1544年(天文13年)4月下旬〜5月中旬、良縁来たりて家運隆盛!
1544年(天文13年)、この頃、摂関家の住まいは帝の住む御所の中には無く、其々が御所の周辺に住んでいました。最も近くに住んで居た近衛家は現在の御所の通りを隔てた西側にありました。
九条家は先祖が自費で創立した東福寺に住んでいました。城郭に近い作りの為、史実では度々大軍の集結に使われる程広大な敷地を所有していました。
東福寺の九条邸に菊松丸、桔梗屋と梨乃が到着しました。九条家の家人達も何か良い事の気配を感じて客間の近くに隠れて聞き耳を立てていました。
「殿下にご報告がございます!」
桔梗屋藤次郎が頭を下げました。
「なんだ?其方の娘御を連れて来たようだな?
おおぉ?梨乃かな?綺麗になったのぉ!」
「はい、綺麗になりましたから!
久々に殿下の凛々しいお姿に会いたくなりました!」
「ぶははは!梨乃?嬉しいホラを吹いたな?
桔梗屋?何を企んでる?」
「ははっ、実は、花山院家輔様から依頼を受けまして、近衛稙家様に摂関家のご領地奪還の件で打ち合わせに伺いました処、近衛様から菊松丸の正室に彩花姫様を嫁がせる故、其方の娘御から菊松丸に相応しい側室を選べ!とお言葉がございまして、我が自慢の娘の中で一番の器量を誇る梨乃を菊松丸殿の側室に選びました!
本日は太閤殿下にお許しを願いに参上いたしました!」
「ぶははは!菊松丸の正室に近衛稙家の娘?
ぶははは!其方の娘を側室に?
元服前に嫁二人?
菊松丸!お前は果報者じゃ!
痛快だ!桔梗屋!許す!
菊松丸の器量は九条家の中で一番かも知れぬ!
桔梗屋が後ろ盾なら鬼に金棒だ!
宜しく頼むぞ!」
桔梗屋藤次郎の脚色したストーリーに事情を知る菊松丸、梨乃や藤次郎の近習はクスクスと笑いを堪えていました。
桔梗屋藤次郎と梨乃が帰宅すると、九条稙通は菊松丸を傍に招きました。
「菊松丸?桔梗屋の話しと、儂の耳に入った話しが少し違っているようだが?」
「ははっ、ご推察の通りにございます。
桔梗屋が聞こえの良い美談に格上げしております。
兄上と九条家に損はございません!」
「その様だな…近衛邸には間者を貼り付けてあるからな、聞こえて来るのだ…桔梗屋が其々を見込んで近衛稙家の娘を正室に勧めたな?」
「はい、それが真実にございます」
「まぁ良い、其方の後ろ盾に摂関家筆頭の近衛稙家、更には都で最大の富裕商人、桔梗屋が後ろ盾なら、来年の元服も東国遠征も道が開ける筈…
とにかく、結果良しだ!」
「兄上にお願いがございます!
近衛様の御屋敷に伺った時に気が付きました。
通りの反対側にある御所の壁が崩れても直せず、代わりに木の柵を隙間に作っていました。
御所の修繕が必要かと感じました。
ご配慮をお願い致します!」
「あれはな、桔梗屋でも手が出せぬ闇があるからな、
承知したぞ!任せろ!」
九条稙通は即答しました。
数日後、九条家には祝いの品物が届くようになりました。早くも征伐軍の総大将の祝いと菊松丸の婚約の噂が先行して祝いの品が届き始めました。
九条稙通は菊松丸を呼び出しました。
「菊松丸!御所の壁は法華宗の寺院関係者に修繕させるぞ!既に修繕が始まり、御所全体を修繕する事になったから安心せよ!」
「ははっ、さすが兄上!法華宗とは鋭い!」
「そうだろう!理解したな?
10数年前に天文法華の乱で都が大火に見舞われた宗教絡みの戦いで、法華宗が敗れて追放された。
それ故に法華宗に御所の全面修繕を持ち掛けた。
法華宗が御所全体の修繕費用を負担する見返りとして、洛内に法華宗の寺院の再建が許される段取りつけてやったのだ!
ぶははは!これから法華宗は儂に頭が上がらぬぞ!」
「流石兄上!
先日おっしゃられた桔梗屋でも手が出せぬ闇とは?」
「あれはな、桔梗屋の父が御所の窮乏を見かねて仲間と資金を出して修繕を申し入れたが、多額の資金を騙し取られ、抗議した仲間が消されて泣き寝入りしたのだ。それから桔梗屋は私兵を持つようになった!
だからいつも護衛の兵士達と行動するだろう?
闇の奴らは強力な武力を持つ法華宗の僧兵には手が出せぬ!…幕府の中に巣食う怪物だ!
まぁそんなところだな…」
「ははっ、闇の意味が理解出来ました!」
菊松丸が御所の壁を気にして兄、九条稙通へ頼んで数日後に解決しました。
九条稙通の人脈と調整能力に菊松丸は驚きました。
4月の末から5月1日から5日頃までは朝廷や摂関家に其々季節の行事があり、その隙間に近衛家の彩花姫と菊松丸の婚約の儀、桔梗屋の娘梨乃と菊松丸の婚約の儀を済ませました。
5月10日、朝廷から九条稙通へ綸旨が下り、征伐軍の総大将の辞令と花山院家輔に副将の辞令が発せられ、出陣の日時は5月15日に決まりました。
辞令を受け取り、修繕が始まった御所から離れ、馬を並べて東福寺へ向かいます。
「兄上!10日後の出陣と申し上げたホラを吹きました!ひと月を超えてしまい、申し訳ありません!」
「気にするな!お前達が事前に奔走していた事を理解しているぞ!
摂関家の討伐軍など過去に先例の無い事!
朝廷は先例を重視する故、事前に調整した事も本番では平気でひっくり返してくるだろう。
当然幕府の中にも邪魔する輩が必ず居る!
横領を隠したい、バレなきゃ良いと考えている奴が必ず居る!
それらを潰しながら、幕府の勢力図を塗り替えねばならぬ!」
「ははっ、兄上、それは管領、細川晴元の失脚を狙う事でしょうか?」
「正解だ!細川晴元は幕府の財政は破綻しているが、五か国の守護として私腹を肥やして恥じない奴だ!」
「兄上、菊松丸も同じ事を指摘しておりました!
それ故、最初の討伐は近衛様の荘園で、横領したのは細川晴元の手下でございます。
菊松丸は、細川晴元の手下の勢力を削り、三好長慶の台頭を手助けして恩を売るべきだと申しておりました!」
「ほぉ、中々良い視点じゃな?」
「ははっ、細川晴元の配下を狙い撃ちに致します。
兄上、菊松丸から更に進言がございます。
細川晴元の配下の荘園の管理人が抵抗した場合に備えて、三好長慶から周囲の武装勢力に加勢禁止の下知を手配する事です!」
「それは三好長慶と事前に手を組むと言う事だな?」
「はい!細川晴元の配下だけを狙い荘園を奪還すれば、自然に三好長慶の力が大きくなり、恩を売る事になります!」
「解った!三好長慶に恩を売るぞ!
家輔、手配を任せたぞ!」
「ははっ!畏まりました!」
出陣が迫り、幕府に対する工作が始まりました。
幕府の最高権力者、細川晴元は五か国の守護ですが、軍事力を三好長慶と数名の家臣達に頼っていました。
細川晴元の直属の軍勢は2000程と想定されます。
間もなく荘園奪還の戦いが始まります。
九条家の兄弟が望む摂関家の荘園奪還の戦いが迫りました。
荘園の奪還と同時に幕府の構造を揺るがす一石二鳥の戦いが始まります。




