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日の目を見ざるリズァーラー  作者: MasauOkubo
道具は決して嘘をつかない
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案ぜずには居られぬ、糸で引かれながらも

 管理官が必要最低限の内容しか口にすることのない状態となり、さらにシェルという頼れるメンバーも居なくなった今、処刑任務遂行の仔細を取りまとめることはベスタに一任されているも同然であった。


 マナコとハリコは、相変わらず命令された通りの行動しかとることが出来ない。ヤキバは年長者めいた外見の通り、彼らよりも判断能力に長けてはいたものの、未だ処刑任務の経験が浅い。


「きっと、今回の処刑任務も、命じられたままに行動してはマズいことになる。現地に行ってからでなければ分からないことは多いだろうけれど、私が今、危惧している内容について聞いてほしいの。」


 遺体砕断機の置かれた部屋に集まった仲間を前にして、ベスタは語り始めた。処刑任務へ向かう気持ちがいかに逸っているマナコやハリコであったとしても、ベスタが呼び止める必要はなかった。


 シェルが健在だった時から、任務出発前にここに集まり、現地での行動を打ち合わせすることは恒例の習慣として染みついていたのだ。一同の顔を見渡して、ベスタは言葉を続ける。


「まず前提として、リズァーラーが人間を故意に殺害することは、あり得ない。身体的能力の差もあるけれど、実行することの意味も薄い。」


「ですねぇ、人間さんから命令していただかなければ、私たちも居る意味が無くなりますねぇ。」


「ウン。」


 マナコは純粋なリズァーラーとしての意見のみを返し、ハリコは常通り彼女の傍らで頷いている。


 言われたことに対し反論せず、ほぼ無条件に納得してくれる性質は手駒としては有用であったものの、マナコとハリコは議論の相手として適任ではなかった。ベスタの表情から物足りなさを読み取りつつ、ヤキバが彼なりの推測を述べる。


「事件が起きれば、今回のごとく管理局が事態収拾に動き出すことは確実です。そして地下都市という閉鎖空間の中で、管理局から逃げ切ることは絶対に不可能です。にもかかわらず、人間の殺害に踏み切るほどの動機は、リズァーラーの普段からの活動において生まれ得ません。」


「その通りね。たしかに私たちリズァーラーは、人間よりも劣る存在として扱われることがほとんどだけれど、それに不満を抱いたからといって自主的に活動状態の維持を放棄することはまずあり得ない。」


 実地での経験が豊富だったシェルとは異なり、あくまで憶測の域でしかヤキバは語っていなかった。が、ベスタにとっては先の方針を取りまとめる上での良き相談相手であった。


 向かい合って喋り始める両名の傍ら、早くも自分たちの理解力を超えた内容に飽き始めたマナコは、ハリコの新たに移植された腕を手に取り、指を弄り、動かしてみせて遊び始めている。


「リズァーラーの側に動機を生む要素がないとすれば、やはり人間によって命令された結果、と見るのが順当な推測でしょうか。」


「えぇ、まさに管理局から命令されて、罪人を処刑しに行く私たちのように。命令されたのなら、実行するしかない……人間の協力者がいるのなら、非力なリズァーラーにも殺害実行を現実的にする場を整えられる。」


 人間に隷属し、受けた指示の通りに行動することがリズァーラーの本分である。ハリコやマナコ、ベスタやヤキバたちのごとく、処刑を担当するリズァーラーたちの存在が代表しているように、命令の中に人間の殺害が含まれていたとしても、それを拒むことは出来ない。


 この仮説が正しいとすれば、今回の件は本来の在り方から逸脱した行動を取ったリズァーラーが元凶ではなく、犠牲者の排除を望む何者かによって引き起こされた可能性が濃厚である。


「殺害されたのは、廃棄物処理エリアの会長さんですよね。下層の中でも、富裕層が投棄した物品から貴重品を回収し、比較的裕福な暮らしを実現しているコミュニティの代表です。」


「その立場を羨む人間がいたとしても、全く不自然ではないわね。これも安直な考えかもしれないけれど、彼の後を引き継いで、新たに住民会会長の座についた人間が怪しいということになる。」


 多数のボディガードに取り囲まれ、上層街から投げ捨てられる廃棄物の山から取り出される資源を売りさばき、下層街でも有数の財を成している廃棄物処理エリアの住民会会長。


 彼の暮らしぶりを、間近で目の当たりにし続けていた側近たちの一人が、欲に駆られて過ちを犯したと見ることも十分に可能であった。むろん会長もその恐れを想定に入れていただろうが、彼の予想を上回るほど周到に殺害は実行されたのだろう。


「……ですが、ベスタ先輩。仮にそういった人物が殺害を指示した黒幕であることを、我々が突きとめたとしても、実行する処刑の内容を勝手に変更することは出来ないのでは?」


「分かっているわ。殺害を実行して逃亡しているリズァーラーの処分は、既に管理局から下された指示。それに背くことは出来ない……ただ、一つの懸念があるの。」


 管理局が一度下した命令は、決して撤回されない。仮に殺害実行したリズァーラーが、ただ命令された通りの行動を取っただけであるとしても、減刑の余地はないだろう。そもそもリズァーラーに、何らかの主張をする権利などはなから与えられていない。


 が、どうせ真相を知ったところで変わらぬこと、として処刑に取り掛かることの危険性を、ベスタは今までの任務内容からも痛切に感じ取っていた。


「今回、私たちが処分すべきリズァーラーについて、名前も容姿も手掛かりを与えられていないの。処刑指示書には画像の添付もなく、文面だけ。」


「つまり、現地にて聞き込みを行ったうえで、特定する他にないということですか……。」


 ヤキバの脳裏にも、嫌な思い出が蘇った。彼の初仕事となったブラックマーケットでの任務、あれもまた形は違えど現地にて情報収集をしたうえでターゲットを特定するという内容だった。


 その情報収集の段階にてチームは多大なる損害、具体的にはハリコの四肢喪失を受けたのであった。


「標的を具体的に指示されないということは、現地で私たちに情報を与える人間の意向に、任務の成否が大きく左右されるということ。私たちが探し求める標的として現地で示された存在が、本当に今回の件で人間を殺害したリズァーラーであるとは限らない、ということよ。」


「管理局としては、人間ではなくリズァーラーであれば、どれが廃棄処分されても大差ないという考えなのかもしれませんが……仮に、誤った標的を処分したとなれば、次は我々処刑担当チームが処分対象となる恐れもありますね。」


 ヤキバが語ったのは、処刑担当リズァーラーたちに常に付きまとうリスクであった。よもや管理局が自分たちの手駒である処刑チームを罠にかけることはまずないだろうが、しかし現地の一般市民からは、人間を処刑しに来ることもあるチームに悪感情を抱かれていることも少なくない。


 それに、このところ人間に代わる労働力として採用され始めているリズァーラー自体への反感も高まりつつあった。睡眠も不要、食事も最低限の水分と養分で済むリズァーラーに、仕事を取られるという懸念は人間たちの中から拭い去り難いものであった。


「現地の人間としては、願ってもない状況かもしれないわね。私たち処刑担当チームが来れば、事件の詳細を知らせないまま、それこれと指さした先にいる気に入らないリズァーラーを消せるのだから。」


「そのような機会を下層の住民に与え、リズァーラーにリズァーラーを始末させる憂さ晴らしの側面を備えているのかもしれません。そもそも、管理局は人間に反旗を翻したリズァーラーを、わざわざ処刑という体裁をとらず暗に処分する手段をいくらでも有しているはずです。」


 現地の人間の案内に振り回されては、労働力として雇われているリズァーラーたちを無作為に処分し続けるような羽目にもなってしまいかねない。標的誤認によって労働力に無視できぬ損失を出したとなれば、管理局からの処分も免れない。


 新たにヤキバが提示した疑念も、今回の処刑任務の不明瞭さを改めてさらけ出すものであった。処刑という体裁は、暗殺とは異なり、地下社会にて秩序から逸脱することへの警鐘として、敢えて目立つような形で行われるものだ。


「リズァーラーは決して人間の指示に背かないということを、私たち処刑担当リズァーラーに仕事させることで明確に示したいのかもしれないわ。」


「今さら示さずとも、その原則に揺るぎはないはずですが……論議が振出しに戻ってしまうようですが、やはり人間を殺害するような真似をしたリズァーラーの、動機が不明であることに変わりありませんね。」


「ともあれ、現地では慎重に情報収集を行わなければ。殺害の実行犯として示されたリズァーラーを即刻処分するわけにもいかないし、私たちが現地住民の意向に背く姿勢を見せるわけにもいかない。……聞いてた?ハリコ、マナコ。」


 ベスタは振り返り、先ほどから何やらバタバタと足を踏み鳴らしている二人の方を向く。


 完全に退屈しきっていたハリコとマナコは、互いに両手を取り合い、押したり引っぱったりして相手をよろめかせる遊びに夢中となっていた。


 任務についての打ち合わせ中に遊び始めるなど本来は言語道断であったが、ベスタはそんな二人の無邪気な振る舞いを無理に諫められずにいた。間もなくハリコとマナコは向き直り、妙に真面目ぶった態度で直立して頷く。


「はぁい、聞こえてましたよぉ。ずっとベスタさんの隣に居ましたからねぇ。」


「ウン、ウン。」


「マナコ先輩、ハリコ先輩も、ただ聞き流していたことと、打ち合わせに参加していたことは異なると思われますが。」


 ヤキバの方は心底真面目に進言するも、ベスタは彼を遮ってこの場を取りまとめる。


「ともかく、現地に到着してすぐに聞き込みを開始しないこと。私たちが到着したことを現地住民に知られていない状態で、情報を集めたいから。分かった?」


「了解ですよぉ、出番が来るまでリコくんと真っ暗なところで待ってますねぇ。」


「ウゥー。」


 すなわち、ややこしそうな仕事はベスタとヤキバに丸投げする気満々でいるということだ。


 呆れたように肩をすくめて視線を投げかけてくるヤキバに対し、ベスタは小さく頷き、このいつまでも幼げな二名の仲間の振る舞いに無言の許諾を与えていた。

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