03 アッジフライ
「お帰り!優子ちゃん!」
出迎えたのは、父の弟の三郎さん――通称サブちゃんだ。
狭い玄関には、見たこともない大量の靴が溢れかえっている。
「優子ちゃん! ノープロブレム! ミステイクなんてエブリバディ!ヤングはフラッシュ、青春はフォーエバーだ!」
サブちゃんは瞳にぎらつくパッションを宿し、私の肩をバシバシと叩く。
「優子、ファミレスで何を残した? この青春だけか? あっははは!」
スマホの写真を見せつけながら、叔母の麻美が現れた。
「笑いすぎだってば」
「ほら、すぐそうやってプリプリする!」
頬に伸ばされた手をパシッと払い落とそうとしたが、ヒョイとよけられた。ほっぺを摘ままれたまま居間に入ると、そこは異空間だった。
見知らぬ大柄な金髪の外国人が、私のエプロンをつけて料理をしている。
その横では、ネット動画で見慣れた顔の料理人たちが、私のプリンを食べていた。
「やっぱり残したのは『あの青春』だけだってさ!」
麻美さんがそう言うと、わっと歓声が上がった。
「さすが優子だ! 偉いぞ!」
父の満面の笑みに、イラッとする。何が偉いのか?
「はい、もうカメラ回ってるよ。レッツアクション!」
サブちゃんがカメラを構えると、撮影が始まった。
居間のテレビには、音を消されたニュース映像だけが流れている。
画面には大きく、『総理大臣暗殺か?』とテロップが流れていた。
背後にぬっと気配が迫る。
私が振り向く前に、私の耳元で言葉がささやかれた。
「飛び立った 先の世界の 白い花 成長と言ふ 蝶がふわり」
振り向くと、母は「大丈夫だから」となぜか私を励ました
そして、母に励まされている間に、撮影は終わった。
「ところで、なんで撮影していたの?」
私の質問に、サブちゃんが答える。
「優子ちゃん!それよりも僕はスガギヤ派だよ」
「あっ! あそこの炊き込みごはん、おいしいですよね?」
料理研究家の一人が応じると、すかさず金髪の外国人が乗っかった。
「タキコミデスカ?ギオンのタキコミ、オイシイデスネ」
「皆さん炊き込み食べます?バズッたレシピあるんですよ」
動画やテレビで見かける金髪の料理研究家たちが、それぞれ勝手に炊き込みごはんを語り始めた。
(あんなにファミレスで食べたのになー)
そう思いながら、アジフライをタルタルソースにつけてかじる。タルタルソースがおいしかった。
ふと視線をあげると、神棚にアジフライがお供えされていた。ごはんと味噌汁もついている。
「お母さん、ごはんあるの?」
私は、アジフライといっしょに、ごはんセットも堪能することにした。
テレビではまだ緊迫したニュースが流れていた。
サブちゃんたちはノートPCを囲んでワイワイしていた。
神棚にアジフライを供えるような我が家で、一体どんな映像が撮れたというのか。
「チェンジザワールド!」
その掛け声とともに我が家で撮影された動画が世界へ放たれた。
『世界的な料理審査員は☆アジフライを作れるのか?』
今の世界に逆行するようなタイトルである。
審査員たちはアジフライを揚げる。
料理研究家たちは、いちいち反応する。
「サクサク革命!」
「天の羽衣!」
どや顔の横に躍る、キラキラのテロップ。
動画の最後、大柄な審査員たちはカメラに向かって叫んだ。
「ニッポンの、リョウリ。アッジフライ……セカイノロード、ホース・マッカレルでゴザイマッカレ!」
私が最後のごはん粒を口に運ぶ頃には、その動画はすでにバズり始めていた。
トレンド欄には『アジフライ、日本家庭料理、ミシェポン審査員の素顔』などのワードが並ぶ。
『総理の命を懸けた行動! 世界危機を回避!』
突如、テレビからそんなニュースが流れた。
居間の外国人審査員たちのテンションが天井を突き抜ける。
次々とハイタッチを何度も求められた。
何回やれば気が済むのか?
何がどう繋がってハイタッチなのか、さっぱり分からない。
父は何も言わず、アジフライに醤油をかけて食べていた。
私はそこにタルタルソースをドンと乗せた。




