スポーツなのかな
店内のテレビには、色とりどりの服を着た人たちが映っていた。
赤。
青。
緑。
黒。
白。
胸や袖には、読めない横文字のロゴがいくつも並んでいる。
野球とかサッカーのユニフォームと比べても、テレビの下に吊るされている服と比べても、明らかにごちゃごちゃしている。
でかでかと大きなロゴが描かれている人もいるけど、細部を見るとやっぱりごちゃごちゃしている。
中でも目立つのは、黄色い服の人だった。
白っぽい服の人と並び、にこやかに何か話している。
黄色一色。
靴下に至るまで統一されているせいか、全身タイツを思わせるうえに、原色。
私が着たら、絶対にダサい。
それなのに、外国人が着ると格好よく見えるからずるい。
黄色い人が、横を走るバイクのカメラへ手を振る。
白い人も笑いながら親指を立てる。
堂々と着こなしているから格好いいのかも。
ランウェイで奇抜な服を着こなすスーパーモデルもそうだもんね。
そんな風に見ると、レースだと聞いたはずなのに、ずいぶん楽しそうに見えてきた。
うーん、スポーツかなぁ。
穏やか過ぎるでしょ。
もぐもぐタイムで一世風靡したカーリングでも、試合中は真剣なのに。
画面が切り替わる。
緑の中を伸びる道。
古そうな教会。
その間を、カラフルな服が流れていく。
上空から見ると、自転車の大会というより、旅行番組みたいだった。
「40キロ近く出てるんですよ、コレ。」
ボケっとテレビを見ていた私に、店員さんがひと言告げた。
「え?嘘でしょ?」
「うーん、今表示出てないですけど、そんくらい出てると思いますよ。」
確かにバイクとか車とかが一緒に走ってるけど、うーん。
「単純計算、200キロを5時間とかで走りますからね、この人たちは。」
「200キロって言われてもピンと来ないですけど。」
「ここからなら直線距離で東は名古屋、西は広島って説明すると分かりやすいですかね。兵庫県なら日本海までの往復ですかね。」
「は?」
近畿地方飛び出してるやん。
兵庫県って、割と大きいイメージしかないんですが。
「道沿いなら淡路島とか琵琶湖一周で、大体150キロです。初心者の目標として、ここらへんで一番人気ありますね。」
「え?初心者なのに150キロ?」
初心者とは。
正気の沙汰じゃない。
名古屋や広島までの4分の3でも相当よ?
「ちゃんと半年くらい練習すれば、行けますよ。スポーツやってた人ならいきなり行っちゃいますが、慣れるまではオススメしません。ちゃんと準備してチャレンジしましょう。」
「体育以外、これといったスポーツ経験がないんですけど。」
いやいやいやいや。
なんで決定事項みたいになってんねん。
行ってみたいとはならんよね。
「そうなんですね。スラっとしてはるから、何かやってるのかと思ってました。」
「ガリガリなだけです。ついて欲しくないところにはつくのに。」
「プロの選手でもガリガリな人いますし、お腹出てる人もいますよ。むしろ腹筋割れてる印象ないかも。」
おい待て。
誰もお腹なんて言ってないだろ。
まあ、当たってるんだけど。
「山道とか登るので、軽い方が有利ですし、長時間走るためにはものすごいエネルギーがいるんです。脂肪ってエネルギーになるんですよ。レース終わると体脂肪率がめっちゃ下がる人もいます。」
「そっか、私向きの趣味なんだ。」
「そう思ってくれていいと思いますよ。」
走ると痩せる。
そんな当たり前のような等式は、まさに運動不足を気にし始めた私にとって、ぴったりだった。
いやまあ、運動全般にそうなんだけどさ。
「ロードバイクはね、機材が助けてくれるスポーツなんです。頼っていいんです。初心者でも、ちゃんと補給をすれば、驚くほど遠くまで行けるんですよ。レース中に飲み物を飲むスポーツは多いですけど、走りながら食事を取ったりするスポーツって、なかなか無いですからね。」
なぜか、もぐもぐタイムが浮かぶ。
自転車の上で、もぐもぐするのか。
そう思ってテレビを見ると、丁度選手がもぐもぐしていた。
タイミング良すぎんか。
「あー、食べてますね。」
「背中にポッケがあるんですね。」
「それがサイクルジャージの特徴ですね。前傾姿勢で背中丸出しにならないように、後ろが長いのも特徴かな。」
流れるように吊られているウェアを手に取り、背中側を見せてくれる店員さん。
「ジャージって言われると、なんかイメージが違うんですけど。」
「あー、確かに。サイクルウェアって言ったりもしますけど、ツール・ド・フランスとかではイエロージャージって言ったりしますね。まあフランスなので、フランス語読みでマイヨ・ジョーヌって言い方が強いですけど。」
ジョーヌ、ジャージ。
確かにちょっと似てるかも。
「他にも、マイヨ・ヴェールとか、マイヨ・ブランとか、色々あります。特別なジャージなんで、レースを見るならそこらへんから覚えるといいかもしれませんね。」
ちょっと待った。
てことは、マイヨの方がジャージという意味なのか。
「てゆーか、仕事中ですよね。客とはいえ、こんな無駄話してていいんですか?」
「いいんですよ。高い買い物ですからね。じっくり考えてもらったら。それに、無駄じゃないですよ。ロードバイクを好きになってもらう入口は、一つじゃないですから。何がきっかけになるかなんて、わかんないでしょ?」
「確かに。そういう考え方もあるのか。」
でもやっぱり、じっくり考えなきゃダメなのか~。
ヤだなぁ。
どうしようかなぁ。
「実はですね、ここのサイトで見た白い自転車が可愛いと思ったんですけど。」
「ああ、ありますよ。コルナゴですね。」
うん、知ってる。
ペダルが無いヤツ。
「有名なブランドではありますけど、あんまり乗ってる人いないかも。スペシャとかトレックとか、女子ならビアンキとかが人気ですから。」
お、いいかも。
「いや、流行りとか気にしないんでそんなんはいいんですけど。可愛いとかで選んじゃダメですかね。」
「むしろその方がいいと思いますよ。良いと思えないのに人に勧められるまま乗ってみるのも悪くないですけどね。好きなポイントがあるものに乗った方が、絶対いいです。コンポも105で組んでますし、性能は保証しますよ。」
この後、むちゃくちゃ買い揃えることになって、締めて37万円。
私の新しい趣味は、こうして始まるのだった。




