあ)を一瞥すると、彼女はニマニマとこちらを観察していた。

 視線をガイアに戻し、僕は柄を握る掌に力を入れる。


「メノア様の仰るように、お人形遊びに変わりはありません」

『当然だ。私の見解に間違いなど無い……いつだってな』

「しかし、この無垢なお人形さんには……そう、不純物が混入している」

『無垢……?』


 対象の魂さえ精査し解析する、僕の《魔眼》――《深純(しんぜん)の魔眼》には、全て映っている。

 ガイアの外側と内側。

 傀儡の騎士となった元の素材が。

 《深純(しんぜん)の魔眼》で見えた、僕の視界。

 ゆらりゆらり、と朧げで微弱な波が、騎士の中で揺れている。

 その周りに幾つもの、判別が難しい雑然とした色合いが溶け合っていた。


 妖亜(ようあ)は言っていた。

 数万の奴隷を生贄に完成させたのが、ガイアとヴェガだ、と。

 この歪に溶けている色が、用いられた奴隷の魂なのだろう。

 年齢や性別、人種でさえバラバラなそれら。

 ただ《魔法》で融合するだけでは、器とする騎士甲冑に押し込めた途端、魂が混ざって大変な事態になる。

 下手をすると、魔力で繋がっている術者の妖亜(ようあ)の魂にも悪影響が出るかもしれない。

 魂とは、繊細な代物だ。


『お前と違ってな』


 故に、その扱いは人外の領域。

 魂に干渉する秘術を扱えても、制御する力量が備わっていないと、破滅的な結果となるだけ。

 そこに関しては、妖亜(ようあ)の十八番だ。

 どういった工程で騎士を生み出したのか問い質しはしないし、その猟奇的な所業を糾弾したりもしない。

 だが、彼女の手際の良さには素直に感心する。

 月並みの融合系統の《魔法》程度では、魂が壊れて終わっていた。

 そうならず、歪み合った哀れな魂を有効活用している手腕は見事なもの。


『感心してる場合か?』


 と、メノア様が口にお菓子を含ませた状態で注意する。

 前動作無しに、ガイアが接近した。

 その巨体に似合わず、随分と身軽な動き。

 全身を固める鎧と同様に、漆黒に輝いた長い得物が煌めいて――

 キィンッ!! と甲高い音と響かせ、僕はロングソードを暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスで上に弾いた。


 僕は間近で、瞬時に分析を済ませる。

 ガイアが手にしたロングソード。

 これは甲冑と一緒に用意された市販品。

 特段、警戒をするような能力が隠されているわけでもない。

 それでも、魂の受け皿に使われる位なので、耐久性や魔力との互換性はあるようだが――。


「こんなとこにお金使うなら、自分で戦えばいいのに。経費の無駄でしょ」


「あははは~、私は商会の会長ですので~、雑事は他人に丸投げするのですよ~。汚れ仕事はしない。責任は部下に押し付ける。これ、経営者の美学です~」


 僕の呟きが風に乗って聞こえていたらしい妖亜(ようあ)が、ピンと指を立て語った。

 《悪戯な精霊の隠れん坊(クースハイシスト)》で、ガイアから離れる。

 瞬間、ガイアの姿が横にブレる。

 意識を向けていた僕は鋭敏に対応。

 ガイアの急接近、そしてロングソードの横薙ぎを予測して、暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを振った。

 しかし。


 ――ブラフ。


 ガイアの気配があるのは、背後だ。

 気付いたときには、僕の首筋に漆黒の鋼が添えられていて――。

 ロングソードの厚い刀身が、細い首に接触。

 金属が弾け飛ぶような音が耳元で鳴った。

 それはガイアの振るうロングソードが折れた音だった。

 宙に舞った刃先が、地面に刺さる。


 僕は何もしていない。

 簡単な理屈だ。

 ロングソードの強度が、僕の《魔力障壁(アマリルカ)》に負けた。

 妖亜(ようあ)の技術により改造された移動速度は、驚異的と言える。

 僕でも気を抜けば、見失ってしまう。

 加えて操られる人形でありながら、戦闘に於いて相手の虚を突ける思考力。

 妖亜(ようあ)が珠玉と紹介したのにも頷ける。

 なかなかに高性能だ。


「……けど。贔屓が入っているね」


 僕は右足を上げる。

 その場で足踏みをした。

 ドゴオォォォォォンッ!!! と地表が弾け、そして裂ける。

 空間に凄絶な震撼を与えた。

 衝撃で足元が僕を起点に蜘蛛の巣状に割れ、ガイアの巨躯が中空に投げ出される。


「これは……」


 そう遠方で驚嘆しているのは、妖亜(ようあ)。

 ヴェガは主人を守るように構えていた。


 ――殊勝だね。

 と、僕は流し目を向けあざ笑う。

 何をそんなに驚いているのか知らないが、僕は《魔法》を使っていない。

 足を上げて、地を踏み抜いた。

 動作を言葉にすれば、それだけのこと。


「確かに、妖亜(ようあ)……君が言う通り、僕は弱体化している。……いいや、それは正しいとは言えないか。いまはまだ全盛期の力を取り戻していない……それが適切かな、うん」


 ――だけど。

 驚愕の眼差しで僕を見る妖亜(ようあ)に言ってやる。


「君の基準で、価値観で……僕を図るのが、そもそもの誤りだ。僕は不完全な段階で、既に〈魔王〉を凌駕している」


「……あっはは。何を馬鹿な……」


 そう反駁する妖亜(ようあ)の声には、力が入っていない。

 現実を認められずにいた。


「僕は馬鹿じゃない」

『そこはどうでもいいだろ』

「僕は阿呆だ」

『そこはどうでもいいだろ』


「妖亜(ようあ)君はさ。メフィストテスの命令で、僕に会いに来たんだよね? ありがとう、嬉しいよ」


 僕は衝撃の風圧で散った石片、その一つを手で掴む。

 掌の上で投げて遊びながら。


「それについて必死に弁明する気も起きないけど……メフィストテスは、相変わらず浅慮だね。ううん、短絡的かな? ……どっちでもいっか」


 メフィストテスの真意は、不可解だ。

 知ろうとも思わない。

 聞いたところで、僕の純粋な心では理解しがたいだろうし。


『そうだな。あの女狐の思想を考えるのは、人生の貴重な時間を無駄にする愚かな行為だ。私も分からん……純粋なのでな、ははっ』


 自分で言っていて、笑えてきたらしい。

 僕は石の破片をバシッと掴み取る。


「メフィストテスは一旦置いといて……君の目的は、メフィストテスとは異なるよね。過程で共通するから従っているのであって、別に全面的な忠誠を誓っているわけじゃない」


「あははははは~。悍ましいことを仰る。私がメフィストテスの臣下に下るなど、絶対にありえない」

「さん、が抜けてるよ」

「おっと、失礼~」


 そう形式的に謝罪を述べる妖亜(ようあ)は、しかし。

 細長い瞳に表れているのは、僕に対する警戒と畏怖。

 双方の感情が拮抗し、だがそれでも薄笑いで応じている。

 〈魔王〉としての矜持か、商人としての虚栄心なのか。


「君が誰に媚び売ろうと勝手だけどさ、商人を騙ってるんだとしたら、もう少し判断力を養った方が身の為だと思うよ」


「有難いご忠告を、どうも~。しかしながら、それは余計なお世話というもの。いやはや、ノワールさんは私を育てた昔の上司のような戯言を仰る」


『こんな死刑囚も真っ青の変態野郎を部下にするとは、どこの物好きだ』

「悪気は無かったんだ、ごめんね。……だけど、事実だしさ。君は……取引する相手を間違えた」

「何を……っ!?」


 僕は軽い力で、手首をスナップさせる。

 ――シュンッ!

 と、小さい石が風を切った。

 弾丸に迫る速さのそれが、妖亜(ようあ)の耳を掠める。

 一瞬遅れて、妖亜(ようあ)が苦悶の表情で指示を飛ばす。


「ガイア……ッ!!」


 怒鳴られた騎士は、だが――。

 呼びかけには応えない。


「残念。もう斬ったよ」


 投石で意識が逸れた間に、《悪戯な精霊の隠れん坊(クースハイシスト)》で妖亜(ようあ)の間合いに入った僕が告げる。

 後方、濃霧が被さり土煙が舞い散る上空で――。

 粉々に裂かれる騎士甲冑。

 その中身は人ではないので、肉は無い。

 代わりに、蒸気のような白い湯気が排出され霧散した。

 ガイアと名付けられた器に入れられていた、魂だろう。


「……ッ!! ヴェガ……ッ!! 何をしているのですッ!! さっさと、その不良品を壊しなさい……ッ!!!」


 ガイアの死に狼狽した妖亜(ようあ)。

 だが、激情に駆られヴェガに命じる。


「凄い取り乱し様だね。さっきまでの余裕はどうしたの? 観客気分で見てたじゃん」

「――ッ!!」


 下からの切り上げを、妖亜(ようあ)が身を反り回避した。

 僕は追撃せず、《悪戯な精霊の隠れん坊(クースハイシスト)》を使う。

 いましがた僕がいた所に鋭利な漆黒が突き刺さっていた。

 ヴェガがロングボウに矢をつがえている。


「良いね。剣より、そっちの方が僕好みだよ」


 僕が口角を上げると同時、弦が撓み矢が放たれた。

 鈍色に漆黒が塗られた鏃が、僕に飛んで来る。

 《悪戯な精霊の隠れん坊(クースハイシスト)》に《飛行魔法》――《飛翔浮力(アライン)》を乗せ、機動力を上げる。


「鬼ごっこは得意かな?」


 そう焚きつけると、僕は矢を斬り落とし林の中に入る。

 顔だけで振り返れば、ヴェガが背に翼を広げているのが分かった。

 バサッ、と羽ばたかせ僕の後を追う。

 僕は前に向き直り、雑木林の合間を縫って飛ぶ。

 右に左に木々を避け、深奥に行った。

 この空間は、現実とは切り離されている。

 妖亜(ようあ)が創った亜空間――《快庭煙(レガラク)》だ。

 なら、そこには限界がある。

 無制限に雑多な林が広がっているわけではない。

 《次元歪曲(ディシス)》で脱出する手立てはあるが、それは無粋だ。


『無粋なのはお前だ、ノワール。付け加えれば、愚かだ。余興に時間をかけ過ぎだ』


 そう急がせないで下さい。

 考えがあっての行動なんですよ。


『期待してないが、聞かせろよ』

「不思議には思いませんでしたか?」

『何が』

「妖亜(ようあ)の行動が、です」

『あの女は、ずっとおかしいが? 飯食うときに、箸一本で食い物を刺して口に運ぶような奴だしな』


 その食べ方は初耳ですが、違います。

 僕が言いたかったのは。


「彼女がガイアとヴェガを召喚するのに発動した《魔法》――《夕闇に沈む遺灰の静寂(アシュラスクレサイス)》のタイミングです」


 僕は根本に人一人通れる程の洞穴がある木を見つけた。

 そこに飛び込み下降する。


「戦っていて感じましたが……妖亜(ようあ)が、本気で僕を滅ぼす意思は無いと思います」


 メノア様は共感や反論もしない。

 思案しているのか聞いていないのか。

 ――うん。

 後者だろう。


「――なのに、あんな大技を魅せてきた。召喚された騎士の性能は劣等でしたが、《召喚魔法》自体は緻密に練られたものでした」


『生まれ変わって皮肉を言うのが上手になったな、ノワール。取るに足らないおもちゃの出し入れを、さも必殺の技のように嬉々として披露した小娘を、すごいすごいって褒めてるんだろう?』


 メノア様が侮蔑を抑えきれず、クククッと嗤う。

 表情は伺えないが、きっと気持ちの悪い顔が醜悪に歪んでいる。

 僕は穴の奥、白い光の点を目指し下りていった。

 この先で、〈魔王〉とのつまらない再開を終わりにしよう。

【次話予告】

奴隷商を騙る〈魔王〉が明かす本心――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。