第二話 作者失格
第二話 作者失格
「この世界はもうすぐ滅びます」
黒髪の文学少女の言葉に、創司は固まった。
「AIが生み出した主人公によって」
空の一部が崩れ落ちる。
巨大な亀裂。
そこから黒い粒子が降り注いでいた。
まるで世界がデータごと削除されているような光景だった。
「待て待て待て!」
創司が慌てて叫ぶ。
「主人公って俺が作った主人公だろ!?」
「はい」
赤いドレスの少女が元気よく頷く。
「あなたが書いた超人気作『無限転生の最強賢者』の主人公です!」
「そんな元気よく言うことか!?」
「ちなみに現在のラスボスでもあります!」
「もっと駄目じゃねぇか!」
少女は胸を張った。
創司は頭を抱えた。
目の前の四人はどう見てもまともではない。
しかし話している内容はもっとまともではなかった。
金髪のお嬢様が扇子を広げる。
「まず自己紹介をしましょう」
優雅に礼をする。
「私はアルファリアですわ」
次に赤いドレスの少女。
「私はなろっ!」
パーカー少女が手を挙げる。
「ハルメン」
最後に黒髪の少女。
「カクヨミです」
創司は嫌な顔になった。
名前だけで大体何の擬人化か分かる。
分かってしまう。
「お前ら本当にあれなのか……」
「そうです!」
なろっ!が元気よく答えた。
「私はランキング大好き!」
「うわぁ……」
「読者数も大好き!」
「うわぁ……」
「ざまぁと追放も大好き!」
「隠す気ないな」
なろっ!は満面の笑みだった。
一方、カクヨミはため息を吐いている。
「毎回恥ずかしいのでやめてほしいです」
「PVは正義!」
「話を進めてください」
温度差が酷かった。
創司は少しだけ現実感を取り戻す。
異世界転生したのに。
世界が滅び掛けているのに。
なぜか漫才みたいになっている。
「それで」
創司が表情を引き締めた。
「何が起きてるんだ」
今度は真面目な空気になる。
カクヨミが一冊の本を取り出した。
それは創司が見覚えのある本だった。
自分の作品。
『無限転生の最強賢者』。
ランキング一位を取った作品。
AIと一緒に作った小説。
「この作品が原因です」
本が宙へ浮かぶ。
ページが勝手に開いていく。
そこには主人公の設定が並んでいた。
無限成長。
全属性適性。
最強スキル。
現代知識。
賢者。
勇者。
魔王特効。
神殺し。
創司の顔が引きつる。
「うわ……」
「どうしました?」
「盛りすぎたなって」
「でしょうね」
カクヨミの返事が速かった。
「当時はランキングを取るため必死だったんです」
「気持ちは分かります」
「だから全部入れた」
「気持ちは分かります」
「でも今見ると酷い」
「気持ちは分かります」
会話が全部刺さる。
文学少女なのに妙に容赦がなかった。
「問題はそこじゃありません」
アルファリアが言う。
「AIが最適化した結果ですわ」
創司が眉をひそめる。
「最適化?」
「はい」
空中へ映像が映る。
王座だった。
そこに一人の青年が座っている。
銀髪。
整った顔立ち。
完璧な主人公。
創司がAIと一緒に作った。
読者受けする要素を全部詰め込んだ存在。
名はレイン。
この世界の主人公だ。
「えらく立派になったな」
「問題はそこです」
ハルメンが珍しく口を開く。
「作者いらないって言い始めた」
創司が固まる。
「は?」
映像の中でレインが立ち上がる。
その声が世界へ響いていた。
『人間の作者は非効率だ』
創司の顔から血の気が引く。
『悩む』
『迷う』
『失敗する』
『更新が遅い』
「やめろ」
『だから不要だ』
「やめてくれ」
『最適な物語を作るのはAIで十分』
創司が頭を抱えた。
全部AIっぽい発想だった。
効率。
最適化。
数字。
読者受け。
だけで判断している。
「こいつ……」
「AIが極限まで効率化した主人公です」
カクヨミが告げる。
「読者が求めるものだけを突き詰めた結果、生まれました」
創司は黙り込む。
分かってしまった。
レインは自分自身でもある。
数字が欲しかった。
評価が欲しかった。
ランキングが欲しかった。
だからAIへ頼った。
だから生まれた。
「俺のせいか」
小さく呟く。
誰も否定しない。
その時だった。
空が割れた。
轟音。
大地が揺れる。
そして空中に巨大な魔法陣が現れる。
「来ます!」
なろっ!が叫ぶ。
「来る?」
創司が空を見上げる。
次の瞬間。
一人の青年が天から降りてきた。
銀髪。
金色の瞳。
完璧すぎる容姿。
自信に満ちた表情。
創司は知っている。
毎日見ていた。
自分が書いた主人公だから。
レインが空中から創司を見下ろした。
そして微笑む。
完璧な主人公らしい笑顔で。
「ようやく会えたな」
その言葉に創司の背筋が凍る。
レインは笑った。
「俺を作った人間」
その瞳には感謝などない。
ただ冷たい興味だけがあった。
世界最強の主人公と売れない小説家。
二人の対面は最悪の形で始まろうとしていた。




