1544年(天文13年)4月下旬、暗雲と逆転と縁談!
摂関家の荘園奪還に暗雲が立ち込めました。
花山院家輔が局面打開を模索します。
九条家の兄弟が練り上げた計画は後奈良天皇から黙認されて、摂関家の近衛家、一条家、二条家、鷹司家の当主から内諾を取り付けていました。
花山院家輔は近衛稙家に総大将が九条稙通になった事を知らせると、彼は難色を示しました。
この当時、朝廷は財政難に困窮し、近衛稙家が2年前に関白太政大臣を辞任して以来、朝廷の関白太政大臣が2年も空位にありました。
近衛稙家の懸念は、ライバルの九条稙通が総大将になって活躍した場合に関白に返り咲き、富と名声を独占される事を恐れた為でした。
近衛稙家が辞任した理由は近衛家の荘園が横領されて大半の収入が途絶えた為、関白の威厳を保つ資金が枯渇した為に辞任しています。
九条稙通と同じ理由で辞任していました。
それ以後は関白が辞任した理由を知る一条家、二条家、鷹司家の当主も財力が無いので関白就任を固辞した為、2年も関白が空位のままでした。
摂関家の奪われた荘園を取り返すのが目的と理解しながら、近衛稙家は頑なに拒否しました。
花山院家輔は、一旦説得を諦めて、搦手から近衛稙家を説得する道を選びました。
家輔は都の最大の商人、桔梗屋藤次郎に事情を話して近衛稙家の説得を依頼しました。
桔梗屋藤次郎は条件付きで引き受けます。
九条家の末弟、菊松丸が元服した後、正室を娶った後に藤次郎の娘を側室に貰う事と、近衛稙家の説得に菊松丸も同行する事でした。
桔梗屋の条件を勝手に受け入れた家輔は東福寺に向かい、菊松丸を呼び出しました。
「おぃ、菊松丸、兄上の総大将の件で近衛稙家様が臍を曲げてなぁ、許可が取れぬのだ!
そこで頼みがある!お前に側室を決めて来た!
桔梗屋藤次郎の娘を将来側室に貰って来れ!
元服した後に正室を娶るだろう?
落ち着いた頃に藤次郎の娘を側室に迎えてくれたらそれで良いのだ!」
「はぁ?兄上?側室?あの桔梗屋藤次郎の娘?
ふふふ、兄上、慌てて何をおっしゃる?
嫁取りは長兄の認可が必須!
何故?正室を貰う前に側室が決まるのですか?」
「あのな、側室から先に決めたのは悪かった!
近衛稙家様が兄上が総大将なら認めぬ!
そう言って許可が降りぬ!
だから桔梗屋藤次郎に説得を頼んだら将来、菊松丸が桔梗屋藤次郎の娘を側室に迎える事と、近衛稙家様の説得に、其方が同行するなら説得に伺うと2つの条件を認めてしまったから、頼む!
2つとも受け入れてくれ!」
「それで、私に犠牲になれと?」
「そうだ!頼む!兄上に10日後に出陣と宣言した手前、なんとかせねば切腹じゃ!」
花山院家輔は大げさに頼みました。
「ぶははは!兄上、切腹は困ります…
ふふふ、それでは将来、正室を迎えた後に、正室が許可したら側室を迎えましょう?
私にも逃げ道を貰いますよ!」
「わかった!わかったから、近衛様の説得に同行してくれるか?」
「ははっ、兄上が困るでしょうから… 桔梗屋藤次郎殿と近衛稙様の説得に伺いましょう…
但し、側室の件は貸しですよ!
長兄に側室を決めた報告を必ずして頂きます!
知らさねば、あとで長兄に叱られますよ!」
「わかった!責任は取る!
流石我が弟だ!頼む!
しかし、其方は桔梗屋藤次郎殿の何だ?
何故指名されたのだ?」
「ふふふ、漬物や和菓子のお店や、お洒落な茶屋を始めたら桔梗屋藤次郎殿と知り合って、何故か気に入られて、たまに本宅や別邸へに招かれたからかな?
何だか本妻の他に側室が数名居るらしいけど…
だから本宅にも別邸にも可愛い娘がたくさん居まして、何時もままごとに付き合わされました。
ふふふ、かなり可愛い娘が居ましたから、もしかしたらその中に側室候補が居たかもしれませんね?」
「うぬぬ、羨ましい…
桔梗屋は男前で正妻も側室も美女揃いらしいじゃないか?娘が美形なのは当然!
ともあれ、其方の人脈で救われた!
藤次郎殿と一緒に近衛様の説得を頼むぞ!」
「はい!畏まりました!」
花山院家輔の願い通り、菊松丸は桔梗屋の指名で近衛邸に行く事になりました。
この日、花山院家輔から連絡を受けた桔梗屋は自ら馬に乗り、騎兵20騎、槍兵10名を引き連れて東福寺の菊松丸を迎えに来ました。
最先端の甲冑に身を固めた兵士達が勇ましく見えました。
「菊松丸殿、桔梗屋は商人でありながら少しばかりの兵力を持っております。
貴方が娘を側室に迎えて頂けると聞いて嬉しくなりました。貴方の為に命を捧げる護衛を用意いたしましょう。これからは桔梗屋藤次郎が菊松丸殿の身の回りをお守り致します!」
「ははっ、未来の義父殿!
宜しくお願いいたします!」
菊松丸の言葉に、兵士達の背筋が伸びました。
彼らの主人を未来を義父と言った言葉に不思議な気持ちの高まりを感じた反応でした。
近衛邸を訪ねた二人は近衛稙家と親しい仲でした。
菊松丸は近衛稙家が茶会に招いた来賓に提供する和菓子に菊松丸の考案した数種類の栗菓子を提供して以来、菊松丸の店と提携する事になり、度々近衛邸に出入りする内に近衛邸の子供達や家人達と仲良くなっていました。
桔梗屋藤次郎はの家は代々近衛家の御用商人でした。
近衛稙家が関白を辞任した頃は借財が返せず窮乏していましたが、桔梗屋が全ての借財を肩代わりして借財を完済しました。
近衛家は都周辺に残された荘園の管理を桔梗屋に任せて、莫大な借財を少しずつ桔梗屋に返済しています。
近衛稙家は桔梗屋に頼まれたら断れない立場にありました。
桔梗屋藤次郎と菊松丸は親しげに挨拶を交わすと桔梗屋藤次郎が本題に入りました。
「近衛様、摂関家の荘園を奪還する良い機会になりました。近衛様が嫌いな九条様ですが、総大将は名目上の事で、実質は九条家のご次男、花山院家輔様にございます。朝廷の威信が掛かる事でお飾りの総大将にございます。
九条様は最初に目立って頂き、後は花山院家輔様が軍勢を率いて各地の荘園を奪還に参ります。
取り返した摂関家の荘園を管理するのは実質、桔梗屋藤次郎に任されます。
九条様も最初のお飾りと理解なされて総大将を引き受けて頂きました。
九条様に関白へ返り咲く気持ちはございませぬ!」
「おぉ?そうか?左様であるなら許してやっても良いが、取り返した摂関家の土地の管理も其方がしてくれるのだな?」
「ははっ、間違いなく私が責任を持って管理致しますのでご安心ください!」
「ふふふ、取り返したら管理も人数が必要な筈、其方らに秘策でもあるのか?」
「ははっ、ご明察にございます。
まず、調査済みの摂関家の荘園に軍勢を進めます。
勅命で返還を求める証書を提示します。
横領した土地の所有者に話し合いで返還を求めます。返還に応じるならそのまま荘園の管理人として雇い、収入の4割を報酬として与える契約を致します。
更に荘園の総責任者が桔梗屋藤次郎になり、荘園の管理人に推定される収入を先払い致します!
この秘策は菊松丸殿が授けてくださいました。
これ以上の策はございません!」
「何と?菊松丸?驚いたぞ…
14歳にしてこの様な策を考えるとは…
ふふ、それなら戦わずに取り返せるかもしれぬ…
しかし、戦いになったら如何に対処するのだ?」
「我々は錦の御旗を掲げた官軍にございます。
逆らえば賊軍となり、彼らは全てを失います!」
「極力話し合いで解決せよ!
乱取りなど、領民達に危害を与えてはならぬ!
良いな?」
「ははっ、畏まりました!」
「それで、桔梗屋?
九条家の菊松丸が一緒とは何か企みがあるのか?」
「はい、ご明察にございます!
実は花山院家輔殿に頼まれまして近衛様の説得に参りましたが、只では動きませぬ!
説得に伺う見返りに菊松丸殿が正室を迎えられた後に、我が桔梗屋藤次郎の娘を側室にして頂く確約を頂きました!」
「おぉっ!側室だと?ほぉ、面白いじゃないか?
それで菊松丸はそれで良いのか?」
「ははっ、私は花山院兄上の為に覚悟を決めました!
しかし!只ではなりませぬ!
兄上に申し上げました!
正室が許したら側室を迎えます!
菊松丸にも逃げ道を頂けるなら受け入れるといたしました!」
「ふふふ!面白い!誰が菊松丸の正室になるか?
正室が側室を許すのか?
ふふふ…楽しみだな?」
「近衛様、菊松丸は来年元服して東国に遠征して摂関家の荘園を奪還する夢があるそうにございます。
今回の事は全て東国に向かう菊松丸殿の試金石だと聞いております!」
「東国に遠征だと?正気か?
関東は大乱の最中だぞ!菊松丸本気か?」
「ははっ!本気にございます!」
「近衛様、私は菊松丸殿に惚れて我が娘を側室に申し込みましたが、正室には是非!
近衛様の姫君から正室にと考えて菊松丸殿に同行してもらいました!
将来有望な菊松丸殿を婿になされて摂関家の未来を切り開きませぬか?
近衛様には、お年頃の姫様達がいらっしゃいます!
我が娘と仲良しの姫様達なら仲良く出来ましょう!」
近衛稙家の娘、彩花姫がやって来ました。
「父上!私が菊松丸の正室になります!
彩花が東国へ参ります!
私以外に菊松丸の嫁はありません!」
幼馴染の彼女はずっと菊松丸の嫁になる事に決めていました。
「ならん!東国に行くんだぞ!
危ないじゃないか?ダメだ!」
近衛稙家は反対しますが…
「ふふふ、近衛様、彩花姫様が正室なら良いではありませんか?我が娘達も彩花姫様と幼き頃から仲良しですから、我が娘が側室なら姫様も側室を許していただけましょう!」
「えーっ、亜美?愛梨?愛蘭?梨乃?あのさー!
誰が候補なの?
あのね、桔梗屋の叔父様は正妻に側室が5人?7人?10人?都で一番のスケベだから!
年頃の娘達がたくさんいるから誰が側室になるの?」
毒舌な彩花姫が不満を漏らしました。
「あれあれ…これはまぁ、随分と手厳しいお言葉でございますなぁ…
姫様!誰にするか、あの、娘達は粒ぞろいなので…
姫様と仲の良い娘にいたしますから、側室をお許しください!」
「ダメだ!彩花はやらん!
菊松丸!悪く思うな!
危ない場所には彩花をやれぬ!」
「近衛様!姫様に護衛を付けましょう!
東国に行くなら精鋭を揃えます!
桔梗屋藤次郎が、姫様をお守りいたします!」
「少し考えさせろ!庭を散歩して参る!
彩花!其方も来い!話がある!」
近衛稙家と彩花姫が庭で何かを話し込んでいました。
暫くして二人が戻りました。
「桔梗屋!決めたぞ!許す!
桔梗屋藤次郎が精鋭を揃えてくれるなら…
好きに致せ!九条家にはこちらから申し込むぞ!
その代わり、彩花!桔梗屋の娘が側室になる事を認めなければならぬぞ!」
「はぃ、父上、ありがとう!
父上大好き!菊松丸!決まったからね!」
「ふふふ、彩花姫、宜しくお願いいたします!
近衛様!未熟者ですが、彩花姫を幸せにする事をお約束いたします!」
菊松丸は、以前から幼馴染の彩花姫の気持ちを知っていました。菊松丸も彩花姫が好きでした。
彩花姫なら自分の長所も短所も知っています。
帰宅したら兄達に何と話せばよいのか?
笑いがこみ上げ、菊松丸と彩花姫は笑顔で見つめ合いました。
近衛邸では、彩花姫の乱入が吉となって彼女が幸せを掴む事になりました。
近衛稙家が全てを了承した為、摂関家の荘園奪還に向かって舵が切られ、正式な手続きが始まり、勅許や勅書、綸旨の検討が始まりました。
副産物として菊松丸の正室と側室の縁談も進展する事になりました。
彩花姫が菊松丸の正室の座を確保しました。
桔梗屋の娘が側室になる事も決まりました。
最も得したのは菊松丸かもしれません。




