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24/25

加古川河川敷

 天気よし、疲労回復よし。

 絶好の自転車日和である。

 ドリンクよし、文字通りポケットマネーよし。

 日焼け対策もバッチリだ。


 第三ステージは、我が町の給水源。

 石の産出地ということは、地盤が硬いんだよね。

 保水力が弱いからか、このあたりにはたくさんのため池がある。

 瀬戸内気候という、年間通して降水量が少ない環境のせいもある。

 瀬戸内の水不足と言えば、香川県のイメージが強いけど。

 小学校の社会の授業で先生は、地盤を意識した出来ごとは水ではなかったと言っていた。

 阪神・淡路大震災だ。

 神戸に甚大な被害をもたらした地震だったが、この辺り一帯では震度が低かったらしい。

 石切り場を見て最初は崩れる心配をしたのに、硬い地盤が守ってくれたと考えるようになったという。

 そこにちゃんと関連があるのかはわからない。

 なにせクラスのひょうきん者が、いや知らんのかい、とツッコんだところまでがセットになった思い出なのだ。


 さて、目指すは一級河川、加古川、の河川敷。

 目指すというか、スタート地点かな。

 というわけで、到着。


 ここに取りいだしたるは、サイコンデータを見るためのスマホアプリにござい。

 なんとGPS機能を使って、走ったルートを記録できるのだ。

 オンにしてたら、住所を特定される。

 そんな恐怖の位置情報あるあるに、自分が気を付けるべき日が来ようとは。

 勝手に測定開始されることはないけど、測定を切り忘れて家まで帰っちゃわないようにしないと。


 とりあえず河川敷に降りたけど、どっちに走るかな。

 今日は腕試しならぬ脚試しだから、まずはやっぱり終点が明らかな河口方面でしょう。

 公園やら宿泊施設やらが整備されていて、生まれも育ちもこの町という人にとっては、なにかと馴染み深いようだ。

 私はというと小学校の高学年からだから、それほどでもないけど。

 なんでも現MLB投手として活躍しているプロ野球選手が、高校時代に試合のために利用したのだとか。

 そんなの、のどかな町の人たちにとって大ニュースだったに違いない。


 河川敷には、車が行き交うことさえできる幅の道が整備されている。

 たまに犬の散歩やジョギングしている人を見掛けるくらいで、広々としている。

 当然、見通しは抜群だ。

 風が気持ちいいどころか、遮るものがないせいか、押し返されるように感じてしまうくらい強い。

 少し下っているはずなのに、漕ぐのをやめると止まってしまいそうな向かい風だ。


「これ、河口まで行くの大変なのでは。」


 そんなことを意識的に口にしたのは、引き返す理由に納得したかったからかもしれない。

 河川敷の道が休憩所をぐるりと回れる折り返しになっており、終点であることを示しているのが見えたのだ。

 私は道沿いに回って進路を180度変更した。


「こんな風になってるなんて知らなかったなぁ。」


 河川敷に続く運動場の存在は、電車で跨ぐ際に見えるからよく知っていた。

 その運動場がこの位置で終わり、堤防を越えるためのスロープがあることも知っていた。

 だけど、こんなロータリー風に折り返しになっていることは知らなかったのだ。

 方向転換が終わってひと漕ぎ目。


「え?」


 まるで、自転車に初めて乗ったときに、お父さんが後から押してくれたときのような感覚。

 そんなはずないのに、慌ててブレーキを握って振り返る。

 誰もいない。

 その正体には薄々感づいているくせに、そんな行動をとった。


「そうだよね……そりゃそうなんだけどさ。」


 風だ。

 向かい風は、方向転換をすれば当然、追い風になる。

 しかし、とんでもなく懐かしい感覚のように思えた。

 自嘲気味な態度を一変、改めて漕ぎ出す顔にはいたずら心満載の笑顔が浮かんでいることだろう。


「よーしっ、行くよ、お父さん!」


 漕ぎ出しは驚くほど安定し、知らないうちに手が離される。

 子どもの成長した背中を改めて見せ付けてやるつもりで、振り返らずにぐんぐんスピードを上げる。

 ペダルの回転数は91、92、93。


「よし、上げる!」


 回転数表示の上の数値が、20、21、22と上がっていく。

 まだまだ余力を感じる。

 サイコンの手前についた点字部分を上から押して、画面を切り替える。

 色々と表示されるサイコンの数値のうち、たった1つだけ漕ぎ方と紐付けて教わった。

 回転数が表示される画面に戻すと、80を切っていた。


「うわ、やっぱり意識しなきゃ一瞬で下がる。」


 そのまま回転を速めようとすると、ちょっとしんどいという発見もする。

 二段階まとめて軽くすると、90という数値が見えてくる。

 また少しずつ上げていって、順に三段階上げていった。


「あれ?風止んじゃったのか。」


 気付けば風を感じなくなっていた。

 だけど、道脇に生えた背の高い草を見ると、私の進行方向に向けてお辞儀している。


「え?もしかして、風と同じスピードで走ってるの?」


 風速なんて、一桁のイメージだ。

 単位が違うのだ。

 1時間は3600秒で、1kmは1000mだから、風速が秒速なら3600倍で時速。

 大抵秒速はmで時速はkmだから、0を3つ減らす。

 ざっくり3が10になる感じだ。

 風速6〜9mくらいなら、風といい勝負していることになる。


「さてここで問題です。風速6〜9mくらいというのが体感どれくらいかわかりません。以上、考察終わり!」


 なんか計算がスムーズだった気がする。

 血の巡りが良くなっているとか。

 よし、仕事で煮詰まったら自転車に乗ろう。

 私は仕事でPCソフトを作っている。

 あまり多くは語れないが、今は面接アプリを手掛け中。

 面接ってさ、緊張していたら実力が発揮されないでしょ。

 なにかと圧を掛けて議論を終わらせようとする昭和の世代の割合が減っていく。

 そんな社長の考えのもと、面接から緊張を取り除き、落ち着いて発揮した実力を定量的に示すのだ。

 面接会場に行ったら、個室でマイクに向かって話すゲームを3巡くらいさせられる世の中。

 私のミッションはざっくりそんなビジョンに価値を置いている。

 そんなソフトにとって、文章生成AIの登場はまさに、ブレイクスルーだった。

 つまり順調だから、必ずしも自転車に乗る理由になるとは限らない。

 自然とドリンクボトルに手が伸びる。


「あ、できた。」


 走りながらの初給水である。

 そんな小さな成長や発見が楽しいから、自転車に乗る。

 今はそれでいいかな。

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