第三話 第二章 別れの理由
ファミレスを指定してきた。
待ち合わせ場所がファミレスというのが、なんとなく嫌な予感がした。二人でよく行く店じゃなくて、駅前の、どこにでもあるチェーンの店。
柚月はもう来ていた。窓際の席で、水だけ頼んで待っていた。俺を見ても笑わなかった。
嫌な予感が、確信に変わった。
「……別れたい」
二人の沈黙が、あり得ない言葉で破れた。
俺は何も言えなかった。頭の中が混乱して、そんなことを言われる理由がわからなかった。
「……なんで」
「怖かったから」
怖かった。その言葉が、うまく飲み込めなかった。俺が?
「拓海くんが権利を使ってから、少しずつ変わった気がして」
「変わってない」
即座に言葉が出た。柚月は、ただ静かに続けた。
「職場まで来たこと、あったじゃない。サプライズって言ってたけど——私、ちょっと怖かった」
怖かった、という言葉をまた使った。
俺には意味がわからなかった。心配していただけだ。会いたかっただけだ。
「大切にしてくれてるのはわかってる。でも——」
柚月が少し間を置いた。
「なんか、息ができない感じがして」
息ができない。
俺はその言葉を聞きながら、植田のことを一瞬思い出した。
違う。全然違う。植田は本当に理不尽だった。俺はただ、柚月のことが好きなだけだ。
「俺は柚月のこと、好きだよ。ずっと一緒にいようねって、お互いおじいちゃんおばあちゃんになってもずっと一緒だよって、言ってたじゃん」
「……うん。言ってた。でも…」
「でも何?好きだから会いにって、好きだから話したくて、好きだから何してるのか気になって。当たり前のことだよ。」
「ねぇ、ちょっと声が大きいよ」
「あ……ごめん、でも、わかるだろ?」
「……うん、わかるけど。」
「じゃあそれでいいじゃん。」
「……」
柚月はそれ以上何も言わなかった。よかった、別れずに済んだ。
次の日以降、今まで以上に柚月のことを考えるようになった。画面に顔を近付けながらLINEを送る。既読がつかないだけでやきもきした。
今何してる?スマホ見て。何時に仕事終わる?もう帰ってるでしょ?
何回か送信してもなかなか既読にならない。何なんだよ、一体。昨日のファミレスのことも、なに勝手なこと言ってんだよ。
頭の中でまたいろんなことを考えてるうちに、外は明るくなってきていた。
次の日も既読にはならなかった。もしかして、万が一柚月の身に何かあったのか、と急に心配になってきた。そうなると居ても立ってもいられなくなった。仕事が終わると真っ先に柚月の職場に向かった。
柚月の姿が見えた。良かった、何も無かったのか、無事だったのか。じゃあなんでスマホ見ないんだよ。
「桐島君」
「あ、主任。お疲れ様です。」
訳を聞こうと思って柚月のほうに行こうとした瞬間、後ろから柚月を追いかけてきた男性が目に入った。
「誰だ?」
初めて見る男だった。
とりあえずここは引き下がるか。でも柚月には、本当はどう思ってるのか聞かなきゃいけない。
今度いつ会える?またこないだのファミレスでいいから会いたいんだけど。
柚月に送ったメッセージが一気に全て既読になった。やっと気持ちが通じた。
いいよ。じゃあ今度の土曜日ね。
画面に顔を近付けて、久々に来た短い返信を見ながら、今日は久しぶりに安心して寝られそうだった。
外の雨の音が激しくなってきた。その音すら心地良かった。




