第一話 俺の作品は、俺より才能があった
第一話 俺の作品は、俺より才能があった
「またか……」
佐伯創司はモニターを見つめながら頭を抱えた。
投稿サイト『小説家になろっ!』。
そのマイページには残酷な数字が並んでいる。
最新話投稿。
閲覧数十二。
評価ゼロ。
感想ゼロ。
ブックマーク一件。
その一件も自分自身である。
「終わってるな」
思わず呟いた。
二十七歳。
職業アルバイト。
夢はプロ小説家。
だが現実は厳しかった。
昼はコンビニ。
夜は執筆。
休日は執筆。
人生のほとんどを小説へ捧げてきた。
それなのに結果は出ない。
新人賞は一次落選。
ランキングにも載らない。
どれだけ書いても読まれない。
「才能か」
ため息を吐く。
その言葉を認めるのは悔しかった。
だから今までは努力不足だと思っていた。
だが十年近く続けて結果が出なければ、流石に考える。
自分には才能がないのではないかと。
創司はブラウザを切り替えた。
『カクヨミ』
『アルファリア』
『ノベルズアップ』
複数の投稿サイト。
どこも同じだ。
数字が増えない。
星も増えない。
評価も増えない。
「みんなどうやって当ててんだよ……」
ランキングを見る。
追放。
ざまぁ。
悪役令嬢。
婚約破棄。
異世界転生。
人気作品が並んでいる。
創司だって研究はしている。
流行も分かる。
だが書けない。
どうしても自分の好きなものを書いてしまう。
結果、誰にも読まれない。
そんなある日、創司はSNSで見かけた言葉へ目を止めた。
AI小説。
最近やたらと話題になっている。
『AIが書いた小説がランキング入り』
『人間の作家は不要になる』
『物語はAIが作る時代』
様々な意見が飛び交っていた。
創司は鼻で笑った。
最初は。
「そんなわけないだろ」
人間が何年も悩んで生み出す物語だ。
機械にできるわけがない。
そう思っていた。
だが興味もあった。
「試すだけだ」
誰もいない部屋で呟く。
研究のため。
勉強のため。
創作の参考のため。
そう自分へ言い聞かせる。
その夜。
創司はAIへ入力した。
『今のWEB小説ランキングで受ける異世界転生作品を書いてください』
返答は数秒だった。
表示された文章を見た瞬間、創司は絶句した。
追放された主人公。
実は最強。
ざまぁ。
美少女ヒロイン。
スローライフ。
領地経営。
読者受けする要素が完璧なバランスで並んでいる。
しかも普通に面白い。
「は……?」
思わず声が漏れた。
悔しいほどに。
面白かった。
構成も。
会話も。
テンポも。
全部それなり以上だった。
自分が一週間かけて悩む内容が数秒で出てくる。
それが衝撃だった。
気付けば創司は何度もAIを使っていた。
タイトル相談。
キャラクター作成。
プロット整理。
誤字修正。
文章表現。
少しずつ。
本当に少しずつ。
頼る範囲が広がっていく。
そして一か月後。
一本の作品が完成した。
半分は自分。
半分はAI。
そんな作品だった。
タイトルも流行を意識した。
あらすじも派手にした。
今までの自分なら絶対にやらないような内容だった。
投稿ボタンを押す。
正直期待はしていなかった。
どうせ埋もれる。
また数字が増えない日々が続く。
そう思っていた。
だが翌朝。
通知が爆発していた。
評価。
感想。
ブックマーク。
PV。
全てがおかしかった。
「え……?」
創司は画面を何度も更新した。
数字が増え続けている。
ランキングを見る。
作品名がある。
日間ランキング十位。
数時間後。
八位。
五位。
三位。
そして。
一位。
「嘘だろ……」
十年間見たことのない景色だった。
夢だった。
ランキング一位。
読者からの称賛。
初めて味わう成功。
感想欄も絶賛で埋め尽くされた。
『神作品』
『続き待ってます』
『今年読んだ中で一番面白い』
『天才か』
『作者最高』
創司は震えた。
嬉しかった。
本当に。
ずっと欲しかったものだから。
だが三日後。
空気が変わった。
ある感想が投稿された。
『これAIじゃない?』
その一言だった。
『なんか文章が機械っぽい』
『流行要素の詰め合わせ感すごい』
『作者が書いたの?』
『AI作品をランキングに載せるな』
SNSでも議論が始まる。
AI小説。
人間の創作。
どこまで許されるのか。
何が創作なのか。
画面を閉じる。
頭が痛かった。
夢が叶ったはずなのに。
なぜか喜べない。
「俺の作品なのか……?」
ぽつりと呟く。
誰も答えない。
気付けば机へ突っ伏していた。
疲れていたのだろう。
意識が沈む。
暗闇。
静寂。
その中で女の声が聞こえた。
『あなたは作者ですか?』
創司は顔を上げる。
何も見えない。
『それとも編集者ですか?』
声が近付く。
『それとも読者ですか?』
足元が崩れる。
世界が揺れる。
『あなたは誰ですか?』
次の瞬間。
創司は草原へ倒れていた。
青空。
白い雲。
遠くには巨大な城。
空には見覚えのある魔法陣。
そして目の前には四人の少女が立っていた。
赤いドレスを着た活発そうな少女。
本を抱えた黒髪の文学少女。
金髪のお嬢様。
パーカー姿の小柄な少女。
全員がこちらを見ている。
創司は数秒固まった。
「……は?」
少女達を見ているうちに違和感へ気付く。
服装。
髪飾り。
配色。
どこかで見たことがある。
いや。
正確には毎日見ていた。
サイトのロゴだ。
「まさか……」
赤いドレスの少女が満面の笑みで叫ぶ。
「ようこそ!」
勢いよく指を突き付ける。
「あなたの書いた異世界へ!」
創司の思考が停止した。
その隣で文学少女が静かに頭を下げる。
だがその表情は暗い。
なぜか悲しそうだった。
「創司さん」
少女は小さく言った。
「この世界はもうすぐ滅びます」
「……は?」
「AIが生み出した主人公によって」
風が吹く。
遠くで何かが爆発した。
そして空の一部が崩れ落ちる。
まるで世界そのものが壊れているかのように。
創司はようやく理解した。
自分は。
自分の小説の世界へ転生したのだと。
そしてその世界では。
自分が作った主人公が世界を滅ぼそうとしているのだと。




