第七話 第二章 通知
礼から連絡は来なかった。
暖人はスマホを手に持ったまま、自室の床にいた。いつからそこにいたのかわからなかった。壁に何かが触れていた。自分の背中だと気づくのに、少し時間がかかった。
画面が暗くなった。点けた。また暗くなった。
通知が来た。二十二時。
名前だけが目に入った。古谷、という文字。その隣に、見慣れない単語が並んでいた。読んだはずなのに、何も起きなかった。もう一度見た。同じ文字があった。
誤通知だと思った。
更新した。変わらなかった。
「指定執行が完了しました。対象者 古谷将広」
手の中にスマホがあった。
気づいたら手が床についていた。畳の目があった。細かく、均等に、どこまでも並んでいた。
礼に連絡しなければ、と思った。連絡先を開いた。礼の名前を見た。
空気が足りなかった。
画面を閉じた。また開いた。同じ名前があった。指が動かなかった。画面が暗くなった。
胸の中に何かが広がった。何だろう。わからない。息が詰まる。気付いたら一点を見つめていた。
礼は何日も画面に向かっていた。拓海は受付で頭を下げた。
次も、同じか——
ミンミンさん――ごめんなさい。オレ、無理だと思う。
何がPASSだよ。オレは……
次の相談の予定。返信を待っていたメッセージ。それらは届かないままだと気づいた。それだけだった。それだけなのに、床についた手に力が入らなかった。
あ、大学の授業。単位どうなるんだろう。
スマホが光った。礼か?
空白があった。
「あなたは選択権制度によって指定されました。」
なんだ?
指定者の欄に文字があるのが見えた。
指定者は空欄じゃないのか。
「指定者 市来星良」
目覚まし時計の秒針の音がする。
見たまま、何も起きなかった。
もう一度見た。
――せら。せら?
えっ……
指が凍えた。
その四文字が、ただそこにあった。




