組めない者
次の討伐演習でセイルは組から外された。
その日の演習は、前より少し難度が上がっていた。影絡みという魔物が出る古い坑道。暗がりに潜み、触手のように絡みつく。光を当てれば、輪郭がほどけて薄れる。だから組ごとに光源を確保しながら、進む必要があった。
「組を作れ」ガウェルがいつものように指示した。「今日は四人一組だ」
学徒たちが組を作り始めた。セイルもトビーと組もうと近づいた。
だがそこへ声が割って入った。
「ちょっと待ってくれよ」
メイナ・ドルフだった。アルヴォの取り巻きの一人。気の強そうなそれでいてどこか芯の弱そうな男だった。
「そいつと同じ組は勘弁してくれ」メイナはセイルを顎で示した。「そいつ、魔力流せないんだろ。坑道で影絡みに巻かれたら、誰が助ける。魔力を流せない奴がいたら、その分こっちが危なくなる」
「そうだよ」クレス・アイゼルがすかさず続いた。打算的な目で、周りの空気を読みながら。「実習は遊びじゃない。命がかかってる。足手まといを抱える余裕はない。――なあ、みんな」
学徒たちが目を逸らした。
誰もメイナとクレスに反論しなかった。彼らの言うことは、半分本当だったからだ。セイルは魔力を流せない。坑道で自分の身を術で守ることすら、できない。一緒に組めば、その分他の者が庇わねばならない。
正しかった。だからこそ、誰もかばえなかった。
「待てよ」
声を上げたのはトビーだった。
「セイルは足手まといなんかじゃない」トビーはメイナをにらんだ。「この前の演習知らないのか。あいつが灰喰いの本体を当てたんだ。あいつがいなきゃ、何人かやられてた。視えるんだよ、あいつには。魔力とは別のものが」
「視えるねえ」メイナが鼻で笑った。「気味の悪い話だ。魔力もないのに何かが視えるだって? それこそ不気味じゃないか。――そういうの、化け物って言うんじゃないのか」
化け物。
その一語が坑道の入口に冷たく響いた。
セイルは唇を噛んだ。村でずっと言われてきた言葉だった。視る石みたいな子。気味の悪い勘。それがここでも――中央でも、ついに口にされた。
「おい、言い過ぎだろ」トビーが声を荒げた。
「事実だろ」メイナは引かなかった。「魔力なしで何かを視る。学問じゃ説明できない。そういうのは、神秘の領分だ。神秘の連中と同じだ。――そんな奴と、命を預け合えるか」
「やめろ」
ガウェルの低い声が割って入った。
学徒たちが一斉に口をつぐんだ。ガウェルは武骨な顔でメイナとクレスを見据えた。
「ドルフ。アイゼル」ガウェルは淡々と言った。「お前たちの言い分は、半分正しい。ロウラントは魔力を流せん。坑道では確かに、守ってやる必要がある」
メイナが勝ち誇った顔をした。
「だが」ガウェルは続けた。「この前の演習で何人の命をロウラントが救ったか、忘れたか。お前たちが目の前の虫に夢中で背後を取られかけたとき。本体の動きを読んだのは、ロウラントだ。――守る価値がない奴か?」
メイナが言葉に詰まった。
「組は」ガウェルは言った。「私が決める。ロウラントは私と組む。文句は言わせん」
それでその場は収まった。
だが――収まっただけだった。
演習のあいだ中、セイルはメイナとクレスの視線を感じていた。
化け物。その目がそう言っていた。村人と同じ目。気味の悪いものを見るあの目。学問の都でなら、それを免れられるかと思った。だが結局――どこへ行っても同じだった。
演習の帰り、トビーが隣に来た。
「気にすんなって」トビーは言った。だがその声は、いつもより硬かった。「メイナのやつ、アルヴォの腰巾着だからさ。アルヴォがお前を見下してるから、それを真似してるだけだ」
「ありがとう」セイルは言った。「庇ってくれて」
「当たり前だろ」トビーはぶっきらぼうに言った。だがその横顔は、少し不安そうだった。
セイルには分かった。トビーは今日、自分を庇った。だがいつまで庇いきれるだろうか。メイナとクレスだけではない。学徒たちは皆、薄々思っている。あの落第者は気味が悪いと。今はガウェルが抑えている。だがガウェルのいない場所で――いつかその「気味悪さ」が、もっとはっきりした形をとるかもしれない。
その夜、ふとセイルはピルのことを思い出した。
あのただ足りない者。聴講の席で隣に座ろうと言ってくれた、気弱な青年。
そういえば近ごろ、ピルを見かけない。
聴講の席に来なくなっていた。誰かに訊くと、ピルは聴講をやめたのだという。半年の猶予を待たずに。魔力が足りないまま、術式も組めぬまま、静かに中央を去っていった。誰にも惜しまれず。誰にも気味悪がられもせず。ただ足りない者として、埋もれて消えた。
セイルは奇妙な痛みを覚えた。
ピルは消えた。だが自分は――消えることすらできない。気味悪がられ、化け物と呼ばれ、それでも視えてしまう。埋もれることができない。
弱いだけなら、ピルのように静かに去れた。だが弱くてなお異質だから。自分はこうして目立ち続け、隔てられ続ける。
ピルの空いた席が、その夜やけに目についた。




