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転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
神を滅ぼす機巧人形編
43/46

第2章 第38話 不快な放送

 軽い力で蹴ったそれは、しかし破裂した。

 前に倒れながら、アルヴェルトの頭が散る。


 ――ドサッ。


 と、その甲冑を纏った白銀の巨躯が、床にうつ伏せとなった。

 《異空間収納(ディートファスト)》から出したばかりの大剣が、手から落ち転がる。


 ――しまった。

 そう、僕は内心で反省する。

 少し後ろに飛ばしてやろうと、あまり力は入れず蹴ったつもりだったのだが――。

 思ったより僕の脚力が強かった、いやアルヴェルトが脆かった。

 うっかり、殺してしまった。

 僕は蹴った右足を見る。

 そして、考え直した。

 今後、人間を蹴るときは可能な限り、手加減をしよう。

 でないと、また殺してしまうかも――。


「まあ、それならそれで……生き返らせれば良い話だけどさ」


 僕は《回復魔法》――《女神の聖なる息吹(ヴィレホス)》を使う。

 漆黒の魔力が集まり、アルヴェルトを治癒させた。

 粒子が弾けて、散った頭部が元に戻る。


「……は……っ!? わ、私は何を……」


 床に伏せたアルヴェルトが、瞬きをして――。

 呆然と視線を這わせた。

 そんな彼に言ってやる。


「やあ、アルト君。ごめんね……僕が、力加減を間違ったばかりに、君を殺してしまった。……でも、再開して早々に友人である僕に対して、いきなり斬りかかった君にも、非はあると思うな。そこは謝ってよ……ほら、ごめんなさい、は?」


 僕は見下ろす形で、謝罪を求める。

 呆けた眼差しをしたアルヴェルトが、緩慢に視線を上げた。

 笑った僕の顔を目に映す。

 再度、その表情を憎悪に変えて。


「貴様……ッ!! 〈勇者〉(かい)!!! のこのこと、私の前に顔を出すとは……良い度胸だな!! 褒めてやる……!」


「ありがとう、どういたしまして……何か既視感ある会話だけど、ループしてる?」


「その脳筋副長は、脳みそまで筋肉なので……数十秒前に自分が言った発言すら、覚えていないのでしょう」


 と、ヴェノム。

 バーカウンターの下にある物置棚から、ゴソゴソと物品を探しながら伝えた。


「そうなんだ。健康的な脳みたいで、羨ましいな。僕には、考える頭も無いからさ」

「……ッ! だから……だから、我が娘を謀ったのかッ!!!」

「何の話かな……」


 心当たりが無いな。

 彼、アルヴェルトの娘さん。

 病弱で寝たきりだった印象だ。

 裁判で、アルヴェルトが親権を取った後は、父娘二人で暮らしていたと思う。

 そこまで娘とは交流があったわけではないので、朧げな記憶だ。


「貴様が……貴様が、我が娘を蠱毒の王(ルクナ)の供物に捧げたのだろうが……ッ!!」


 アルヴェルトが立ち上がり、その大剣を握ると切先を向けた。


 ――蠱毒の王(ルクナ)


 異名を頭の中で反芻する。

 学術都市ディスグフラに眠った土地神、的な存在だったかな。

 女神様とか、そういった実物がある〈神族〉とは違って、人の念が生み出した想像上の神様だ。

 僕も見たことはない。

 都市の地下で眠り続けている、と学術都市ディスグフラにいた時期に耳にしただけである。

 なので、現実にいるのかすら怪しい。


「……知らないな。どうやら、アルト君に酷い誤解を受けているようだ」

「誤解だと……!? ふざけるな!! 貴様が娘を供物にしたのだろうが――ッ!!!」


 アルヴェルトが怒鳴り、身体から魔力を出す。

 大剣に粒子が流れた。

 僕は冷静な口調で言う。


「確信を持った断言だね。何か、明確な証拠でもあったのかな」


 アルヴェルトは、見るからに取り乱している。

 その要因は、僕だ。

 僕との再開が、アルヴェルトの憎悪を蘇らせた。

 しかし、彼は怒りながらも目は正気だった。

 恨みの感情に飲まれていない。

 言葉にも意思を感じる。

 根拠のない空言ではなかった。


「女王陛下が、仰っていたのだ……」

「なんて?」

「人を人とも思わない冷徹な畜生が、娘を供物にした……とな!」


「……誰のことだろ。そんな悪評に合った人物は、世界には結構いると思うけどな」

「貴様のことだ……ッ!! 〈勇者〉(かい)!!」

「僕より慈悲深い愛好家も、いないと思うよ。残念だけど人違いだね、うん」


 と、僕は腕を組み頷いた。

 良かった、人違いだ。

 だって、僕は冷徹でも畜生でもない。

 僕の人柄を表すなら。


 ――人に偽りの手を差し出す、狂った偽善者。


 それが適切だろう。


「貴様のような胡散臭い男、見間違えるわけがないだろうが……ッ!!」

「僕って、そんな風に思われてるの?」


 若干、ショックだ。

 僕より信用出来る人物も、そうそういないと思うのに。


「人間、普段の行いは大切ですからねぇ……」


 ヴェノムが、バーカウンターの下から顔を出した。

 探していた物が、見つかったようで――。

 それをカウンター上に乗せた。

 持ち運び可能なサイズの、小型な機器。

 上部にアンテナが伸び、チャンネルの調整用に備えられた摘みがある、その機械はラジオだ。

 電源を入れ、ヴェノムが摘みを回す。

 僅かなノイズが流れると、チャンネルに切り替わった。


『やあやあやあ! 日々、つまらないありふれた人生に、無意味な希望を見出そうと、冷たい地面を張っている諸君……そんな諸君らの非生産的な一日に、天にも上る快楽と娯楽をお届けする……フレッシュマンパーリーナーイ、のお時間だっ!!』


 何か始まった。

 僕はラジオに目をやる。

 パーリーナーイ、がどんな時間かは存じ上げないが、フレッシュマンは聞いたことがある。

 女神エリアルの自慰行為に使われている、隣国で流行りのキャラクターだ。

 カノンは、アニメーションに登場する人物だと言っていたけど。

 いま、チャンネルで喋っているフレッシュマンは、役の人なのかな。


『諸君らの人生と同様に、非生産的で無駄な時間をお届けしている、このフレッシュマンパーリーナーイに……なんと! 今回、とんでもないゲストが来ているようだ!!』


 大剣を突きつけていたアルヴェルト。

 突然流れたチャンネルに戦意を削がれ、剣先を下ろす。


『……それでは、お呼びしよう。今回のゲスト……キュートでハニーな女医、ラヴェンドールさんだあぁぁぁ!!!』


 ――誰だよ。

 キュートでハニーな、ラヴェンドールさん。

 知らないよ。

 有名な医者なのかな。

 僕は横目で、アルヴェルトの反応を見る。


「…………?」


 顔に知らない、と書いてあった。

 呼ばれた女医の声が流れ出す。


『はいは~い! 呼ばれても無視されても、貴方が世界の彼方にいようと駆けつける……純粋無垢で、きゃっわいぃお医者さんといえば、誰のこと? そう、私で~す!』


 その自己紹介だけで、僕は悟った。

 面倒な女だ。

 こういうタイプが好みな人も、いるのかもしれないが――。

 僕は苦手だ。

 指摘したい箇所は色々とあるけど、自認が純粋と称している女性が、普通なわけがない。


「……驚きましたね……まさか、あのラヴェンドール殿がお見えになるとは……」

「あの……って、どの?」


 そんなに有名人なら、前世でも見聞きしただろう。

 だが、僕の知識には無い。

 僕が転生をした後、紅凱暦(こうがいれき)になって売れた人か――。


「……ていうか、殿って言った? 何、その呼び方……」


 見知らぬ国の要人だったり。

 すると、ヴェノムは表情を引き締めて教えた。


「かの御仁、ラヴェンドール殿は……世界最高峰の薬師であり、その傍ら医者として階級問わず、万人を治療している素晴らしき人格者なのですよ」


 ――私も尊敬しております。

 と、ヴェノムは付け足した。


 ――人格者。


 申し訳ないが、そうは思えない。

 最初の挨拶だけでも、馬鹿丸出しだ。


「へー……アルト君は、知ってる?」

「いや……知ら……おい、待て……」

「……ん?」

「なに、普通に喋りかけてきているんだ、貴様……私も、つい返事しそうになったが……」


 アルヴェルトが気を取り直して、大剣を構え直す。

 その三白眼に力が込もった。


「いーじゃん。もっと、話そうよ。久しぶりの……それこそ数百年ぶりの友人との再開なんだし。積もる話だって、あるでしょ?」


『さーて! 今回のフレッシュマンパーリーナーイ、の企画はあぁぁぁ!! どんがらがっしゃーん!!! な、な、なんと! 視聴者参加型企画だあぁぁぁ!!!』


 ラジオから聞こえる大音声。

 無駄にハイテンションだ。

 どんがらがっしゃーん、とはドラムロールだろうか。


『いやったあぁぁぁ!!! ラヴェンドールと視聴者っちとのバトルだあぁぁぁい!!』

『バトルではないぜえぇぇぇい! ちょぉぉぉっぴり、危険ではあるかもだけどなあぁぁぁ!!!』

『きゃあぁぁぁぁぁ!!!』


 ――うるさい。

 会話も馬鹿だし、内容が薄い。


「フオォォォォォォォォォォッ!!!」

「……!? どうした、ヴェノム君」


 唐突に奇声を上げたヴェノムに、当惑をする。

 両拳を握り、頭上を見て叫んでいた。

 直後、スッと我に返り、こちらに顔をやると言ったのだった。


「……おっと、失礼。私の奥底に閉まっていたドルドル魂に、火が付いてしまいまして。いやはや、私としたことがお見苦しいものを……」


 ――ドルドル魂。

 あまり、追及はしないでおこう。


「…………」


 アルヴェルトも、身を引いている。

 自然な反応だ。


「そのドルドル魂とやらは、封印しといてもらいたいね。いきなり変な声を上げられたら、ビックリするよ。心臓が止まるかと思った……」


「重ねてお詫びします、ノワールさん。以後、ドルドル魂には鍵をかけて外部には出さないように心掛け――」

『それじゃあ始めるぜ、諸君!! 準備はあぁぁぁ?』

『オール、フレッシュマ~ン!!』

「フレッシュマ~ン!」


 ヴェノムが、おかしなポーズを決める。

 両腕で大きな半円を描いて、親指で自分の顔を指した。

 人生、見ないふりをする事も重要だ。

 僕は無言で、目を反らした。


『まずは一通目えぇぇぇ!! 精霊の楽園(ディラネス)からの、お便りだぜい!!』


『わあぁぁぁお! 私の次の次の次の次の次位には、キュートな精霊ちゃんたちがいるところだあぁ!!』


『自尊心が凄過ぎるぜ、ラヴェンドール!!! 流石は、イカれたドルドル魂の伝道者だ!!』

『いえぇぇぇぇぇい!! フレッシュマ~ン!!!』

『フレッシュマ~ン!!!』


 聞いていると気が狂いそう。

 こんなチャンネルが公式に放送されている思ったら、恐ろしい。

 そして、フレッシュマンで行為に及んでいる、女神エリアルも末恐ろしい。

 どこに魅力を感じているのかな。

 僕には理解が難しい領域だ。


精霊の楽園(ディラネス)のおぉぉぉ……ペンネーム、悪魔の出汁さんからのお便りだあぁぁぁ!!』

『ふうぅぅぅ!! かぁぁぁっちょいいぃぃぃ!!!』


 視聴者参加型の企画とは、見ている人が送った文通を読むコーナーらしい。

 〈悪魔族〉に対する殺意が込もった名前だった。

 聞いていると頭を痛めそうなので、僕は意識を背ける。


「何か、外の風に当たりたい気分だよ」

「……同感だ。貴様を滅してから、当たるとしよう……シュバルツヘルク」


 と、アルヴェルトが名を口にする。

 手に持った大剣が、それに応えるように魔力を放った。

 柄や刀身に、これといった装飾はない。

 露店に売っていそうな、鋼色の塊だ。

 ――だが。


頑張(がんば)る剣シュバルツヘルク……まだ、使ってたんだ。君も飽きないね」

「私は妻にも娘にも……そして、愛剣にも一途な騎士だからな」

「寝取られたけどね、幸運なことに」


「……寝取られたのではない……寝取らせてやったのだ」

「それはそれで、歪んだ性癖ではあるよ……?」


 事実か虚勢なのか、どちらでもいいが――。

 僕も《異空間収納(ディートファスト)》から得物を、暁灯瑠刀(きょうひるとう)フォルラリスを出した。

 折れた刃は、直っている。


 この大太刀は、僕と呼応している〈勇者〉専用の代物だ。

 僕の体内に流れる星力(メリス)の状態が、直接的に影響を与える。

 星力(メリス)が枯渇していたら、修復は行えない。

 昨晩、睡眠を取り体力と星力(メリス)が回復したので、《異空間収納(ディートファスト)》の中で直していた。


「〈勇者〉(かい)……物覚えの悪さは、治らんようだな」

「諦めの悪さもね……あと、いまはノワールだよ……ヨロシクね」

頑張(がんば)る剣、ではない」

「あれ……違った……?」


巌張牢(がんばろう)剣シュバルツヘルク、だ。私の古馴染みが名付け、譲り受けた魔剣である」

「へー」

「その流浪人が言うには、シュバルツヘルクは『勇猛果敢』という意味があるらしい」

「多分、間違えてるよ……それ」


 巌張牢(がんばろう)剣シュバルツヘルクの持ち主は知らないけど、シュバルツヘルクの意味は分かる。

 ヴァルノレイア大陸とは離れた別の大陸にある遠方の国、そこの言葉で『猪突猛進』という意味だ。

 どうやら、アルヴェルトは間違った理解をしているようである。

 教えてやる義理もないかな。

 勘違いしていたほうが、憐れで面白い。

 僕は口元が緩む。


「貴様……何を笑っている……」


 ――おっと。

 表情に出てしまった。

 僕は爽やかに言う。


「いや、別に……特に理由はないよ」

「理由も無しに、笑ったのか……? 気色悪い奴だな、貴様は……」

「ありがとう。アルト君は、褒めるのが上手いね」


「娘が供物にされ……愛娘を失ってからというもの、起きている間も寝ている時も、ずっと貴様のことだけを考えて過ごしてきたからな」


「僕のこと、好き過ぎじゃない? ちょっと、重いよ」

「……ああ。その重みを……私の数百年の憎悪に乗せて、貴様を押し潰してやる……っ」


 その大剣、巌張牢(がんばろう)剣シュバルツヘルクを上段に構えて――。

 アルヴェルトが魔力を練った。

 前世と変わらない、気迫だ。

 凄まじい威圧が、僕の身体に伸しかかる。

 それを跳ね除けて、僕は口を開いた。


「シュバルツヘルクという言葉……聖典の中では、こう翻訳されている……『蛮勇』と、ね。今のアルト君に、ぴったりだとは思わない?」


『ハッハー!! 諸君の言う通りだ!! イエス、フレッシュマ~ン!!!』

『フレッシュマ~ン!』


 そんな僕の意見を――。

 視聴者の手紙に応えていた二人が、耳に残る決め台詞で同意をしたのだった。

【次話予告】

ノワールは女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)での戦闘が終わった後、『竜脈の畔』で夜を過ごしていた。

寝て体力を回復させたノワールは、責任者のローズにお願いをしてから、宿屋の一階に下りた。

そこにはバーテンダー、ヴェノムに詰め寄る白銀の騎士がいて――。

学術都市ディスグフラの精霊師団、アルヴェルトという素性を特定する。

前世での付き合いがあるアルヴェルトに挨拶をするも、ノワールを見た途端に顔を憎悪に染め、斬りかかってきた。

見の覚えのない恨みを向けられながら、ノワールは淡々と対処をしたのだった。

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