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両親と私

「ロードバイクって売れるの?」

「あら、やる前からもう敗北宣言?」

「いや、そうじゃないけど、私が行った店が兵庫県唯一のロードバイク専門店っていうくらいだし、それこそ中古車屋さんなんてないんじゃないかと思って。」


 車で送ってもらいながら、お母さんにそんな話題を振る。

 近くにスーパーがあるからよく知っている道沿いなのだという。


「お父さんは会社の部下に売ったわよ。会社で見せびらかして満足して、新品同様の自転車を格安で売って、さらに注目を浴びたんじゃないかしら。お父さんはそういう人よ。」

「あー、なんかわかる気がする。」


 休み時間にドッジボールやろうぜ!とかって言い出す男の子タイプだ。

 ドッジボールが上手いという意味ではなく、何かにつけて言い出しっぺとしてクラスの男子たちを先導するような。

 きっと、会社での自転車ブームの火付け役だったはずだ。


「思った以上に大変で、本人としては辞められて満足っていうのが本音だったわよ、きっと。」

「あー、すごくわかる気がする。」


 どんな風に仕事をしているのかなんて詳しくは知らないけど、職場でどんな風に振る舞っているかはわかる気がするから不思議だ。

 そしてそれは、家にいるときのお父さん像とは全然違うものなのだ。


「だから、ロードバイクが売れるかどうかなんてのは、やり方次第じゃないの?今ならネットで何でもできるんでしょ?」

「あー、確かにね。自転車を盗まれてバラして売られたらどうしようもない、とかってお店の人も言ってたや。」

「そうそう、お父さんの自転車だけどね、それも結局、盗まれちゃったって言ってたわ。」

「あー、高いもんね。」

「お父さんたら、その人と喜んで飲みに行ったわよ。」

「うわぁ、そのときの顔が目に浮かぶわ。」


 葬式の時にお父さんの知り合いから聞いたエピソードは、やりそうだな、というものばかりだった。

 死んだ者を悪く言う者はいないというが、それでも語られるエピソードには本人らしさが滲むのだ。

 このときもきっと、慰める気などさらさらなくて、本気で笑い飛ばしに行ったんだろうな。


「それにしても、普段無駄遣いしないくせに、欲しいと決めたら高いものでもポンと買っちゃうのも親子ね。」

「確かに。」


 自転車に並ぶ選択肢にドローンを挙げたのも、お父さんが生前、トイドローンを買って来たからだ。

 家の中での操作が上手くできず、私がやってみせた。

 そして一度だけ公園に持ち出し、風に流されはしたものの、障害物がなければお父さんの腕前でも飛ばせることを確認した。

 仲間の集まりでどこかの河川敷で飛ばすと言って、予備バッテリまで揃えたのに、そのお披露目会の直後に私が譲り受けた。

 そんな思い出が今、お父さんの過去の自転車のエピソードと妙に重なった。


「まああんたが買ったんだから、続けるのも飽きるのも、好きにやりなさい。」

「飽きるのも、は余計だよ。」


 私は、続けるために始めるのだ。

 たぶん。


「だって、そういう話だったでしょうが。」

「あー、まあそうか。」


 予防線を張りまくっているのも、簡単に投げ出さないためだ。

 自分の性格に、両親が物凄く影響を与えていることは確かだ。

 だから、どうなるかは想像がつく。

 プロ選手にはならない。

 いつかは飽きる。

 だけど、新しい発見が見付かるうちは、周りも見えないくらいに熱中するだろう。

 そんな、熱しやすく冷めやすい性格かもしれないけれど、その期間がどれくらいになるかまではわからない。

 なんだかんだ死ぬまでずっと続けるかもしれないし、予想外の出来事であっさりポッキリいくかもしれないのだ。

 私は、そんな私と上手に付き合いながら、人生を楽しく生きてやるのだ。

 自分なりにね。

 いやそれもまた、両親からの影響なのかもしれない。

 ダメになったとしても、高い買い物だったな、と言って笑い飛ばしてやるのだ。


「あら、本当にこんなところにあったのね。プレハブ倉庫みたいなのがポツンとあるなとは思ってたけど、自転車屋さんだったのね。」

「兵庫県唯一のロードバイク専門店なんだって。」

「そうなの?それなりに走ってるの見るわよ?みんなここで買ってるのかしら。」

「え?そんなにいる?」

「いるわよ。あんまり注意して見たことないけど、休みでお天気がいい日とかに何人かでツーリングしてるのを見掛けることもあるくらいだもの。まぁあんたはあんまり地元をウロウロしないものね。」


 確かにそうだ。

 職場への往復くらい。

 最近は健康を意識して駅までママチャリで行くから、駅までの往復も増えた。

 でも、それだけ。

 普段の買い物なんかは全部お母さんがやってくれてるから、この先のスーパーも知らなかった。


「じゃあ、帰りは自転車で帰るね。」

「じゃあお母さんはもう帰っちゃっていいの?」

「あ、靴履き替えるから、それだけ持って帰って。」

「え、競輪みたいに固定するやつ?」

「競輪は知らないけど、ビンディングシューズっていうのを買った。」

「スキーみたいなこと?」

「スキーもビンディングっていうの?」

「なによあんた、そんなのも知らないの?中学校だかで波賀町行ったときにやったんじゃないの?」

「やったけどそんな名前まで覚えてないよ。でも板に靴を固定したのは覚えてる。」


 ちなみに地元の町は、波賀町という兵庫県北部の町と姉妹都市提携をしている。

 そのためかどうかは定かではないが、学校行事の一環で、小学校の夏と中学校の冬に行ったことがあるのだ。

 つまりハチ高原や氷ノ山での自然学校やスキー合宿の思い出と、深く結びついている町なのだ。

 私のスキー経験はそれっきり。

 自然学校でもスキー合宿でも、カレーがめちゃくちゃ美味しかったことだけははっきりと覚えている。

 自分たちで作ったから、慣れない運動の後だったから。

 そんなことが、極上の調味料となることを学んだ。


「競輪はもっと、バンド固定って印象だけど。」

「そうなの?」

「中野浩一時代のことだから、今はどうか知らないわよ?靴持って来たとき見せてよ。」

「そうだね。その方が早い。じゃ、行ってくる。」

「車はその砂利のとこでいいのかしら。今日は乗って待ってるからいいけど。」

「……それも聞いとく。」


 今後もお世話になることを見越して、となりの空き地がこのお店の駐車場かどうかを確かめようとする。

 さすが、私の性格を熟知してらっしゃる。

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