リフォーム
「ただいまー。」
玄関には、昨日降ろした荷物。
そして、新しい私の自転車が置いてある。
日曜日に乗ろう。
そんな風に、日曜日が待ち遠しく思える。
今日ではない。
日曜日にだ。
「おかえり。荷物上げちゃってよ。」
「もー、今やろうと思ってたのに。」
やる気がごっそりなくなる。
「あら、そうだったのね。でもお母さんは今日一日、あんたが仕事行ってる間中ずっと上げて欲しいなと思って、首を長ーくして待ってたのよ。」
「はいはい。ちゃんとやりますよーだ。」
とはいえ、ここでやらなきゃ新しい趣味全部が否定的に見られる。
そんな打算を天秤に掛け、渋々動き出す。
「何買ってきたのよ。」
「継ぎ接ぎマットでしょ、あと電動ドライバー。これ、凄いんだよ。見た目ドライバーなのに、電動なの。」
ボールグリップ型のドライバーなのに、電動で回る。
その上、手元が光る。
ハンガーが届いたら木ネジで止めることを考え、衝動買いした。
「あら、これはパッと見で便利だとわかるわね。」
「そうでしょ?電動ドリルも安売りしてたんだけど、どっかから電源引っ張ってこないといけないやつだったし、充電式はもっと高かったからね。何より重い。」
自転車と同じで軽い方がいいよね。
穴開けとか他の用途には使えないけど、何かに特化した場合、デメリットがあるのは当然なのだ。
「それだって高いでしょうに。」
「まあ、なんもなしのドライバーよりはね。でもネジ回しって腕がダルくなるんだよね。」
そう。
まさに今、全身を襲っているように。
「で、このでかい扇風機は?」
「凄いでしょ。工業用だって。」
「自転車の前に取り付けて空でも飛べるんじゃない?」
「そうそう、それ思った。」
扇風機というより、牢屋に入れられたプロペラだ。
オレンジ色というのがまた、映画で見る囚人服みたいである。
モーター、羽根、柵、脚、出力調整ノブ、以上!
みたいなシンプルな作りだ。
リモコンも首振りもない、無骨な感じ。
「で、なんでそんなの買ったのよ。」
「展示品を現品限りで安売りしてたからさ。」
「まあなんでもいいけどあんた、それ実際に回してみたの?」
「え、ホームセンターで回してたよ?」
一番弱くても凄い風だった。
学校の体育館で見たやつよりは小さいけど。
あれはこれより凄い風なんだろうな。
「あー……大型テレビは電気屋さんで大したことないように見えるわよね?」
「確かに。あとで部屋で回してみる。」
部屋で回すと何が起こるのか。
ポスター集めの趣味はないから、問題ないと思いたい。
「それからこれは、メタルラックね。」
「そうそう。これはちゃんと置く場所のサイズ測ったよ。」
「他のものが衝動買いだって認めたようなものよ。」
「だって、トラックなんか借りられるなら、大っきいもん買いたいってなるじゃん。」
「あのお父さんにしてあんたありね。お母さん手伝わないわよ。」
「はーい。」
余計なものを部屋に持ち込み、最後に残ったものが柱。
ツーバイフォー用アジャスターと共に。
材木置き場の横に、専用の販売棚があった。
それなりに売れているのだろう。
「これでどこでも柱が立てられるんだよね。」
「これはお母さんも楽しみだわ。」
天井までの高さを測ったときに出した脚立がある。
木材の両端に蓋をするように取り付けたら、立てる。
アジャスターを調整して終わり。
「え、それだけ?」
「うん、そう書いてあるよ。」
「突っ張り棒みたいね。」
「棚とかにするならもうちょっと色々必要なんだろうけど、ハンガー付けるだけだからね。」
「あ、まだ動かせるわよね。」
「見てたでしょ。いつでも動かせるよ。脚立いるけど。」
「じゃあこの靴棚の隙間を通しちゃおう。」
「あー、なるほど。」
なんだかんだでしっかり手伝ってくれるのが、私のお母さんである。
我が家の靴棚は、棚板に隙間がある。
靴が落ちなければいいのだ。
見立てどおりその隙間にすっぽりと木材が通り、壁から少し離れた柱になった。
これならもし緩んでも、朝起きたら倒れてたみたいなことにはならないかも。
ホームセンターのアドバイスで買った当て木を当て、適度に突っ張る。
梁が確実にあればそこに設置すればいいが、薄い板や石膏ボードだと突き抜ける心配があるらしいのだ。
「おお、ばっちりじゃない?」
10キロもない自転車を掛けるだけなら、十分に耐えられそうである。
今はまだ立て掛けてあるだけの自転車のサドルを、ポンポンと叩く。
良かったな、お前。
そう語り掛けるように。
「出掛けるならジャージ乾いてるわよ。」
「今日はいい。部屋の模様替えする。」
てゆーか、ムリ。
昨日調子に乗り過ぎた。
「そう。じゃ、夕飯出来たら呼ぶわね。」
「はーい。」
部屋に運んだものを、なんとかしなければ。
2色ある正方形のパネルを、市松模様になるように敷き詰めていく。
家の中で自転車乗るって、どういうことかな。
お店で聞いた話を思い出しながら、なんだかわからないものの、部屋の入口側をクッションフロアにしていく。
運動するなら体操スペースを作ろうなどと考えて買ったマットだ。
家の中で自転車に乗るような奇行種に進化する可能性を考えての、持ち込みやすい入口側だ。
敷き詰め終えたら次は、メタルラックだ。
マットエリアの奥に立てようと思う。
PCのモニタを置けば、動画を見ながらヨガとかマット運動だってできる。
必要に応じてくるりと反対側に向ければ、打ち込み作業なんかはそっちでやればいい。
あくまで可能性の話だ。
ところが、一番下の段をテーブル代わりにしようとすると、その高さまで細い脚が4本だけという不安定な状態になった。
「これはちょっと怖いなぁ。まあ、一番下に棚板入れておくか。」
上の方の棚板間隔が狭くなる問題も同時に解消する。
そして、工業用扇風機。
邪魔だ。
なぜこのような物を買ったのか。
待てよ。
この一番下の段に置けば、ヨガとかやって汗かいたときにもいいかも。
あくまで可能性の話だというのに、置き場が決まっていく。
次の段はモニタ置き場。
PCもそろそろ買い替え時だから、そのスペースにしようかな。
そうすると、椅子も欲しいよね。
流石に電気屋さんやPCショップは車のレンタルなんかしてないだろうから、自転車で買いに行くのは諦めよう。
「よし、あらかたこんな感じでいいかな。」
梱包材などのゴミをまとめ、端に寄せる。
我ながら、殺風景な部屋だ。
趣味のなさが表れているというか、データになるものばかりで場所を取らないというか。
「あら、もう終わったの?」
「うん。元々なんもなかったからね。」
同居する家族が減って、まとめて子ども部屋だった9畳の部屋だ。
それを今や、私一人で使っている。
奥半分でも十分なくらいだ。
「なんかさ、自転車好きが極まれば、家の中で乗るんだってさ。」
敷き詰めたマットの上を、ハンドルを握る仕草をしながら歩き回ってみせる。
プロは自転車でこんな小回りができるように練習するのかな。
そしたら坂道に対して横向きになっても対処できるだろう。
二輪という不安定さから、自動車と違った意味で急ハンドルが怖いと思った。
だから狭いところで乗ることだって、案外必要な練習なのかもしれない。
「あら、あんたそんなことも知らないのね。」
「え?」
「ラップの芯みたいなのが並んだ装置の上に自転車を置いて漕ぐのよ。中野浩一時代はよくテレビに映ってたわよ。」
「ああ、そういうことなのか。」
違った。
「とんでもない人がいる世界だと思って尻込みしちゃったよ。」
知らない常識がある世界の正解を引き当てるって難しい。
「普通に考えても部屋の中でくるくる小回りして乗るみたいな発想にはならないでしょうに。あんたたまにとんでもなくバカになるわよね。」
「へへへ。」
同じ決め付けだというのに、この評価は嫌いじゃない。
我ながら都合のいいことだ。
ちなみにオレンジ色の初めての刑務作業は、くしゃみ誘発機になった。




