02 あちらの世界
「供える者——あちらで食べる」
そう言うとドアに向かった。
ヒヤリと気持ちの良い空間がそこにはあった。
その日、私は友達と人生初のファミレスにいた。
「夕飯は、家族そろって......」
幼き頃から私を縛り続けた、父の言葉が脳裏に浮かぶ。
その言葉を、私は自分の意思でフェードアウトした。
ボタンを押すと、プシューという音とともに勢いよく液体がほとばしる。
「これ無限じゃん」
楽しくなった私は率先して友人たちの「おかわり」に対応した。
メロンソーダを注いだコップに、欲張ってソフトクリームを乗せてみた。
その瞬間。
炭酸が一気にあふれ出し、ソフトクリームが音もなく床に着地した。
白い物体と私は、しばし見つめあった。
すぐさま店員さんが駆け付けた。
嫌な顔ひとつせず床を拭き取っると、そのお姉さんは私に語りかけた。
「……まず、氷をたくさん入れますね」
カラリと、コップから冷たい音が鳴り響く。
「そして、上に乗せる感じで……」
なめらかな手つきでレバーを引くと、手首をしなやかに動かす。
バニラの甘い香りがお姉さんの香りと混ざっていく。
「ジュースをコップのふちをなぞるように......」
最後にお姉さんは目の前に貼ってあったフロートの作り方の張り紙を指さした。
私はすぐさま色とりどりのフロートを量産すると、友人たちへ足早に運んだ。
「ちょっと優子、これ見て!」
席に戻るなり、友達が笑いながらスマホを突きつけてくる。
そこには、床に渦巻く白い花と、にらめっこする間抜けな私の姿。
『夕飯は 友と食べるよ 新世界 床に咲いた わが青春』
私はその画像に、五七五七七を添えて母に送信した。
母は私にスマホを持たせるために『ある条件』を言った。
『連絡はすべて短歌で行うこと』。
それが我が家の決まりだった。
「きゃあーー!!また当たった!」
友人たちが歓声をあげる。
ファミレスの期間限定スクラッチくじ。
なぜか私たちが引くぶんだけ、一等や二等が転がり込んでくる。
ポテト、ドリア、ピザ、そしてハンバーグ。
ファミレスに女神が存在するならば、きっと私に微笑んでいる。
そんなわけで、『初ファミレス』という私にとっての大イベントを無事に消化した。
帰り道、自転車のペダルを漕ぐたびにお腹が苦しい。どこへ届くでもない『ファミレスの女神』という即興の歌を適当に口ずさみながら、オレンジ色に染まる道をどこまでも進んだ。




