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第四話 第三章 調査

次の日、私は図書館に行った。

 検索窓に「議事録」と入力する。

 結果がいくつも並んだ。国会、委員会、有識者会議。

 思っていたより多かった。

 画面を開き、閉じ、また開いた。

 静かな場所なのに、キーボードの音だけがやけに大きく感じた。

 選択権制度に関係する資料を順に読んでいく。

 ページを送っている途中で、指が止まった。


有識者会議発足。

提言書提出。


日付を見た。

一度あたりを見回し、また画面を見た。


――三カ月。


 再度あたりを見回した。誰もこっちを見てはいない。それなのになぜか背筋が伸びた。

 その日は、それだけノートに書いて帰った。


 何日か通ううちに、名簿を見つけた。


 社会学者、犯罪心理学者、裁判官、弁護士、検事、政策研究者——

 一人ずつ検索する。

 経歴。論文。写真。

 どれも問題はなかった。

 なのに、ページを閉じるたびに、何かを見落としている気がした。

 もう一度、最初から読む。

 名前を追っていく。

 視線だけで。

 途中で、画面の反射に自分の顔が映った。

 疲れているように見えた。

 ブラウザを閉じた。


 中庭の木が揺れている。葉が光を細かく揺らしていた。

 図書館はいつもと同じ温度だった。

 長く居すぎたかもしれない。


 暖人に話したのはその日の夜だった。

「有識者会議って、知ってる?」

「名前くらいは」

「制度を作った人たちなんだけど」

「あ、そう」

「調べてるんだけど、なんか変なんだよね」

 暖人は少し間を置いた。

「なんだそれ」

「うまく言えない」言葉が出てこなかった。

「……いやいや、資料にそう書いてあったなら、そうなんでしょ?」

 そうかもしれない、と思った。でもうなずけなかった。

「まあ、気をつけてね」

 暖人はそれだけ言った。

 何に?とは聞かなかった。


 図書館に通い続けた。

 参考文献を辿る。

 別の論文を開く。

 さらに引用元へ飛ぶ。

 気づくと同じ名前が何度も現れていた。

 閉館のアナウンスが流れた。

続きを自宅に帰って調べた。


夜だった。

ノートパソコンの光だけが机を照らしている。

 外を車が通るたび、画面を閉じたくなった。

 ある夜、一つの団体名に行き着いた。

 知らない組織だった。

 法人登録はある。

 代表者を検索する。

 何も出ない。

 住所を調べる。

 取り壊されたビルの写真。

 設立年。

 有識者会議の二年前。

 解散年。

 制度成立の翌年。

 画面の前で動けなくなった。

 役員一覧を開く。

 名前が並ぶ。

 一番下の名前を検索した。

 画像の中に、見覚えのある写真があった。

 政治資金パーティー。

 笑顔の人々。

 その端に立つ男。

 カーソルを名前の上に置いたまま止まる。

 部屋が静かすぎた。

 自分の呼吸の音が聞こえた。

 もう少し調べようと思った。

 検索窓を開いた瞬間。

 スマホが震えた。

 短い声が出た。


内閣府国民選択権管理局

あなたは対象者として指定されました。

指定者:

執行予定日時まで:7日

――え?

 ドクンと大きく鼓動が鳴った。

 画面を閉じた。

 もう一度、見た。

 部屋は静かだった。ノートパソコンの画面には、さっきまで調べていた団体名が残っていた。 スマホの光が、机の上に四角く落ちていた。

 まるで、自分だけがそこに切り取られたみたいに。

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