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猫かぶり勇者の無自覚無双 〜『頼りない僕ですみません』と泣き落としつつ、裏で魔王軍をボコボコにする〜  作者: Iori-y-


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第8話:前借りした10秒は、重すぎる愛に変わる

「ルカ様……! 『前借り』だなんて、そんな……! それはご自身の未来の命を、文字通り削り取っているということではありませんか……っ!」


エレノア様が、大粒の涙をポロポロと流しながら僕の車椅子にすがりついてきた。

隣では、聖騎士団長セリアが「自分の無力さ」に歯噛みし、拳を血がにじむほど強く握りしめている。


「すまない、ルカ殿……! 私が聖騎士団長でありながら、神の軍勢(天兵)を止める実力がないばかりに、あなたにそんな無茶を……!」


「う、うああん! ルカ様が死んじゃったら、誰が私にクッキー食べさせてくれるのぉぉ!」

元四天王のベアトリスまで、僕の太ももに顔を埋めて大泣きしている。


(いや、みんな落ち着いて。未来の命とか1ミリも削ってないから。僕の魔力、今も無限に湧き出てるから。脳内で勝手にシリアスな設定を盛るのやめてくれない?)


とはいえ、ここで「実はピンピンしてまーす!」と立ち上がるわけにはいかない。

僕の『終身名誉ニート』の権利(第2防衛ライン)は、この「半年に10秒」という絶対的なポンコツ設定があってこそ成り立っているのだ。


「いいんですよ、エレノア様。世界が消滅してしまえば、僕の未来もありませんから……。さあ、時間(10秒)がありません。セリアさん、窓を開けてください」


僕は消え入りそうな、今にも儚く散ってしまいそうな声で告げた。


セリアが涙を拭い、震える手でバルコニーの大きな窓を開け放つ。

心地よい風と共に室内に流れ込んできたのは、帝都の遥か上空、雲を割って降りてくる「天兵団」の圧倒的な神聖魔力だった。

数千の光り輝く天使たちが、街を焼き尽くさんばかりに槍を掲げている。


「来ます……! ルカ様、どうかご無理のない範囲で……っ!」


「大丈夫です。……ほんの、一瞬ですから」


僕は車椅子に深く腰掛けたまま、完全に虚ろな目で、上空の天使たちを見つめた。

そして、人差し指だけをそっと上空に向ける。


(さて、神様たち。僕の有給休暇(ニート生活)を邪魔した罪は重いよ。一瞬で消えてね。……あ、でも派手な爆発を起こすとベッドが汚れちゃうから、今回は【時間静止タイム・ストップ】からの【概念消滅ディリート】で)


完全なる無詠唱。魔力の気配すら一切表に出さない。

僕が小さく、指先を「ツン」と上空へ突き動かした――その瞬間。


ピキィィィィン……。


帝都の上空一帯の「時間」が完全に停止した。

光を放っていた天使たちも、風になびいていた雲も、すべてが灰色に染まり、静止する。


そして次の刹那、何の発破音もなく、数千の天兵団が、まるで最初から存在しなかったかのように、上空の空間ごと「サラサラとした光の塵」になって完全に消滅した。


雲一つない、透き通った青空だけがそこに取り残される。


「え……?」

セリアが、呆然と空を見上げる。


「天兵団が……一瞬で……消えた……?」

ベアトリスも口をぽかんと開けている。


よし、仕事は終わりだ。

ここからが僕の本番(演技)である。


「う、あ……。……はぁ、はぁっ……!」


僕はタイミングを見計らって、車椅子の背もたれに激しくのけぞり、ガクリと首を落とした。

そして、わざとらしく、口の端からツラリと(魔力着色液の)血を流してみせる。


「ル、ルカ様ーーーーーーっっっ!!!」


エレノア様が悲鳴をあげて僕を抱きしめた。


「ああ、なんということ……! 未来から前借りした10秒で、神の軍勢を消滅させるなんて……! ああっ、身体がこんなに冷たくなって……!」


「ルカ殿! 目を開けてくれ! 死なないでくれ!!」

セリアが僕の胸に耳を当て、狂ったように心音を確かめようとする。


(いや、僕の心臓めちゃくちゃ元気にドクドク動いてるから! 耳当てたらバレる! 頼むから離れて!)


「……だ、大丈夫、です……。ただ、未来の魔力を、一気に消費したせいで……。あはは、これで僕……次の10秒が使えるの……『1年後』になっちゃいました……。本当に、ただの……粗大ゴミ、です……」


僕は薄く目を開け、これ以上ないほど弱々しく微笑んだ。


これで完璧だ。

魔王の次は神の軍勢を倒した。世界は再び救われた。

そして僕は、「未来の魔力を前借りした代償で、今後は1年間、完全に指一本動かせない要介護者になった(大嘘)」という究極のニート設定の補強に成功したのだ。


これで向こう1年間、国が僕を戦場に引きずり出すことは100%不可能。

大義名分付きの、完全合法引きこもりライフの継続である!


だが、僕は見くびっていた。

「1年間、完全に動けない要介護者になった大英雄」に対する、ヒロインたちの愛の重さを。


「……分かりました、ルカ様」


僕を抱きしめるエレノア様の腕の力が、ギチ、と骨が鳴るほどの強さ(※僕には効かないけど)で強まった。

彼女の美しい瞳から涙が消え、代わりに底なしの沼のような、どす黒い執着の光が灯っていた。


「あなたが1年間、動けないというのなら……。この1年間、あなたの世界は『私だけ』で満たして差し上げます」


「え……?」


「お食事はもちろん、お風呂も、お手洗いも、髪の毛の一本に至るまで、私が責任を持って管理します。ベッドから出る必要はありません。外の空気なんて吸わなくていいのです。ルカ様はただ、私の愛だけを食べて生きていればいいのですわ……ふふ、あははは……!」


(ちょ、ちょっと待って? 皇女様、目がガチのヤンデレになってるんだけど!? お手洗いまで管理されるのは僕のプライドの第3防衛ラインが決壊する!!)


さらに、聖騎士団長セリアが僕の前に跪き、僕の冷たい(フリをしている)手を両手で包み込んだ。


「ルカ殿。あなたにこれ以上の負担をかけさせないため、私は聖騎士団の職を辞し、今日からあなたの『専属の生体シールド(抱き枕)』となります。24時間、あなたのベッドの横で、神界のいかなる攻撃からもあなたを肉体で守り抜くことを誓います!」


「ちょっとセリア! ルカ様のベッドの横は私の寝床よ! 私は元四天王だから、ルカ様を温める(添い寝する)権利があるもん!」


(おいおいおいおい!!! 誰もブラック魔王軍から僕を救ってくれとは言ってないけど、この『重い女3人による完全監禁ライフ』からも誰か僕を救ってくれよ!!!)


神界のブラック運営を粉砕し、第2防衛ラインをさらに強固にしたはずのルカだったが、その代償として、「四六時中、美少女たちに物理的に拘束される」という、別の意味で息の詰まる大ピンチ(?)を迎えていた。


しかも、問題はこれだけでは終わらない。

神界の本体が、この「ルカの規格外の強さ」を本格的に『世界のバグ(要修正)』と認定し、さらなる姑息な手段を準備し始めていたのだ。


(第10話へ続く)

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