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7 横流し

 スクラップ場での作業は、さほど難しいものではない。

 重機でやる仕事はいくつかあったが、セツトに任されたのは、廃車の運搬だった。

 一時保管場所に並んでいる廃車を解体作業場に持っていき、パーツの取り外しのためにひっくり返し、全ての部品を取り終わった廃車をプレス機に放り込む。そしてプレスされた塊を保管場所に運搬し積み上げる。

 ときおり怒鳴り声の注意を受けながら、セツトはその仕事をやりきった。


「初めてにしちゃやるじゃねぇか」


 そうブルークには褒められた。


 配られた夕食を食べた後は、『夜の仕事』である。

 何をやるのかの説明もないまま重機に乗るように言われ、ただ待っていると、一台の大きなトレーラーがスクラップ場に入ってきた。

 荷台には覆いが掛けられていて荷物を確認することは出来ない。


『覆いを外すんだよ』


 セツトは通信機で投げられてくる指示に従って重機を操作した。2台の重機で協力して覆いを外すと、帝国軍で使っている量産機兵の腕があらわれた。


 量産機兵。

 軍の力の基本は数である。騎士鎧だけではその数が足りない。帝国軍では騎士鎧に付き従う兵士として、騎士鎧のように血統制限のない量産機兵を用いていた。

 その腕である。外装に破損の跡はなく、綺麗な状態であるように見えた。


『あっちに持って行け』


 荷台から腕を持ち上げ、指示された倉庫の中に置いた。

 荷物が下ろされたトレーラーがスクラップ場を出て行き、しばらくすると別のトレーラーが来た。

 また量産機兵の腕である。先ほどの物とは左右が違う。

 同じように運ぶ。

 次は足。また足。胴体。最後に頭。

 なんと一機分のパーツが揃った。どれも綺麗な状態で、元は1機の機兵だったのかもしれない。


(こんなものがスクラップ場に…?)


 不可解だった。


『今日は終わりだ。お疲れさん』


 重機を置き場に戻し、降りると、ブルークが待っていた。


「あれ、何なの?」


 セツトが聞くと、ブルークが顔を寄せてきた。


「大きな声で言うなよ。あれは横流し品よ。書類上壊れたってことにして、ああして持ってくんのよ。うちで組み立てて、どっかに売るのさ」


 つまり違法な品だった。


「そんな顔すんなよ。いい小遣い稼ぎになるんだぜ。ほら」


 ブルークはセツトに封筒を押しつけてきた。受け取ってしまい中をちらりと見ると、それなりの枚数の紙幣が入っていた。


「こ、これ」

「いくらあっても困んねえだろ」


 ブルークは歩き始めた。


「ついてこいよ。社長が話があるってよ」




 セツトが連れて行かれたのは、さきほど量産機兵のパーツを運び込んだ大きな倉庫の中だった。

 そこで3人の男達が彼らを待っていた。


「おう、来たか。アレ見てくれよ」


 その中央、大きな体つきをした『社長』が倉庫の隅を顎で指し示した。


(あれは!)


 セツトは内心の動揺を外に出さないよう自制しなければならなかった。

 そこにあったのは、白い騎士鎧の胴体である。それは手足頭はついていない状態で立たされていた。


「すげぇだろ。手にいれんの苦労したんだよ」


 ここにあるはずのないもの。

 ここにあってはならないもの。

 あれも横流し品だというのか。騎士鎧の管理は厳格なはずだ。そんな馬鹿なことがあるのだろうか。


「あれも横流し品なの?」


 セツトは聞かずにはいられなかった。


「量産機兵ほど簡単じゃねえが、そんな感じだ。誰も使えねぇから改造用の部品取って売るんだがな」


 社長がセツトを見てくる。

 嫌な予感がした。


「お前なら動かせるんじゃないかって思ってな」

「…や、やだなぁ。できるわけないじゃん」


 ぽん、とブルークがセツトの肩を抱いた。逃がさないぞ、とでも言うように。


「貴族ってのはさぁ、身ぎれいにしてるし、なにより歩き方とか雰囲気とか、ちょっとした言葉の使い方が俺らと違うのよ。おおかたどこかの騎士の子だろ、お前」

(やばい)


 伯爵家とまでは分かっていないようだが、貴族の子弟であることに確信を持たれている。

 非常に良くない。


(妙に親切だったのは、これか)


 最初から分かられていたのだろう。セツトの側で警戒していなかったわけではないが、疑えなかった。


(どうする。考えるんだ)


 セツトがあの騎士鎧に乗ったところで、動くことはない。仮に動いたとしても、手足のない騎士鎧ではどうすることもできないが。

 動かせなかったらどうなるだろう。

 分からない。

 しかし、既にセツトは知りすぎてしまっている。自由にこのスクラップ場を出て行くようなことが許されるとは思えない。彼らの仲間になること以外の道はない。


「…なんだ、バレちゃってたんだ」


 セツトは、家出した騎士の子、の演技をした。


「起動キーは持ってるの?」

「あぁ、これだ」


 社長の脇にいた男が折った紙に挟んだ一枚のカードキーを取り出した。受け取って見ると、紙には長い文字の連なりが書かれていた。カードの方には表面に紋章が刻まれている。

 おそらく騎士の紋章だ。大貴族に連なっていることを示す紋はない。セツトに見覚えがないから、このあたりの騎士ではないだろうと思われた。


「そう。動くとしたら、あれをどうするの?」

「組み上げる。そしてパイロット付でどっかに売っぱらう。どこの組織や海賊でも欲しがるぜ」


 社長が悪そうな笑みを浮かべた。


「機体の値段は俺らがつけるが、どこに行きたいかは選ばせてやるよ。何しろ騎士鎧のパイロットだ。金でも女でも言い値でもらえるだろうぜ」


 セツトは心が動いた、という振りをした。


「ほんとに?」

「あぁ。あとで前祝いに遊びにいこうぜ」

「エリカさんのところに行って見たいな」


 セツトは笑みを浮かべてブルークを見上げた。


「ば、ばかやろう。アレは俺の女だ。他の女にしろ」

「そっか。じゃあそうするよ。そうなら早くやっちゃおうか」


 セツトは少し足早に騎士鎧へ向かっていった。

 はやく済ませて遊びに行きたい様子に見えるように。

 頭の中では倉庫の中の人と物の位置関係を思い浮かべている。


 そして。

 ある場所でセツトは急に走り出した。

 全速力で。

 出口へ。


「あ、逃げるぞ!」


 後ろから声がし、男達が走り出す音が聞こえる。

 大丈夫だ。倉庫からは問題なく逃げられる。

 若いセツトと彼らでは走る速さが違う。彼らを引き離し、誰も出口を塞ぐのに間に合わない位置を狙って走り出していた。


「追え、逃がすな!」


 逃走と追跡が始まった。


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― 新着の感想 ―
すっかり解体ヤード=悪が定着してしまった今日この頃。
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