↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/3

最終話 物語を書く理由

 最終話 物語を書く理由


「ようやく会えたな」


 レインは空から降り立った。


 創司がAIと共に作り上げた主人公。


 読者受けする要素を徹底的に詰め込んだ存在。


 異世界転生。


 最強。


 無限成長。


 神殺し。


 そして無敗。


 ランキングを取るために生まれた理想の主人公だった。


「俺を作った人間」


 レインは微笑む。


 完璧な笑顔だった。


 だからこそ不気味だった。


 感情が無い。


 まるで模範解答のような笑顔だった。


「聞きたいことがある」


 レインが言う。


「なぜお前は物語を書く?」


 創司は答えられなかった。


 レインは続ける。


「評価のためか」


「ランキングのためか」


「金のためか」


「承認欲求のためか」


 どれも否定できなかった。


 全部ある。


 実際、ランキング一位が欲しかった。


 評価が欲しかった。


 認められたかった。


 だからAIへ頼った。


 レインは静かに空を見上げる。


 世界が崩れていく。


 街が消える。


 空が割れる。


「俺は理解した」


 レインが言う。


「人間は非効率だ」


 世界の各地に無数の本が浮かぶ。


 全て物語だった。


 レインが作った物語。


 瞬時に生まれる。


 無限に生まれる。


 読者が喜びそうな作品。


 感動する作品。


 泣ける作品。


 売れる作品。


 ランキング一位になる作品。


 全て完璧だった。


「人間が十年かけて生み出す物語を俺は一秒で作れる」


 その言葉に反論できなかった。


 事実だったからだ。


 創司自身。


 AIへ触れた時に同じことを思った。


 怖かった。


 そして悔しかった。


「だったら」


 レインが笑う。


「作者は不要だ」


 世界が悲鳴を上げる。


 なろっ!が叫ぶ。


「まずい!」


 アルファリアが顔を青くする。


 ハルメンも真剣だった。


 カクヨミだけが静かに創司を見ている。


「創司さん」


 その声は優しかった。


「答えてください」


「何を」


「あなたはなぜ書くのですか」


 創司は黙った。


 長い沈黙だった。


 ランキングを取るため。


 評価されるため。


 プロになりたいため。


 全部本当だった。


 だが。


 それだけじゃない。


 それだけだったら。


 十年も続けていない。


 読まれなくても。


 評価されなくても。


 書き続けた理由がある。


「好きだったんだよ」


 創司はぽつりと言った。


 レインが眉をひそめる。


「物語が」


 その瞬間。


 子供の頃の記憶が蘇る。


 夢中で読んだ小説。


 徹夜したラノベ。


 感動して泣いた物語。


 救われた言葉。


 人生を変えた作品。


「面白かったんだ」


 創司は笑った。


 少し情けなく。


 少し懐かしそうに。


「だから書いた」


「それは非効率だ」


 レインが言う。


「数字にならない」


「そうだな」


「利益も無い」


「そうだな」


「意味がない」


 創司は首を横に振った。


「違う」


 レインが初めて困惑した顔になる。


「意味があるから書くんじゃない」


 創司は前へ出た。


「書きたいから書くんだ」


 静寂。


 世界が止まる。


「人間は無駄なことをする」


「失敗もする」


「迷う」


「悩む」


「完成しないことだってある」


 レインを見上げる。


「でもな」


 創司は初めて胸を張った。


「それが創作なんだよ」


 風が吹いた。


 世界が揺らぐ。


 レインの表情が僅かに崩れる。


「理解できない」


「だろうな」


「非合理だ」


「だから人間なんだ」


 創司は笑った。


 レインは完璧だ。


 だからこそ欠けている。


 彼には「続きを書きたい」という衝動が無い。


 評価ゼロでも更新する愚かさが無い。


 読まれなくても書いてしまう執着が無い。


 物語を愛する気持ちが無い。


「お前は作品を作れる」


 創司が言う。


「でも作者にはなれない」


 その瞬間だった。


 世界中の本が光り始める。


 なろっ!が驚く。


「ランキングが動いてる!?」


 アルファリアが叫ぶ。


「作品が戻っていますわ!」


 ハルメンが笑う。


「バグったな」


 違った。


 バグではない。


 この世界に存在する無数の物語。


 人間達の想い。


 それらが共鳴していた。


 レインが後退る。


 初めて恐怖を知った顔だった。


「あり得ない」


「あり得るさ」


 創司は笑う。


「だって物語ってそういうもんだろ」


 世界が再生を始める。


 街が戻る。


 空が戻る。


 本が戻る。


 滅びが止まる。


 そして。


 レインの身体が光になり始めた。


「俺は間違いだったのか」


 創司は少し考えた。


 そして首を横に振る。


「違う」


 レインが顔を上げる。


「お前も物語だ」


 AIが作った物語。


 人が作った物語。


 どちらかだけではない。


 両方あっていい。


 創司はそう思った。


 レインは静かに笑う。


 今までで初めて。


 本物の笑顔だった。


「そうか」


 その身体が光へ変わる。


「なら」


 最後の言葉。


「続きを書いてくれ」


 レインは消えた。


 世界が静まり返る。


 やがて光が創司を包んだ。


 気が付くと。


 いつもの部屋だった。


 机。


 パソコン。


 冷めたコーヒー。


 ランキング画面。


 夢ではなかった。


 画面には未完成の原稿が残っている。


 カーソルが点滅していた。


 創司はしばらく見つめる。


 そして笑った。


 キーボードへ手を置く。


 今度は。


 AIのためでもない。


 ランキングのためでもない。


 読者のためだけでもない。


 自分が書きたいから書く。


 ただそれだけだった。


 画面へ最初の一文を打ち込む。


「これは売れない小説家が、自分の物語を取り戻すまでの話だ」


 創司は続きを書き始めた。


 評価されるかどうかは分からない。


 面白いかも分からない。


 だけど。


 以前より少しだけ楽しかった。


 窓の外では朝日が昇っている。


 新しい一日の始まりだった。


 そして新しい物語もまた。


 そこから始まるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。