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転生邪神とクソ女神  作者: 梓川澪
黎明に目覚める虚無の巫女編
41/47

第1章 幕間 魔王達の密談

 創造主ヴァルノレイアにより創られた世界レネイストには、多種多様な数多の種族が存在している。

 最も数が多いのは〈人間族〉であり、各大陸に国土を持っている大国の殆どが、〈人間族〉の王が治めていた。

 とはいえ、その他――。


 人間と獣の機能を兼ね備えた〈獣人族〉なる種族が統治をする国だったり、或いは生物には定義されない人工的な造物、〈機巧人形(ホムンクルス)〉が興した、機械仕掛けの国があったりもする。

 その半数以上が隣国と有効的な関係を結んでおり、国際的にも文明や技術の発展に貢献をしている。

 中には基盤が軍事国家であるがゆえに、他国に戦争を積極的にしかけ、侵略を繰り返して、半ば強引な謀略で国土を広げている、そんな大国もあった。


 しかし、そういった殺伐とした野心の高い国でさえ、絶対に手を出さない、ある種不可侵ともいえる領域が定められていた。

 〈魔王〉の支配領域である。

 どれだけ野心に溢れ、欲望にまみれた王でも、その領域だけには触れはしない。

 関わらなかった。

 各々、理由はあれど共通している認識は――。

 利益より損害が多大、ということ。


 〈魔王〉も、一枚岩ではない。

 彼ら彼女らは組織とは異なり、個人だ。

 個々の意思の元に動いている。

 年中、世界の何処かで遊び呆けている〈魔王〉もいれば、他国と同様に自国を興して、そこの王を務めているような〈魔王〉もいた。

 所謂、一般的に不可侵と云われ、人類から恐れられているのが、そういう国力と権威を持った個体だった。


 〈魔王〉の国は、鎖国に近い状態なことが多い。

 他国と交流することもなければ、物流などの道も閉ざされているので、商人や旅人といった、外からの来訪者の出入りも僅かだ。

 なので実際、国の内情がどうなのかは、覆い隠されていて不明だ。

 その為、世間では様々な噂が出回っている。

 〈魔王〉の国は、人の形をした生物が存在せず、人外の怪奇な化物の巣窟で。

 外界と交流をせず閉ざしているのは、密かに内部で人類を滅ぼす禁忌の兵器を開発している、とか。


 他にも根拠のない、尾ひれや背ひれが付いた噂話が流れている。

 どれも、話している本人が見たわけではない。

 真相の有無は、誰にも分からない。

 詮索のしようもなかった。

 あったとしても、そんな命知らずに〈魔王〉の国に潜入を試みるような愚者も、なかなか居ないだろうが。

 仮にリスクを顧みず、自由に入国をする者がいるとしたら、それは同種である〈魔王〉だけかもしれない。











 音楽が流れてた。

 耳障りの良い、流麗な音色とはお世辞にも評価出来ない。

 音程が外れている、いや合わせる気が感じられない、乱れた楽譜に沿って奏でられる、クラシックミュージック。

 発生源は、どこなのか。

 蓄音機などの機器は、見当たらなかった。

 しかしながら、その空間全体に不協和音が響き渡っている。


 不快なミュージックに彩られたそこは、真紅と漆黒のタイルが上下左右に敷き詰められた異界だった。

 その正方形のタイルは、大理石のように艷やかな照りがあり、汚れがない。

 中央には平らな机、円卓が置かれている。

 それを周りに八個の椅子が設けられていた。

 どちらも、設備を用意した者の趣向が反映されているのか、濃紺な素材の色合いに、簡素ながらも権威を表すような魔獣の装飾が凝られている。

 背の高いそれらは、玉座を思わせた。


 異界に置かれた家具は、円卓と椅子のみ。

 出入り口となる扉もない。

 外界とは隔絶された会合場所だった。

 その異界、円卓の座席に着席している者が、三名いた。

 上座から見て、左の席に一人。

 その隣、空席を跨いで一人座っている。

 対面側の席に、もう一人座る者がいた。


「……やばい……やばいのじゃ、ホントに……ああ、どうしたらいいのじゃ……!」


 上座の左隣に座った、その人間は――。

 否、頭に獣の耳を生やした〈獣人族〉の少年は頭を抱えていた。

 一目で分かる特徴的な種族の象徴が、ボブカットの頭頂にある。

 手入れがされた、綺麗な銀色の毛並みの猫耳だ。

 円卓の下では、少年の臀部から生えた尾が揺れている。

 平静な状態なら端麗な童顔も、不安に駆られてしまっていた。


 〈獣人族〉の特徴を頭と尾に持っているが、しかし顔立ちは〈人間族〉の子供と相違ない。

 帽子を被って尻尾を隠せば、違和感は無いだろう。

 本人の顔貌が幼いながら、どこか不相応で老齢な雰囲気を醸し出しているのもあり、見た目通りの年齢にも思えなかった。


 身に纏った装いは、上品さのあるシルクの生地で織られた羽織。

 普段使い用に着ているのか、裾が膝上までの、藍色の中羽織だった。

 裏地に何らかの、花弁を模した紋様が覗いている。

 短い両足が床の上で、前後に動いていた。


「先程から、それしか言っていませんね~……禍九羅(ガクラ)さぁん。やれやれ……まるで、壊れた人形です~」


 〈獣人族〉の少年、禍九羅(ガクラ)の左隣――。

 空席を開けて座っているのは、〈人間族〉に見える男性か。

 女性かもしれない。

 声音は低声で、男性にも思えるが、成熟した女性の艶やかさを感じさせる。

 その口から発せられる言葉には、不思議な効力と魅力の作用が乗っていた。


 顔貌も見事に、性別の中間にいるような造形である。

 艶麗ともいえる唐紅色のストレートヘアーは、背中まで伸びており、毛先が橙色に染められていた。

 絶世の妖艶な顔貌だが、その素肌には強烈な色合いが加えられている。

 歌舞伎の役者が施すような化粧だ。

 白粉ではない、純粋な白皙の肌、その目元に紅い線が引かれていた。

 肌が色白というよりは、血の気が薄い。

 青みがかった唇も、病的な要素になっていた。


 だが、張りがある肌と――。

 瞳には確かな精力が込められていて。

 狐に似通った切れ長な双眸をしていた。

 顔は歌舞伎にかぶれた中性的な人物、といった印象を受けるが、纏う服装はシンプルだった。

 特注品(オーダメイド)にも見えない、市販品として売っていそうな、安物の黒色のスーツ。

 その格好を加味すると、組合に所属する商人を想起させた。


「…………」


 対面の座席、そこに腰を据えた人物は、会話を黙って聞いている。

 傾聴しているのか、はたまた思案しているのか曖昧だが、話に入ろうとはしなかった。

 体付きから男性だろうと推測される、その者は――。

 平均的な身長より、やや高め。

 上背のある身体は、滑らかだが隆々としていた。

 無駄な筋肉が削ぎ落とされている感じである。


 こちらも鼠色の羽織を着ているが、袴は付けておらず、着流していた。

 少年の中羽織とは、質も粗悪だ。

 所々に皺が残っていて、液体が染みとなった跡が目立っていた。

 着用する衣服の状態に無頓着な男は、しかし顔に付けた仮面だけは、やけに精巧な造り。

 鋭利な二本の角を生やした、凶暴な表情をしている鬼の面だ。

 それは常日頃、大切に扱っているのか、傷らしい痕も無かった。


 面を鮮やかに彩るのが、燃えるような色の短髪だ。

 耳の下辺りで、きっちりと切り揃えられていた。


「……だって、だってさ!? 妖亜(ようあ)!」

「はいはい……聞いてますよ~、ああ……さっさと話せよ、犬畜生が」


「酷いっ……! こんなに儂が、思い悩んでいるのに!! それと、儂は犬じゃない……〈神霊狼(フェンリル)〉じゃ!!! ちょっと、色々あって猫の血も入っちゃってるけど……」


「貴方が犬っころだろうと、ゴキブリだろうと構いませんけど~……いつまでも、悲壮な(つら)をしているのはやめてもらえませんかぁ? 憐れんでほしいのなら、教会にでも入信したらどうです~?」


 両手で頭を抱える少年、禍九羅(ガクラ)

 それを中性的な歌舞伎メイクをした妖亜(ようあ)が、切って捨てた。


 ――教会に入信。


 と、そんな助言をされた禍九羅(ガクラ)は、円卓からバッと顔を上げる。

 妖亜(ようあ)に向けた表情は、いまにも泣きそうだった。


「あんな不誠実なインチキ教団の中に、儂を入れようなんて……(ぬし)は、どんな悪魔……いや、〈魔王〉じゃっ!!!」


「ええ、私は〈魔王〉ですよ~。こんにちは、禍九羅(ガクラ)さん」

「こんにちは、なのじゃ! 妖亜(ようあ)さん!!」


 ――バタン。

 投げやりに挨拶をして、禍九羅(ガクラ)はまた円卓に突っ伏した。

 妖亜(ようあ)が横目に肩を竦める。

 その細長い目には、呆れ以上に付き合えきれないといった感情が見え隠れしていた。

 無理もない。

 今日、この異界に招集されてからというもの、禍九羅(ガクラ)はずっと、この調子なのである。

 ただ単に、被害者面をしているだけなら可愛いだろう。


 大丈夫、辛かったよね。

 元気出して。


 そんな感じの慰めを、一言伝えれば済む。

 しかし、性質(たち)の悪いことに禍九羅(ガクラ)は、重度の共感を求めていた。


(この獣臭いかまってちゃんは、無駄に歳を食った赤子……いや、赤子ならまだ可愛げがありますけど~、この犬畜生には、そんな魅力はありませんねぇ~)


 面倒極まりない。

 内心で溜息を吐き、だが表には出さない。

 言ったところで、治らないのを知っている。

 叱責は時間の無駄だ。

 それよりも、さっさと話を進めたかった。


「ヴァルノレイア大陸に支配領域を持っている〈魔王〉の会合、とそう聞いて来ましたけど~……メフィストテスさんは、まだですかぁ?」


 円卓に顔を埋めている禍九羅(ガクラ)は無視して――。

 妖亜(ようあ)が、上座の席に視線をやる。

 そこには、誰も座っていない。

 本来は〈魔王〉メフィストテスの席だ。


「……知らないのじゃ……儂も呼ばれただけだし……トイレじゃないの……?」

「無知な禍九羅(ガクラ)さんには尋ねていませんけど~……」


 ――チラリ。

 と、妖亜(ようあ)が対面を見た。

 それに鬼の面を付けた男の肩が、僅かに跳ねる。


「……え、俺……あ、いや我に聞いていたのか……すまない、熟考していたゆえ、上の空であった……」


 声を詰まらせるも、そう答える。

 軽い咳払いをして――。


「……我は何も聞いていないな。メフィストテスの到着が遅れている理由も、検討が付かない。我は、ステンレスに関する密談だと言われ、参じただけだ」


「ステンレス……? 《星を喰らう獣(ストイタス)》のことですかぁ?」


「……あ、ああ! そ、その通りだ。いや、すまない……我の国では馴染みのない言葉だったゆえ、発音が難しいのだ」


「なるほどぉ……確かに、ルキウスさんの出身国では聞かない響きの単語かもしれませんね~」

「う、うむ……」


 ――コクコク。

 ルキウスが首を縦に振る。

 その鬼の仮面の下では、冷や汗で濡れていた。


(あああああぁぁぁ――ッ!!! 危ねぇぇぇ!!! 誤魔化せたぁぁぁ!!!)


 仮面のおかげで、いまの表情は他者の目には入らない。

 ルキウスは早る心臓を落ち着かせ、羽織の裾で手汗を拭いた。


(いやさ、俺にいきなり話振るなって! メフィストテスの事情とか知らねぇよ、マジで……てか、あの女狐……って言ったらヤバいか……いや、本人はいないし、いっか。女狐が予定通りに姿を見せるほうが、稀だろうよ)


 ――フー。

 と、ルキウスは一息。


(……てか、何で俺呼ばれたんだ。一応、〈魔王〉ではあるけど、前任が〈勇者〉(かい)に殺されたから、その穴埋め的な数合わせでなっただけの〈魔王〉だし。メフィストテスたちが定期的に会合を開いてるのは知ってるけど、それだって参加者は紅凱暦(こうがいれき)以前から生きてる古参の〈魔王〉だけなはず……なのに、何だって今日は俺まで呼ばれたんだ……ああ、帰りたい……)


 ルキウスは胸中で愚痴りながら、円卓に集まった者を確認する。

 禍九羅(ガクラ)に、妖亜(ようあ)

 自身も合わせて、この異界にいるのは全員、ヴァルノレイア大陸に支配領域がある〈魔王〉だ。


 ――しかし。

 古参ではない。

 〈魔王〉と一括りにしても、明確な序列がある。

 それは、純粋な実力だ。

 メフィストテスを頂点にして現在、八柱の〈魔王〉がいる。

 比較的新参な〈魔王〉のルキウスは、繰り上げのような形でその席に座ることになっただけの、身であった。

 本人としては、〈魔王〉である自覚は、さらさらない。


 禍九羅(ガクラ)妖亜(ようあ)は〈魔王〉としては、ルキウスより先輩だったが、二者とも紅凱暦(こうがいれき)になってから〈魔王〉となっている。

 最古参であるメフィストテスや、古参の〈魔王〉と呼ばれる者達は、それ以前から数千年は生きている個体であった。


「儂はメフィストテスの遣いから、今日ここで会合をするとしか聞かされていないのじゃ……正直、儂はそれどころじゃないし。本当は、密談なんてしてる場合じゃないのじゃ。アイツが来る前に、夜逃げの準備をしないと……」


「夜逃げ……? また、借金でも借りて、取り立てに追われてるんですかぁ? やれやれ、相変わらず憐れな犬畜生ですねぇ、本当に」


「また、ってなんじゃ! 最近はちゃんと返済してるし、借りたものは返してるのじゃ!!」

「人として当たり前のことですよ~」

「儂は犬畜生じゃからな! そんな人間社会の常識は、知らんのじゃっ!」


 ――フンッ。

 と、禍九羅(ガクラ)はそっぽを向いた。

 興味本位で、ルキウスが尋ねる。


管理者の閲覧会(アグレスタ)にでも、狙われているのか……?」


「はぁぁ!? アイツじゃあるまいし、儂が執行される覚えは……無い、とは言い切れないけど……いや、無い! あり得ない!! 儂は無実で潔白なのじゃ!!!」


「虚勢にまみれた負け犬は、吠えるのがお上手ですね~」


 妖亜(ようあ)が口元に手をやり、嘲笑する。

 その両手には、黒い革手袋が嵌められていた。


禍九羅(ガクラ)さんが下手を打って、管理者の閲覧会(アグレスタ)に執行されても、私は微塵も驚きはしませんけど~。最近は執行者さんも、レネイストで活発に動いているようですしぃ……」


 妖亜(ようあ)が目を細める。

 知り合いの武器商人の女から得た情報で、管理者の閲覧会(アグレスタ)の執行者が、何人かレネイストにいることを知っていた。

 管理者の閲覧会(アグレスタ)が定めた規定の範囲を守っているなら、〈魔王〉は執行対象にはならない。

 分かりやすい例を挙げると、〈魔王〉として国を統治している程度は、見逃される。

 だが、他国に戦争をしかけると、世界の敵に。

 即ち、秩序を脅かす厄災に認定され、執行者が送られるだろう。


「残念じゃが……儂は、そんなヘマはしないのよなぁ」

「地を張っている姿を頻繁に見ますけどね~」

「ああ、大地の恵みを感じるのが好きなのかと思っている……」


「……いや、違うからねっ!? 儂は、そんな野生児じゃない!!」

「野生児というより……」

「負け犬ですねぇ」


 ――ワオーン。

 禍九羅(ガクラ)が悲しげに吠えた。

 それから卓上に顔を当て、涙を流す。


「……えーん……えーん……そうやって、皆して儂を虐めるんじゃ……そうさ、儂は万年負け犬の、愛嬌のある犬畜生なのじゃ……」


 演技だ。

 稚拙な嘘泣きだった。


「傷付いたフリをして、若干自己肯定感が残っているのが、また腹立たしい。ルキウスさん、何かコメントをどうぞ~」


「シュバルツヘルクのほうが愛嬌はある」

「誰――ッ!?」

「……我の……飼い犬の名だ……」


「何じゃ、その魔剣みたいな名前は! どういう、ネーミングセンスをしてるのじゃ!? ルキウス君は!!」


「昔、大陸を旅している道中で出会った女に教えてもらった。その女の出身地でシュバルツヘルクは『猪突猛進』という意味があるらしい」


「何でそれを名付けたんですか、ルキウスさん……」


「知能が低い、バカ犬だからな。自分が脆弱なことを自覚せず、誰彼構わず噛みつき、吠える。禍九羅(ガクラ)にソックリな犬だ」


「確かに」

「いや、確かにじゃないのじゃっ! 納得しないで!! 儂は喧嘩する相手は選んで噛むし……それに、自分より格下としか戦わない!」


 バンバン! と卓上を両掌で叩いて、禍九羅(ガクラ)が抗議する。

 妖亜(ようあ)が拍手をした。


禍九羅(ガクラ)さんは、小物っぷりが板についていますねぇ。貴方のような、恥知らずな生き方は真似出来そうもない。貴方より序列が下位の〈魔王〉でいる自分が誇らしいですよぉ」


「我も禍九羅(ガクラ)の厚かましい性格が羨ましい。我は人見知りで、そんな図太い生き方は出来ないからな」


「二人とも、褒めてないし……何なら、貶してるよねっ!? 一応言うけどさ、儂は(ぬし)たちより先輩〈魔王〉じゃからな!! 分かってる!? あんま、舐めた口利いてると、ぶっ殺すよ!」


「その豆腐より柔らかい歯で、ですかぁ?」

「毎日、朝昼晩しっかり磨いてるからね! 豆腐みたいな白さじゃよ、儂の歯は!!」


 禍九羅(ガクラ)が大きな口を開ける。

 鋭い歯が剥き出しになった。

 言葉通りの白さである。

 汚れや黄ばみがない。


「ほう、素晴らしい歯並びですね~。流石は――」

「お待たせしてすみません、皆さん。待ちました?」


 と、円卓の上。

 知らない間にいた鳥、(ふくろう)が喋る。

 それは、自然界で生きる鳥類とは異なる生き物。

 《魔法》で召喚された、人工的な魔物――。

 使い魔だ。


「おやおや……メフィストテスさん。いつから、そこにいらしたのでぇ? 相変わらず、存在を消すのが得意なのは、お変わりが無いようで」


 妖亜(ようあ)が席を立ち、挨拶をする。

 その梟、メフィストテスの使い魔は言った。


「……戯言を。そこの無知な負け犬は兎も角、妖亜(ようあ)……貴方は、私が来たことに気付いていたでしょう」


 それに妖亜(ようあ)は、僅かに微笑む。

 ダンッ、と立ち上がったのは禍九羅(ガクラ)だ。


「わ、儂も気付いとったぞっ! うん……当然じゃろっ! ね!? ルキウス君!!」

「……え、え!? お、おう……勿論だとも。我は感が良いからな……」


 急に問われたルキウスは、適当に同意する。

 味方を得たことに、禍九羅(ガクラ)は満足な笑みをみせた。


「何ですか……その、ドヤ顔は……」


 メフィストテスが呆れる。

 そして、要件を告げた。


「――まあ、貴方がたの茶番に付き合っているほど、私は暇ではありませんので。先日の騒動で、仕事が増えましたし……」

「騒動……?」


 ルキウスが疑問視する。

 それには答えず、メフィストテスは続けた。


「私が今夜、貴方達三人をお呼びしたのは……わざわざ、口頭で言わずとも分かりますよね……?」

「分からんのじゃ」

「心当たりありませんね~」


 禍九羅(ガクラ)が素で呆けた顔を晒す。

 無知な負け犬は、分かっていなかった。

 妖亜(ようあ)は薄笑いを見せている。

 呼ばれた理由を察しているのかいないのか――。


「昨夜の件……か?」


 と、ルキウスは思い当たる節があった。

 ――ええ。

 メフィストテスが首肯する。


「昨夜、管理者の閲覧会(アグレスタ)が定例の審議会を開いていた最中、何者かが女神の聖杯機(ヴィルスレイナ)に侵入をした、と……」


「……違った……冒険者と風俗にいった件じゃなかった……」


 ボソリ、と呟いたルキウス。

 胸中で安堵して焦る。


(ぜんっっっぜん、違う話だったあああぁぁ!!! てっきり俺が昨晩、仕事仲間の冒険者に誘われて、神都アリオンの高級風俗店に行ったことを、咎められるのかと思ったわ! この招集も、俺を審問する為かと……)


 違っていたことに、ルキウスは一安心。

 妖亜(ようあ)が青い唇を動かした。


「なるほど~、それは確かに大問題ですねぇ。議会の老人連中が、腰抜かして倒れそうだぁ」


 はははっ、と笑う。

 メフィストテスの口から初めて聞いたような反応をしているが、妖亜(ようあ)は事前に、商人の女から情報を買っていたので知っていた。


「腰を抜かす程度で済むなら安いですよ。整体にでも行っていただいて……しかし、抜かれたのが執行者の一席であったのなら、議会に……管理者の閲覧会(アグレスタ)にとって、感化できない損害です」


「ほーん?」


 妖亜(ようあ)が興味深げに口元の笑みを深める。

 それも、既知だった。

 だが、初耳を装う。


「大問題……どころの話ではないですね~、それは。災厄ですねぇ、災厄」


「ええ、仰るとおり。災厄ですし……最悪ですよ。その件のせいで、あらぬ疑いを議会から詰問されましたからね。直接的な表現は避けていましたが、婉曲に〈魔王〉が裏で加担していたのではないか……そう聞かれましたよ、無駄に長々と」


「ご愁傷様~」

「面会をしたいのなら、事前に連絡をしていただきたいものですよ。仕事中に尋ねられても、迷惑なだけです」


「そうですね~。連絡は大事ですよぉ」


 ――ふわぁ。

 と、妖亜(ようあ)は欠伸をした。


「メフィは、いつも忙しいからな。働き者じゃ」

「怠け者の貴方とは、大違いです~」

「馬鹿を言うな。儂は怠けてなどおらぬわ」

「ほう……?」


「ちょっとカジノで金融機関から借りた金を溶かしたり、気分転換に〈魔女〉のヒモをやったりしているだけじゃ」

「怠け者というか、畜生。素晴らしい犬畜生ですねぇ」


 妖亜(ようあ)は視線を向けずに、冷淡に謗る。

 言われた禍九羅(ガクラ)は、何故か誇らしげだった。


「――でしたら、その暇潰しに一つ頼み事を、引き受けてはいただけませんか?」


 メフィストテスが言う。

 卓上の梟を、妖亜(ようあ)が見た。


「……何か、面倒そうですねぇ。メフィストテスさんなら、大概の案件は自分で解決できるでしょう? なのに、わざわざ私達に頼むということは――」

「余程の大事……個人だけでは解決が困難、ということか……」


 ルキウスが腕を組む。

 椅子に座った禍九羅(ガクラ)も、訝しげだった。


「メフィの頼み事か……嫌な予感しかしないのじゃ」


「数年前にも面倒なお願いをされましたしね~。あのときはプリスティリルさんが動いたおかげで、何とか事態が収まりましたがぁ……」


 この会合には参加していない〈魔王〉プリスティリル。

 妖亜(ようあ)が、過去にあった事案と功労者を思い返す。


「数年前……? 百年は前ではなかったか?」

「そうでしたっけ? あまり覚えてませんねぇ。ルキウスさんは、記憶力が良いですね~」


「お前が忘れっぽいだけ……いや、そういうフリをしているだけか?」

「……どうでしょうねぇ~」


 ――ニコニコ。

 妖亜(ようあ)は、ずっと笑ってた。

 その笑顔を、メフィストテスの使い魔である梟に向ける。


「――それで、何です? メフィストテスさんのお願いって。このあと、商談が入ってるので手短に言ってもらえると助かりますが~」


 梟の表情は変わらない。

 そこに生命は宿っていないので、感情は無かった。

 魔力を通して、メフィストテスが伝える。


「少し……探し物をしてほしいんです」

「……探し物?」


 妖亜(ようあ)が怪訝に眉を寄せる。

 予想していた要望と違った。

 メフィストテスは頷いて、淡々と告げる。


「神を……正確には邪神を滅ぼす〈機巧人形(ホムンクルス)〉を、貴方たちに探し出してほしいのです」


「…………」


 ルキウスは黙っていた。

 内容を吟味していたのではない。

 単純に思考が追い付いていなかった。


「ほーん? 興味深いですねぇ。邪神を殺す、お人形さんですか……良い値で、売れそうだ~」


 と、妖亜(ようあ)が想像をする。

 頭の中で勘定をした。

 そこにメフィストテスは是正。


「殺す、のではありません。滅ぼすのです。お間違えのないよう」

「……何が違うので? どっちも死ぬのは、同じでしょう?」


「全然違います。邪神は……〈邪神族〉は殺しただけでは死なない。魂を滅ぼさなければ、何千回……何万回殺そうと転生をして生き返る……」


「ほんと、〈魔女〉より性質(たち)が悪いのじゃ。依代を殺せば死ぬだけ、〈魔女〉の方が幾分かマシじゃな」


「どっちもどっちだと思いますが……話は、以上です」

「……え、それだけですか~?」


「はい。もう用は無いので、お帰りいただいて結構ですよ。次回の〈魔王〉の定期報告会、もとい『メフィのお茶会』の開催は、後日追ってお伝えしますので、お楽しみに」


「別に儂は……〈魔王〉の誰も、主の茶会など楽しみにしておらぬが。全員、嫌々参加しておるだけじゃし……」


「……俺は楽しみにしてたんだけどな……メフィさんの淹れるお茶、凄い美味しいし」

「……ん? 何か言ったか、ルキウスよ」

「いや……何でもない」


 と、禍九羅(ガクラ)に手を振り否定する。

 ルキウスの小声は聞かれていなかった。

 梟が口を開き、再度言う。


「邪神を滅ぼす〈機巧人形(ホムンクルス)〉の捜索……頼みましたよ、皆さん」


「――まあ、メフィストテスさんの頼みですから受けはしますけどぉ……確約はできませんよぉ~? 確実に物品が欲しいのでしたら、もうちょっと情報を伝えてほしいですね~」


「そもそも何で、このメンバーなんじゃ? 人探しなら、もっと適材がおるじゃろ。それこそ、プリスティリルにでも頼めばよかろう。あの蛇女の眼だったら、世界中の何処に隠れていようと、一日足らずで見つけられる」


「頼みましたよ、皆さん」


 メフィストテスが繰り返す。

 二者の意見は聞き入れなかった。


「……俺……我、普通に仕事で忙しいんだけどな……」

「頼みましたよ、皆さん」


 梟は再三、同じ言葉を発した。

 ルキウスが僅かに肩を落とす。

 やれやれ、と舞い込んだ面倒事に妖亜(ようあ)は息を吐いて――。

 禍九羅(ガクラ)は文句を呟き、また円卓に伏した。


「頼みましたよ、皆さん。〈邪神族〉ノワールを滅ぼす悲願の為にも――」


 その願望が、梟の口から出ることはなかった。

 使い魔を操る術者の独り言。

 メフィストテスは静かに中空を見据えた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

今話の第1章『魔王達の密談』は、次章となる第2章『神を滅ぼす機巧人形』に繋がる、話となっています。

次章以降から本格的に登場する予定の、各〈魔王〉達が何やら会合を開いて密談をしていましたが、どうやら〈魔王〉を取り仕切る立場にあるメフィストテスのお願いで、邪神を滅ぼす〈機巧人形(ホムンクルス)〉を探そうとしているようで――。

その裏で、発案者であるメフィストテスは、密かに〈邪神族〉ノワールを滅ぼす悲願を模索している様子でした。


次話から第2章を投稿するつもりでいるので、この後書きで第2章のあらすじを記載しようと思っていたのですが、当初予定していたより本文の文字数が増えてしまい、その上であらすじまで入れると、数千字は増量するだろうと考えた結果、第2章の1話目の前に分けて投稿をするか、或いは1話目の前書き部分にねじ込もうかなと思案しています。

どちらになるかは、まだ悩んでいるので、ここで断言は出来ませんが――。

まあ、そうですね。

どちらかになると思います、はい。

投稿されたとき、そっちを選んだんだなとでも思って下さい。


それと以前に用語解説を投稿した回の最後で、章の終わりに《魔法》や《権能》を纏めたものを投稿するとかなんとか言っていた気がしますが、執筆の合間に纏める作業も、それなりに時間がかかり、まだあまり進んでいません。

なので、もしかしたら先送りにされる可能性が高いです。

本作を読んでいて、何か不明な箇所などがあったら、お答え出来る範囲で解答しますので、コメント機能で送信していただければと思います。

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