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猫かぶり勇者の無自覚無双 〜『頼りない僕ですみません』と泣き落としつつ、裏で魔王軍をボコボコにする〜  作者: Iori-y-


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第2話:防衛ラインを後退させます(※ただし死守)

「見つけました……! 昨日、魔獣の森の結界を『内側から一撃で破壊した』、伝説の隠れ勇者様ですね……!?」


帝国の第一皇女、エレノア様が美しい目をらんらんと輝かせて僕に詰め寄る。

横に控える聖騎士団長は、まるで神の再臨でも見たかのように直立不動で僕を凝視していた。


(おいおいおいおい待て待て待て!!! なんでバレてんの!? 結界? あ、あの時のそよ風魔法、後ろの結界までぶち抜いてたの!?)


冷や汗が背中を伝う。

脳内の第1防衛ライン――『一般の気弱なダメ冒険者』という設定が、音を立てて崩壊した瞬間だった。


皇女の目はガチだ。完全に獲物(最高戦力)を見つけた目だ。

ここで「人違いです」と言っても、あの結界を壊せる人間なんてこの街に僕しかいない。嘘を突き通せば、最悪「国家欺瞞罪」で別の意味で拘束される。


(チッ……第1ラインは放棄だ! 迎撃、第2防衛ラインへ移行!!)


僕の目指すゴールは「平穏な隠居生活」だ。

実力がバレたのは最悪だが、まだ手はある。『実力はあるけど、極度の欠陥品ポンコツ』だと思わせればいい。国だって、まともに命令を聞かない、あるいは致命的な弱点がある奴を最前線の将軍には据えないはずだ!


「……はぁ。見つかってしまっては、仕方がありませんね」


僕は、さっきまでの怯えた態度を一変させた。

ふっと息を吐き、前髪をかき上げる。涙目は消え、声音を冷徹な「強者のそれ」へと切り替えた。


「な、ルカ……!? お前、その喋り方……」

後ろでリーダーの戦士が絶句しているが、今は無視だ。


「さすがは皇女殿下。隠し通せる力ではない、ということですか。……ええ、認めましょう。あのダークウルフを塵にし、結界を消し飛ばしたのは、僕の力です」


「やはり……! では、あなたが我が帝国の、いや人類の救世主――」


「ただし!」

僕はエレノア皇女の言葉をピシャリと遮り、大真面目な顔で、堂々と胸を張った。


「僕のこの力、『一週間に一回、しかも10秒間』しか使えません」


「……はい?」

皇女がパチクリと瞬きをする。


よし、食いついた。ここからが僕の第2ライン、『燃費最悪のポンコツ一発屋』設定の死守だ!


「信じられないかもしれませんが、本当です。僕の魔力回路は極めて特殊でしてね。あの『神の一撃』を放つと、全魔力と全体力を使い果たし、その後まる一週間は、文字通り『指一本動かせないただのゴミ』になるんです」


「そ、そんな……」


「昨日だって、あの後どうなりました? 僕は地面を転がって、腰が抜けたフリをしていましたよね? あれ、フリじゃないんです。本当にガチで、筋肉が弛緩して動けなかったんです。リーダーに『怖かったな』って肩を叩かれた時も、心の中では(痛いから叩くな、死ぬ)って思ってました」


嘘である。ピンピンしていた。

だが、僕の語気があまりにも真に迫っていたため、聖騎士団長がゴクリと唾を呑んだ。


「なるほど……。超強力な代わりに、クールタイム(再使用時間)が異常に長いタイプの発現者、ということか……」


「その通りです団長さん! よくぞ理解してくれた!」

僕は内心で団長と熱い握手を交わした。そう、それだよそれ!


「つまり、僕は最前線で魔王軍と戦うなんて絶対に無理です。もし戦場に駆り出されて、最初の10秒で魔王を仕留め損ねたら、次の1秒で僕はただの肉塊になります。人道的に考えて、そんな危なっかしい兵器、前線に置けませんよね?」


さあどうだ!

これなら「たまに街の危機を救う凄腕(のハズレ枠)」くらいの位置で、ギルドの片隅に放置してもらえるはず。


皇女のエレノア様は、痛ましそうな、それでいてどこかうっとりとした表情で僕を見つめ、両手をぎゅっと握りしめてきた。


「……素晴らしいです、ルカ様。己の致命的な弱点を隠すため、あえて『気弱なダメ男』のフリをして周囲に溶け込んでいたのですね。その深い智謀、そして一瞬に全てを賭ける引き際の見事さ……まさに本物の英雄です!」


(あ、なんか思ってたより美談に解釈されてるな? まあいいや、戦畜にされるよりマシだ)


「ですので、我が帝国はルカ様を『常時戦力』としては扱いません。あなたには――我が宮廷の、【最高機密・一撃必殺ワンターンキル相談役】の座を用意いたします!」


「……へ?」


「普段は帝都の一等地にある高級邸宅でのんびり暮らしていただき、生活費は全て国が補償します。そして、どうしても国家が滅びそうな『ここぞ』という時だけ、その10秒の力を貸してください!」


最高級の邸宅。

働かなくていいニート生活。

有事の際(まず来ない)だけ、10秒働けばいい。


(……え? なにそれ、僕の理想の隠居ライフ(完全版)じゃん。第2ライン死守したら、なんか最高の結果が転がり込んできたんだけど)


「分かりました。その条件、謹んでお受けします」

僕は、精一杯「苦渋の決断をした英雄」の顔を作りながら、深く頷いた。


こうして、僕の「猫かぶりニート生活」が華々しくスタートする――はずだった。


「ではルカ様、さっそくですが、現在帝都の地下水道に巣食っている『100年間誰も倒せなかった不死身のリッチ(魔王軍幹部)』を、その10秒で消し飛ばしてきていただけますか?」


「……。……はい?」


就任初日。

さっそく「ここぞという時」がやってきてしまった。


(第3話へ続く)

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