1544年(天文13年)5月中旬、賊徒追討軍の出陣が迫る!九条家五兄弟の奔走!
賊徒追討軍の出陣まで後2日、九条家の兄弟は早朝から任された任務に励みます。
其々に培った能力や人脈を駆使して準備が進みます。
5月10日、勅命により九条稙通を総大将とする朝廷の軍勢に賊徒追討宣旨が発せられ、横領された荘園の奪還が命じられた。
都には数々の噂が飛び交い、幕府の誰某が横領した荘園を寺院に売り払ったとか、名義を有名な寺社にすり替えたなど、真偽不明の噂が流れ、過去に横領している大名家や武装勢力は不安を抱える事になった。
都の要所要所には賊徒追討の宣旨が発せられた事をしめす高札が掲げられた。
高札の傍らには都の民に解説する弁士を配置した。
「勅命による正義の公戦が始まり、皇室、摂関家の荘園を横領した賊徒を追討する!」
弁士達は文字の読めない民や教養の無い民にも理解しやすい言葉で語り、賊徒追討軍の知名度は飛躍的に上がった。
高札は都の近郊だけで無く、近江国、山城国、摂津国、和泉国、河内国など、広い範囲に掲げられ、広く認知される事になった。
5月13日、出陣を2日後に控えた九条家の5人兄弟は早朝から其々が忙しく働いていました。
賊徒追討軍の本陣を東福寺に定め、出陣の準備に奔走します。
長兄、九条稙通は総大将として興福寺、東福寺、本願寺、武家の有志部隊の其々の幹部と打ち合わせ、朝廷から一条房通(左大臣)や長老達が次々に激励に現れて行列になっていた。
次兄、花山院家輔(帝の側近)は賊徒追討軍、副将となった事から摂関家の一門や、上級貴族達から領地奪還の陳情が殺到、側近達と分担して対応するも長い行列になった。
三兄、尋円は興福寺の僧兵の主将として準備を進めながら、驚きの知らせに遭遇します。
法華宗の軍勢3000が東福寺付近に現れ、賊徒追討に参加したいとの申し入れに驚きます。
法華宗の主将、松本久義は九条稙通に恩義があり、興福寺の最高責任者の尋円に仲介を頼んで来ました。
「松本殿?兄、九条稙通に恩義があるとは?」
「ははっ、今から8年前、法華宗の寺院の僧兵と門徒は反旗を掲げて都を大火にして追放されました。
稙通様は、我々に帝の御所の全面修繕の仕事をを与えて下さいました!
修繕の完成後は、洛内に法華宗の寺院の再建を許す御内意(帝の承認)を頂きました。
稙通様から法華宗の門徒に多くの仕事を頂き、数千の門徒の家族が救われてました!
尋円様!稙通様のお役に立てればと、何卒お口添えを賜りたく、お願い申し上げます!」
「ははっ、御所の全面修繕の事は兄から聞いていましたぞ、私は帝の側近ですから洛内に寺院の再建に付きまして御内意を取り付けたのは、私にございます。
帝に朝廷の立場から、御所の修繕と寺院の再建をご説明させて頂きました。
私にも御内意を引き出した功績が、少しあると考えていますが、如何でしょうか?」
「ははっ!尋円様にも大変お世話になりました!
このご恩義は必ずお返し致します!」
「ははは、冗談です。興福寺系列の寺院と法華宗の皆様が仲良くしていただければ充分にこまざいます。
さて、兄の元へ一緒に参りましょう!」
松本久義は誰も近づけない静かな客間に案内されて総大将、九条稙通と対面しました。
稙通は九条家の指示に従う事を誓わせ、誓詞を差し出す事を条件に従軍を許可しました。
これで法華宗は九条家を主人として都に復帰を許される事になりました。
四兄、如水(東福寺門跡)は五男の菊松丸と一緒に水面下で幕府対策に奔走しています。
八坂神社の奥まった来賓用の部屋にて待ち合わせ、周囲を互いの護衛に守られていました。
三好長慶は腹心の松永久秀を連れています。
両者は互いに挨拶すると、先ず如水が本題を切り出しました。
「三好様、我々は幕府の管領、細川晴元殿は幕府の財政を破綻させていながら、五か国の守護として優雅な暮らしをなされています。
私腹を肥やしながら、幕府の財政には見向きもしていません!それ故に、賊徒追討軍は細川晴元殿が絡む横領に特化して活動いたします!
朝廷は細川晴元殿が管領を退任された場合、後任を三好長慶様にお任せしたいと考えています!」
「ははは、いきなり朝廷の本音が来ましたな?
ならば、こちらも条件がありましてな、細川晴元と、側近の三好政長、政勝親子の排除が一緒に達成される事が最低条件だな?」
長慶の眼が鋭く如水を見つめました。
「ははっ、貴方の父君の敵ですね?
細川晴元殿と、細川政長殿が企んだ一揆に父君が消された故に、今まで良くぞ我慢なされました…
三好政長、政勝親子も排除いたします!」
如水は冷静に答えます。
「それを、承知とは驚きました!
それで、何か頼み事ですかな?」
「ははっ、横領した奴らに援軍が来ては面倒が起こります。賊徒に支援せぬ様に加勢禁止と合力禁止の下知を出して頂きたいたのです!」
「ぐははは!賊徒に援軍を出すな!
知恵を授けたり、何らかの支援をするな!…という措置ですな?」
「ご明察にございます。
是非、下知を出して頂きたいのです!」
「では、これを見て貰いましょう!」
三好長慶から如水に土地の所有者と、元の所有者の一覧が渡されました。
皇室や親族の御料の一覧が記録されています。
「これが、細川晴元の手下が皇室と御一門の御料を奪った証拠にござる!
これらを接収なさると約束頂けるのなら、加勢禁止と合力禁止の下知を出しましょう!
如何かな?」
「こんなに貴重な証拠を何故?
時間が掛かる筈…」
その時、三好長慶の傍らに控える松永久秀と菊松丸がニヤニヤしていました。
三好長慶が種明かしをします。
「如水殿、其方の弟、菊松丸殿が経営している茶屋で知り合いになりましてな、まぁ、見事な饗し(もてなし)と若いのに才能に溢れて儂のお気に入りでな、出来れば養子に貰いたいくらいじゃ!
菊松丸殿から頼まれて急ぎ作らせた!
細川晴元の悪事を公表すれば、帝と御一門の御料の横領で抹殺出来ましょう?
これで、互いに持つ持たれつであるかな?」
「ははっ!あれ?知らなかったのは私だけ?
菊松丸!何故黙っていたのだ!」
如水は大事な事を黙っていた弟に感心しながら腹を立てました。
「キャハハハ!兄上、上流階級の皆様と共有した秘密は大切に保持せねば信用されませぬ。
万が一にも九条家と三好様の繋がりが知られてはこの先に暗雲が立ち込めます。
だから兄上、秘密にしていてごめんなさい!」
「解った!菊松丸、仕方ないから許す!
それでは三好様、帝と御一門の御料を奪還致しますので、三好様は加勢禁止と合力禁止の下知をお願いいたします!」
「承知した!これからも宜しく頼みますぞ!」
「ははっ、宜しくお願いします!」
九条家と三好長慶は互いに持ちつ持たれつの関係が出来ました。
商才豊かな菊松丸の人脈が三好長慶、松永久秀に繋がっていた事が朝廷と九条家に幸いしました。
如水と菊松丸は細川晴元の不正に関する重要な証拠を手に入れて東福寺に戻りました。
東福寺に戻ると如水と菊松丸は長兄、九条稙通に大事な報告があるとして、稙通を如水が門跡として使っている客間に来てもらいました。
如水から報告を聞いた稙通が驚きました。
「何ぃー?横領された帝と御一門の御料?
細川晴元の横領の証拠?
なんだとー?菊松丸と三好長慶、松永久秀が知り合いだったのか?!
今まで何故黙っていたのだ?」
「兄上、声を静かにおねがいします!
誰かに聞かれてはなりません!
菊松丸が経営する高級茶屋のお客様が、三好長慶殿と松永久秀殿で、菊松丸とは数年前からの交流がありましたが、上流階級の方々の秘密保持の為に菊松丸は先ほどまで、私にも秘密にしておりました!
九条家と三好長慶殿が繋がってると、世間にバレたら困ります。
どうかご内密に、お願いいたします!」
「ぶははは!解った!菊松丸良くやった。
如水も二人ですごいぞ…
これなら細川晴元を失脚に追い込めるぞ!」
九条稙通は満面の笑みで喜びました。
「兄上、念の為、三好殿から頂いた御料に調査を進め、現地の寺院や神社に皇室御料の記録と照合せねば横領を立証出来ません。
密かに優秀な調査部隊を御料の調査と分からぬ様に調べさせましょう。
細川晴元に調査が知れると証拠隠滅や調査部隊に危険が生じます…」
菊松丸が慎重な調査を進言しました。
「解った!それでは元御料だけで無く、周辺の広い範囲を一斉に調べるが、寺院や神社には家系図調査、過去の歴史調査や、疫病対策の為の記録調査など、複合的な調査を名目にして、真の目的がバレぬようにするならどうだ?」
「はい!兄上!上策にございます!」
「それでは如水、東福寺に調査に適した人材を頼めるか?東福寺の坊主が調査するなら、都の役人が現地に行くよりも目立たぬ筈だ!」
「ははっ、兄上、ご明察にございます。
東福寺の僧侶と出入りの商人と檀家の方々からも応援を頼めば数百の人数が集まり、大規模名調査も平気でございます!
兄稙通の発想に如水の提案が加わり、菊松丸も納得の調査が始まります。
三人の話しが終わると稙通は次男の花山院家輔の元へ向かいました。
「家輔!どうだ?賊徒追討軍の総数は?
お前は、2ヶ月くらい前には追討軍は600名で充分とか、言ってた気がするが?
あれは儂の空耳だったかな?」
「ははっ!兄上!ははは!それで…
参りました!私の見込みが甘すぎました!
兄上、興福寺3000、東福寺1000、本願寺3000、法華宗3000が是非にと馳せ参じてやって来たので…ははは、総勢10000になりました!」
「ぶははは!良かったなー?
兵糧も軍資金も本来は計画を立案した其方が工面する筈だろうが?
興福寺と本願寺に法華宗が兵糧と軍資金を出してくれて助かったぞ!
責任を持ってお前が彼らに頭を下げて参れよ!
元関白が頭を下げる訳には参らぬからな…
フフフ…わかったな?」
「ははっ!仰せの通りにございます!
直ぐに行って参ります!」
夕日が傾き、東福寺の周囲が静かに橙色から闇の色に包まれます。篝火が明かりを広げ、兵士達は夕餉の支度が始まり、空腹を呼ぶ匂いが辺りに漂いました。
菊松丸には経営する店で培った独自の人脈がありました。
それは歴史を動かす可能性を秘めた、三好長慶、松永久秀との繋がりでした。




