表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
視竜 〜最弱の眼、最強を射抜く〜  作者: Studio Yodaca
霧のひく辺境で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/12

石の言い伝え

その夜、ハルダの家にゴルド爺が訪ねてきた。


 冬支度の采配の相談だった。村でいちばんの年寄りと二番目の年寄りが、囲炉裏端でぼそぼそと話し込む。セイルはその傍らで薪をくべていた。


 話が一段落すると、ゴルド爺の目がふと、土間の隅の古い祭壇のようなものに留まった。


「ハルダ」ゴルド爺は言った。「おまえまだあの祈りを継いでるのか。石の」


「継いでるよ」ハルダは頷いた。「ばあさまから教わったとおりに。月の変わり目には、石の前で」


 石。視る石(みるいし)。村はずれの斜面に立つあの黒ずんだ石柱のことだと、セイルはすぐに分かった。


「石の祈りって」セイルはつい訊いた。「あれは何の祈りなんだ」


 二人の年寄りがちらと顔を見合わせた。


「さあてなあ」ゴルド爺はしわがれた声で言った。「何の祈りかなんてのは、誰も知らんよ。ただ唱える言葉と畏れることだけが、ばあさまのそのまたばあさまから伝わってきた。中身はとうに忘れられてる」


「忘れられてる?」


「ああ」ゴルド爺は頷いた。「あの石はな、ずっと昔からあそこに立っている。村ができるもっと前から。神秘時代の――学問なんてものが影も形もなかったころの、何かの名残だと言われとる。だがそれが何なのかは、誰も知らん。ただ畏れろ、近づくなと。それだけが伝わってきた」


 神秘時代の名残。


 その言葉がセイルの胸に奇妙に響いた。


「なんで」セイルは訊いた。「畏れなきゃならないんだ。ただの石なのに」


「ただの石じゃないからさ」ハルダが静かに言った。「あの石はな、たまに――ほんのたまに何かをするんだ」


「何かを?」


「光ると言う者もいる」ゴルド爺が声を落とした。「うんと昔、村のずっと昔の年寄りが見たそうだ。あの石がひとりでに、ぼうっと光ったのを。何の前触れか、何が起きるのか、誰にも分からん。ただ光った年は――村に何かが起きたとも言うし、何も起きなかったとも言う。話は伝わるうちに、ぼやけちまう」


 セイルは息を呑んだ。


 石がひとりでに光る。


 その話に、なぜか肌がざわついた。自分があの石の前に立つと肌の奥が騒ぐ、あの感覚。それとどこかで繋がっている気がした。


「セイル」ハルダがふとセイルを見た。「おまえはあの石が好きだろう」


 図星だった。セイルは答えに詰まった。


 好きというのとは違った。だが惹かれていた。村の者が皆畏れて近づかない、あの石に。なぜか自分は引き寄せられた。気づくと、斜面のてっぺんであの石をじっと見つめていることがあった。そしてそのたびに、村の者の目が変わった。視る石(みるいし)みたいな子だと。


「好きってわけじゃ」セイルは口ごもった。「ただなんか――気になるだけだ」


 ゴルド爺がしばらくセイルを見ていた。その目に、いつもの村の者の気味悪がる色はなかった。代わりにあったのは――どこか案じるような色だった。


「気をつけな」ゴルド爺は低く言った。「あの石にあんまり近づくんじゃないよ。畏れろってのはたぶん――近づくなってことなんだ。中身も知らんものに、軽々しく近づくのはよくない。昔の人がそう伝えてきたんだ。きっと理由があったんだろう」


 ハルダも頷いた。


「おまえは」ハルダはぽつりと言った。「あの石に似てるところがあるからね。気をつけるんだよ」


 ゴルド爺が帰ったあと、セイルは寝床でその言葉を何度も転がした。


 あの石に似てる。ハルダはそう言った。中身を誰も知らない神秘時代の名残。ひとりでに光る石。それと自分が似ている。


 どういう意味だろうと、セイルは思った。だがハルダはそれ以上は言わなかった。ハルダ自身もおそらく、はっきりとは分かっていないのだ。ただ長年孫を見てきた者の直感として、そう感じている。この子はあの石とどこか似ていると。


 畏れろ。近づくな。中身を知らないものに。


 古い言い伝え。だがその「中身を知らないもの」に、自分は惹かれていた。畏れながら惹かれる。村の者が皆避けるその石に、自分だけが引き寄せられる。


 なぜだろうと、セイルは闇の中で思った。


 その問いの答えは、まだどこにもなかった。ただ明日もまた、自分はあの斜面へ足を向けてしまうのだろう。畏れと惹かれの、その狭間で。いつものように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ