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話題の裏事情

7万字到達記念の番外編です。本編主人公視点ではなく、少しだけお店側の裏事情になります。

「お先に失礼しますー。あとよろしくお願いしますー。」


 閉店時間になり、店長に挨拶をして店を出る二人。

 ロードバイク専門店の店員とメカニックである。


「なかなか珍しいお客さんでしたね。」


 それぞれ店内から自分のロードバイクを押して現れたものの、店の前で立ち話を続ける。

 独特なイントネーションで紡がれる敬語に、地域性が色濃く出ている。


「そやなぁ、やっぱ多いんは彼氏に誘われたとか、アニメの影響とかやもんな。」

「基礎知識ゼロで、教えて貰える相手もおらんってことですよね。」

「そやねん。けど、ママチャリで5分ゆーてたから、うちには来やすいやろ。」

「そーすね、立ちゴケしたってゆーて、早速戻ってきてくれましたもんね。」

「始めるきっかけ9割うちの店やで?すごない?」

「責任重大ですやん。」


 地域性どころか感情まで色濃く見えるのは、さすがは関西の話し方と言えよう。

 そして話題は、今日ロードバイクを買って行った近所の女性客についてのようだ。

 話を続けながらもヘルメットを被り、ロードバイクのハンドルにはサイクルコンピューターやライトを装着し、着々と出発する準備を整えていく。

 店内に置いてあったのだから盗難の心配は低いだろうが、それが習慣になっているのか、それとも単に充電していただけなのか。


「ライドやるんですよね?」

「そのつもり。再来週の日曜かなー。最近参加者多なってっとるから、日曜で当日行ける店あるかなぁ。」


 ライドというのは、自転車に乗るイベントを指す。

 ここでは店の企画としてのショップライドのことだ。

 直前に告知する方法をとってはいるが、天気の良い日曜日ともなるとそれなりの人数が集まる。

 事前登録を行って参加費を徴収するようなものではないため、出発時刻にならなければ参加人数がわからないのだ。

 今日以降に店を訪れる客には、それとなく話題に上げることもあるだろう。


「いつもの加西方面やったら行けますでしょ。」


 市役所間で直線距離にして北へ19キロほどに位置する隣の市である。

 店からのルート沿いの距離であれば、片道30キロほどのコースを描けるため、ショップライドとしては度々目的地となるのだ。


「あの子、どんくらい走れるかやなぁ。」

「一週間ちょいでどれくらい乗ってるかですけど、初心者や思た方がええですよ。ロードバイクは距離より速度です。時速20キロくらいの超スローペースやったら問題ないと思います。」

「今さら私にそれ言う?」

「おっと、すんません。もう初心者やないですもんね。」

「人数めっちゃ多なったらどないしょーかな。」


 いわゆるグループライドというものは、ゆっくり走るゆるポタからガチ勢まで、様々な集団走行の形がある。

 ガチ勢であれば、千切れたら置いていき、要所要所で一定時間は待つが、あまりにも遅れるようならリタイアするなど、各々の自己責任によるところが大きい。

 しかし店の名を出して走る以上は危険走行はもちろん、行く先々で評判が下がるような真似だってできないのだ。

 通る道次第では、集団でゆっくり走ることそのものが危険となる場合だってある。

 なにせ、ロードバイクは車道を走るのだから。


「お客さんで面倒見がええ人に声掛けときましょか?」

「そやなぁ、誰がいけるかなぁ。」


 集団走行に問題がなくても、ロードバイクには機材トラブルが付き物である。

 人数が多いだけ上がるパンク、チェーン落ちの発生率は、安全な集団走行のためのルート選びによっても上がる場合がある。

 車通りが多い道を避けて裏道を行くと、道が悪いことが往々にしてあるのだ。

 悪いといっても未舗装路のようなことばかりではなく、他の道との合流地点を例に挙げると、歩道を跨がなければならなかったり、車の侵入を防ぐためのポールがあったり、そんな真っ当な整備がなされていることさえ、パンクやチェーン落ち、とりわけ初心者なら、落車を誘発したりする。

 未然に防ぐため、減速して降りることまで視野に入れ、先読みする。

 起こってしまっても、手早く対応する。

 それができなければ集団全体が立ち往生ということにもなるのだ。


「ま、初参加ばっかになることの方があり得へんけどな。」

「いやいや、経験者やからってちゃんと安全運転で引率できるとは限りませんて。僕が行けたらええんですけど。」


 機材トラブル以外にもライダー側のトラブルもある。

 ハンガーノックと呼ばれるエネルギー切れや、熱中症、脚がつっただけでも大騒ぎになることだってある。

 それぞれの原因を知っていて、対処方法がわかるかどうか。

 直接的な原因だけじゃなく、楽しみで眠れなかったとか、寝坊して朝ご飯食べて来なかったとか、そんなことまで影響してくるのだ。

 対処方法がわかっていても、必要なものが手元になければどうしようもない。

 裏道を選んで走ることは、コンビニなどを遠ざけることになり、ゆえにこそ、こんなこともあろうかとの精神で最初から用意するくらいでなければならないのだ。

 車体を軽くして、楽に速く走れるようにしたロードバイクに、重い荷物を背負って乗る。

 そんな人が求められるのだ。


「賢二さんとか来てくれへんかなぁ。」

「僕、連絡先知ってますよ。こないだ一緒にレース出たんで。聞いときますわ。」


 ゆえに、こうして店員から名前が挙がるということは、相当信頼されている証なのである。

 たとえ準備する気概があったとしても、自分がいっぱいいっぱいでは負担が大きい。

 ガチ勢でありながら、アシスト精神旺盛な人なんて存在がいれば、とても心強いのである。


「あの人やったら変な下心とか見せへんからありがたいわー。」

「まあ、愛妻家ですからね。」


 知らない人に、ピンチのときに助けてもらうこと。

 ロードバイクの世界では、わりとそんなことが日常茶飯事だったりする。

 パンクで困っていたら、通りすがりの人がチューブを置いて去っていく。

 そんなことがないとは言えない世界なのだ。

 長年続けていると、買ったものの長らく眠らせていたせいで劣化し、使い物にならなくなることを知る。

 人によってはそれくらいなら困った人を見付けたらあげちゃったほうがいい、くらいの精神だったりする。

 ところが、そんな経験のない者からすると、やはり恐縮することになる。

 それが迷惑を掛けたという負い目になり、グループライドなどに参加しない理由になっていくことだってあるのだ。

 ちなみに、露骨にナンパ目的の参加者は、サークルクラッシャーのごとく忌避されるから気を付けよう。


「奥さんまで参加してくれたら最強すね。」

「ぶっちゃけめっちゃそこまで期待とるけどな。」

「ははは。最悪、賢二さんに合わせて日程変えましょ。」

「せやな。」


 なんとも行き当たりばったりな事前準備に見えなくもないが、それこそがこの店らしい空気感なのだった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


この作品は「第1回 JR西日本×BS12 トゥエルビ じゆうに文庫小説大賞」に応募するために「せとうち作品部門」を意識して書き始めたもので、今回で応募資格となる7万字に到達しました。


もちろん、物語としてはこれからです。

ロードバイクを買っただけでは終わりませんし、まだまだせとうちというには狭いです。


今後についてですが、この作品の書き溜めは続ける予定です。

一方で、予約投稿については、ここで少しペースを調整するかもしれません。


7万字でせとうちに広げられなかったことは、作者の力不足によるものです。

応募時に選択する部門ではないため、現状では「一般作品部門」寄りになっていますね。

チャンス半減です。

以降の内容が審査にどれくらい影響するのかはわかりません。

本作を書き続けることにも意味はあるでしょうし、代表作をきちんと終わらせることで、結果的にこちらへ来てくださる方が増える可能性もあります。


現在、代表作として連載している『転生、水の都の悪役令嬢——私、悪くないもん!——』の書き溜めが完結に近付いており、そちらもきちんと終わらせたいと考えています。


ロードバイクの話を読みに来てくださった方には少し毛色が違う作品ですが、『転生、水の都の悪役令嬢——私、悪くないもん!——』も続いておりますので、よろしくお願いいたします。


ちなみに、各話タイトルなどに、わかる人にはわかるロードバイク関連の名称が散りばめられています。

ほぼ作者のモチベーション維持用です。

内容に強く影響を与えるものではありませんが、気付ける方は少し楽しいかもしれません。


興味がありましたら、そちらも覗いていただけると嬉しいです。


また、本作でロードバイク専門店のモデルとさせていただいたお店が、現在臨時休業されています。

現実のお店をそのまま書いているわけではありませんが、この作品にとって大切な入口になった場所でもあります。


現実のお店があって、私自身が「兵庫県唯一のロードバイクを専門とするショップ」という案内を、「兵庫県唯一のロードバイク専門店」だと受け取ったことをもとにして書き始めた作品です。


だからこそ、今後は本作だけでなく、作者活動全体の流れを見ながら、続け方を考えようと思います。


ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございます。

この作品にも計画済みの旅路がありますので、どの形で走らせるのがよいのか、少し考えながら進めていければと思います。

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