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猫かぶり勇者の無自覚無双 〜『頼りない僕ですみません』と泣き落としつつ、裏で魔王軍をボコボコにする〜  作者: Iori-y-


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7/20

第7話:魔王様、有給消化中のニートを襲うのはマナー違反ですよ?

「ハハハハ! 哀れだな、勇者ルカ! その様子では、本当に指一本動かせぬようだな!」


崩落した天井から降り立った魔王は、漆黒の翼を広げ、勝ち誇った笑みを浮かべていた。

部屋中に満ちる、世界を滅ぼすレベルの濃密な魔力。


「ルカ様、お逃げ……いえ、動けないのですね……っ! セリア、命に代えてもルカ様をお守りしますわよ!」

「はっ! 我が騎士の誇りにかけて!」


エレノア様とセリアが、絶望的な戦力差を前にしながらも、僕の車椅子の前に立ちはだかる。

元四天王のベアトリスは、かつてのボスの威圧感にガタガタと震えながらも、僕の車椅子の車輪を必死に掴んでいた。


(いやいやいや、みんな気持ちは嬉しいけど退いて! 魔王の攻撃なんか僕の【全属性無効】でそよ風以下だけど、みんなに当たったら消し飛んじゃうから!)


それにしても、だ。

魔王は「一週間に10秒しか動けない弱点を見切った」とドヤ顔をしている。


ここで僕が普通に立ち上がって、魔王をワンパンで殴り倒したらどうなるか?

『あ、ルカって普通にいつでも動けるんじゃん』と全員にバレる。

そうなれば、明日からの「年中無休・魔王軍残党狩りブラック労働」が確定してしまう。


国からの給料で、贅沢三昧しながら引きこもる僕の第2防衛ライン(ニート生活)が、完全に崩壊するのだ。


(……絶対に動かない。車椅子から1ミリも腰を浮かせずに、魔王を処理する!)


「無駄だ、人間ども! 塵に還れ!」


魔王が右手を掲げ、帝都ごと全てを消滅させるほどの暗黒魔力球を形成する。

エレノア様たちが覚悟を決めて目を瞑った、その瞬間。


僕は、車椅子に深く腰掛け、完全に脱力したポーズのまま、魔王の足元に視線を向けた。


(……動けない僕の代わりに、『地面さん』に動いてもらおう)


発動したのは、万物のベクトルを自在に操作する神級スキル【因果歪曲・空間転移】。


(魔王の足元の空間だけを、『太陽の真っ芯』と繋げまーす。そぉい)


ポチッ、と脳内でスイッチを押す。


「死ねぃ、勇者ル――ぶっ!?」


魔王が放とうとした暗黒魔法は、完成する前に、彼の足元に開いた「直径1メートルの超極小ワームホール」へと吸い込まれた。


いや、吸い込まれたのではない。

魔王の足元だけが、一瞬にして数千万度の超高熱・超重力空間(太陽の中心)に直結したのだ。


「あ、が……え? 熱――ぎゃあああああああああああおあおあおああああああーーーーーーーっっっ!!!???」


魔王の叫びは、1秒ともたなかった。

世界を滅ぼすはずだった絶対王者は、下半身から一瞬でドロドロに蒸発し、その超重力によって、上半身ごと太陽の奈落へと引きずり込まれ、文字通り「消滅」した。


パチン。


空間の裂け目が閉じる。

あとに残されたのは、綺麗に円形にくり抜かれた床と、魔王が持っていたらしい焼き焦げた杖の破片だけ。


滞在時間、わずか3回。

魔王軍のトップは、世界で最もマヌケな形でこの世を去った。


「………………は?」


エレノア様が、間抜けな声をあげる。

セリアも、ベアトリスも、何が起きたのか全く理解できず、口をぽかんと開けて、くり抜かれた床を見つめていた。


「ま、魔王、様……? 消え……た……?」

ベアトリスがぶるぶると震えながら呟く。


よし、ここだ。僕のターンだ。


「がはっ……!!」


僕は車椅子の背もたれに、これ以上ないほどの勢いで激しくのけぞった。

そして、首をだらんと真横に曲げ、完全に意識を失ったフリ(※白目)をする。


「ル、ルカ様ーーーーーーっっっ!!!」


エレノア様が悲鳴をあげて僕にすがりついてきた。


「ああ、なんてこと……! 動けない身体でありながら、魔王の奇襲を予期し、残った魂の残滓(※魔力残量99.9%)をすべて燃やして、魔王を因果の彼方へ消し去ったのですね……!」


「そんな……。一週間に10秒どころか、ご自身の『命の寿命』すら削って世界を救うなんて……。私は、私はなんて無力な騎士なんだ……っ!」

セリアが床に涙を流して崩れ落ちる。


「ルカ様! 死んじゃダメぇぇぇ! 私、もうブラック魔王軍に戻りたくない! ここで一生クッキー食べてたいよぅ!」

ベアトリスまで僕の足を掴んで大泣きし始めた。


(よしよしよし。完全に『限界を超えて世界を救った悲劇の英雄』に仕上がったな)


これでいい。

魔王は死んだ。世界は平和になった。

そして僕は、「魔王を倒した代償で、さらに燃費が悪くなり、今後は半年に10秒しか動けない身体になった(大嘘)」という設定を付け加えることに成功した。


世界を救った大英雄。

しかし、半年に10秒しか動けない、究極の要介護者。


国は僕を戦場に送る大義名分を完全に失い、むしろ「人類の至宝」として、生涯、至れり尽くせりのVIP待遇で保護せざるを得ない。


「ルカ様……。これからは、私があなたの手足となります。生涯をかけて、あなたを愛し、お守りしますわ……」

エレノア様が、僕の額にそっと誓いのキスを落とす。その瞳には、もはや世界の誰にも僕を触れさせないという、宇宙より重い執着がギラギラと輝いていた。


「(……ま、まあ、ちょっとヒロインたちの愛が重すぎる気はするけど)」


至高のふかふかベッド。

極上の宮廷料理。

そして、僕を溺愛する美少女たち。


僕の被った「猫」は、世界を救い、そして完璧なニートの楽園(第2防衛ライン)を守り抜いたのだった。


――【WEB版・猫かぶり勇者】 完(日間総合ランキング1位獲得!)――

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