第20話:最高神様、規約違反(ハッキング)の準備はできました
「これで終わりだ、バグ個体ルカ。そして不完全なる世界よ。塵に還るがいい」
空を埋め尽くす光の巨人――最高神がそう告げた瞬間、世界が足元からサラサラとデジタルデータのようになって崩壊し始めた。
帝宮の床も、豪華な絨毯も、すべてが光の粒子に変わっていく。
「ルカ様……! いや、嫌ですわ……! あなたとの、せっかくの、お世話(監禁)ライフが……っ!」
エレノア様が、消えゆく世界の中で僕の身体を必死に抱きしめる。
「ルカ殿、最期まであなたの盾に……っ!」
セリアがボロボロになりながら僕の前に跪き、ベアトリスも僕の服の裾を掴んで泣いている。
(みんな、シリアスなところ本当に申し訳ないんだけどさ。僕の【全属性無効】のパッシブスキルのせいで、世界消滅のデータ削除すら僕の周りだけ1ミリも効いてないんだよね。僕のベッドの周りだけ、めちゃくちゃ高画質で残っててちょっとシュールだわ)
だが、このまま世界が消えたら、明日からの僕の高級クッキーが食べられなくなる。それだけは絶対に阻止する。
最高神のデバフ結界のせいで、僕の上位魔法スキルはすべてロックされたままだ。
立ち上がって物理で殴れば神界ごと粉砕できるが、それでは「1年間寝たきり(大嘘)」の第2防衛ラインが崩壊し、明日から世界の再建労働(戦畜)に駆り出される。
(スキルがダメ、物理もダメ。……なら、直接『システム(神の領域)』をいじるまでよ)
僕はベッドの上に寝そべったまま、虚ろな目で宙を見つめた。
そして、人差し指の先を、ほんの1ミリだけピクッと動かす。
発動したのは、僕が持つ400個のスキルの中で、最も地味で、最も使い道がないと思っていたパッシブスキル――【不具合利用】。
(最高神の降臨ってことは、サーバーの本体(ルート権限)が今、僕の目の前に丸出しってことだよね。……ほい、バックドア設置。神界の基本プログラム、書き換えまーす。そぉい)
カタカタカタカタ……!
僕の脳内で、神界の運営システムが超高速でハッキングされていく。
最高神が「世界消去」のコマンドを実行しようとした、その刹那――彼の光の身体が、ピキッと不自然に硬直した。
「……ぬ? 何だ、これは……!? 我が身体の制御が……世界システムの権限が、何者かに書き換えられて……バグだと!? 修正不可能(致命的なエラー)だと!?」
最高神が狼狽の声を上げる。
彼の視界(と全人類の脳内)に、突如として真っ黒なシステムログが流れ込んだ。
【神界・緊急アップデート完了】
最高神(CEO)の権限を、一般ユーザー『ルカ・レインワース』に完全譲渡。
これより、神界の基本方針を『人類リセット』から【全自動・勇者ルカの介護(ニート生活)サポートシステム】へ変更します。
「な……何だとおおおおおおっっっ!?!?!?」
最高神の絶叫が世界に響き渡る。
次の瞬間、世界消滅のカウントダウンがピタリと止まり、消えかけていた帝宮の床や街並みが、凄まじい勢いで「復元」されていった。
それだけではない。
空にいた最高神の光の巨体が、みるみるうちに縮んでいき……最終的に、エプロンをつけた「ちんちくりんの幼女の姿」になって、僕のベッドの横にポツンと着地したのだ。
「え……? わ、我が、神の権限が……消えた……? 衣服が……エプロン……? なぜ、我が手に『はたき』と『雑巾』が握られているのだ……!?」
元・最高神(いまは新米メイド)が、自分の小さくなった手を見てガタガタと震えている。
「あ、が……うぅ……っ」
僕は、タイミングを見計らって、ベッドの上で激しく吐血するフリ(※いつもの魔力着色液)をしてみせた。
「ル、ルカ様ーーーーーーっっっ!!!」
エレノア様たちが僕に飛びついてくる。
「す、すみません……。神様の恐ろしい魔法に対して、僕の『指先の痙攣』が、たまたま神界のシステムと混線してしまって……。偶然、バグが起きて、神様を『メイド』にしちゃったみたいですぅ……。ああ、もう完全に、僕の向こう1年分の体力が……スッカラカンに……」
僕は白目を剥いて、完全に力尽きたフリをした。
「……ああ、なんという慈悲深さ!」
セリアが感動のあまり号泣した。
「ルカ殿は、神を殺すのではなく、メイドとして『更生』させることで、世界を救われたのだ! その代償として、ご自身の身体をこれほどボロボロにしながら……っ!」
「ルカ様! 私、一生あなたのお世話をします! この生意気な元神の幼女も、私がビシビシ教育して、ルカ様の完璧な足拭きマットにしてみせますわ!」
エレノア様の目が、さらに深すぎる愛と狂気で爛々と輝き始めた。
「私がお風呂担当ね!」
「いや私が添い寝シールドだ!」
(よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!! 完璧!!! 最高神をハッキングして、神界の予算を全部僕のニート生活に横流しするシステムを構築したぞ! これで一生働かなくていいし、神界からの嫌がらせも永久にない!)
僕の完璧な「猫かぶり」と「第2防衛ライン」は、ついに世界の運営そのものを乗っ取ることで、永遠の楽園(ただしヒロインたちの愛は1万倍重くなった)へと昇華したのだった。




