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猫かぶり勇者の無自覚無双 〜『頼りない僕ですみません』と泣き落としつつ、裏で魔王軍をボコボコにする〜  作者: Iori-y-


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第6話:動けない(フリの)僕と、帝都決戦

「ルカ様! 大変です! 窓の外を……窓の外をご覧ください!」


元四天王のベアトリスが、宮廷の高級クッキーをモグモグ食べながら、大慌てで僕のベッドに飛び込んできた。


「ベアトリス、ルカ様のベッドに気安く近づかないで。万死に値するわよ」

エレノア様が冷徹に威嚇するが、今のベアトリスには魔王の呪縛がない。ただの「食いしん坊な居候(元最強)」なので、どこ吹く風だ。


「そんなことよりエレノア! 門の外に、魔王軍直属の『魔導機甲兵団』が押し寄せてる! 私を連れ戻すのと、ルカ様を抹殺するのが狙いよ!」


(げぇっ! 魔導機甲兵団って、あの街を一つ更地にするっていう、魔王軍のガチの主力じゃん! なんでニート一人のためにそんな大層なもの連れてくるの!?)


僕が心の中で頭を抱えていると、部屋の扉が勢いよく開いた。

息を切らせた聖騎士団長セリアが、青ざめた顔で立っていた。


「エレノア殿下! 敵の総力は一万を超えます! 現在、第一防衛線が突破されました! 申し訳ありません……ルカ殿の『今週の10秒』をお借りするしか、帝都を守る術はありません……!」


セリアの言葉に、部屋の空気が張り詰める。

エレノア様は、痛ましそうな目で僕を振り返った。


「ルカ様……。あなたの魔力回路が、まだ回復していないのは百も承知です。ですが……どうか、あと一度だけ、世界のためにその命(10秒)を燃やしてはいただけないでしょうか……?」


(いやいやいやいや!!! 嫌だよ!! ここで僕が元気に立ち上がって『よっしゃ、いくぜ!』ってやったら、僕の【一週間に10秒しか動けないポンコツ設定(第2防衛ライン)】が完全に嘘だってバレるじゃん!)


嘘がバレたら最後、明日から「前線で24時間年中無休で戦う人間兵器」にジョブチェンジだ。それだけは絶対に、死んでも嫌だ!


(……よし、こうなったら『ベッドの上から一歩も動かないまま』、すべてを終わらせる!)


「……分かり、ました」


僕は、消え入りそうな声で、いかにも「命を削る覚悟を決めた英雄」の顔を作った。


「セリアさん……僕を、窓の近くまで車椅子で運んでいただけますか? 身体は……まだ、指一本、動きませんが……視線さえ通れば、魔法は、撃てます……っ」


「ルカ様……! なんという自己犠牲の精神……!」

セリアがボロポロと涙を流し、僕を恭しく車椅子へと移す。


窓の外を見下ろすと、帝都の遥か彼方、地平線を埋め尽くすほどの黒い魔導アーマーの軍勢が見えた。すでに帝都の結界はパキパキとひび割れ、兵士たちの絶望の悲鳴がここまで聞こえてくる。


「くっ、もう結界がもたない! ルカ様、早く一撃を――」


「待ってください、セリア。ルカ様は今、全神経を集中されているのです。邪魔をしてはなりません」

エレノア様が僕の手を優しく握る。その手が、緊張で少し震えていた。


(よし、じゃあサクッと終わらせますか。今回使うのは……これだな)


僕は完全に虚ろな目で、ただじっと、遙か数キロ先の魔王軍を見つめた。

そして、口元だけで小さく呼吸する。


(……一応、気遣ってあげるね。『そよ風』だとまた結界が壊れるから、今回は【重力崩壊グラビティ・ダウン】で)


完全なる無詠唱。魔力の気配すら一切表に出さない。

僕がただ、じっと敵の軍勢を「睨みつけた」――読者(周囲)から見れば、そう見えた瞬間。


――ズゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!


帝都の遥か前哨基地、魔王軍の一万の軍勢がひしめき合っていたエリアの「空間そのもの」が、突如として超高重力によって真下に圧潰した。


「……え?」

セリアが、持っていた剣を床に落とした。


地平線を埋め尽くしていたはずの、頑強な魔導機甲兵団。

それが、爆発音すらなく、まるで目に見えない巨人の足で踏み潰されたかのように、一瞬で「厚さ数センチの鉄のペースト」へと変わり、地面に埋没したのだ。

一万の軍勢が、文字通り、一瞬で消滅した。


後に残ったのは、綺麗に整地された、だだっ広い平地だけだった。


「な……何が、起きたの……?」

元四天王のベアトリスすら、ガタガタと顎を鳴らして怯えている。


「あ、が……。……うっ……」


僕は、タイミングを見計らって、車椅子の विडियोからガクリと首を落とした。

そして、わざとらしく、ハァハァと激しい息を吐き出す。


「ルカ様!?」

エレノア様が僕を抱きしめる。


「……す、すみません……。今ので……本当に、今週分の魔力が……スッカラカンに……。あはは、来週まで、本当に……寝たきり、です……」


もちろん、僕の魔力残量は99.999%のままだ。

だが、これでいい。『ベッドの上から一歩も動けず、視線だけで一万を消滅させるが、その後はやっぱり完全な粗大ゴミになる』という、究極のポンコツ最強設定が完成した。


セリアは、消え去った戦場と僕の姿交互に見つめ、あまりの衝撃にガチガチと震えながら、その場に膝をついた。


「視線、だけで……魔王軍の主力を、一瞬で圧殺した……? そんな、神の御業ではないか……。しかし、その代償が、これほどの苦痛(※寝たフリ)とは……。我らは、どれほどこの方に頼れば気が済むのだ……っ!」


「ルカ様……! もういいです、もう十分ですわ! あとの戦いはすべて我が帝国の兵にやらせます! あなたは、ただ私の腕の中で眠りなさい……!」

エレノア様が、さらに強い力で僕を胸に抱き込んできた。


(よーーーし! 完璧! これで向こう一週間は、大義名分付きの合法ニート生活だ! 戦場に行く必要もなし、国からの給料は入る、女の子にお世話してもらえる! 第2防衛ライン、完全死守完了!)


僕が心の中で大勝利の宴を開いていた、その時。


「――ほう。我が軍の精鋭を一瞬で塵にするとは。人間の割には、やるではないか」


突如として、部屋の天井が音を立てて崩落した。

現れたのは、禍々しい漆黒の翼を広げた、圧倒的な存在感を放つ男。


魔王軍のトップ。【魔王】その人が、自ら僕を暗殺しに現れたのだ。


「ひぃっ、ま、魔王様!?」ベアトリスが悲鳴をあげる。

エレノア様とセリアが、絶望に顔を歪めて武器を構える。


そして魔王は、車椅子の上で「動けないフリ」をしている僕を見下ろし、冷酷に笑った。


「一週間に一度しか動けぬという弱点、筒抜けだぞ、勇者ルカ。貴様の『次の10秒』が来る前に、ここでその首、貰い受ける!」


(おいおいおいちょっと待てよ!!! なんでボスクラスが直々に有給消化中のニートの部屋に突っ込んできてんの!?)


僕の完璧だったはずのニートプラン(第2ライン)が、魔王の「ダイレクトマーケティング(物理)」によって、過去最大の危機を迎えていた。


(第7話へ続く)

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