表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

6 放浪と


 騎士鎧を扱えない。

 セツトにとってそれは何よりも大きな事実だった。それは義務であると同時に、夢であり、これまでの全てだったと言ってもいい。

 貴族の血を引いていないのではないか、という出生に関する疑いもある。その疑問を両親にぶつけ、答えに向き合うことは、今のセツトにとって不可能なことのように思えた。


 深夜に家を出たのは、衝動的なものだった。

 どこに行こうなどという目的地はない。行く当てもない。ただ家に居たくなかった。

 車を自動運転にして館を飛び出し、貴族街も出て、セツトは街に出た。

 空には『ユーリア』という呼び名の与えられた青い惑星が浮かんでいる。その半分は影に隠れて宇宙空間に溶け込んでいた。


 セツトは街にいくつかある繁華街の一つで車から降りた。

 深夜、もう朝の方が近い時間にもかかわらず、まだ人が多く出歩いている。その大半は酔っ払いで、残りのほとんどはその酔っ払い目当ての客引きだった。

 客引きの何人かがセツトをチラリと見たが、声をかけないことを決めたようで、すぐに目をそらした。    

 酔客にいたっては、誰一人セツトを気にしない。

 その無関心さが今は心地よかった。


 少し歩くと、こんな時間にもかかわらず店を開けている喫茶店が目に入った。セツトはそこで朝を待つことに決め、少し苦いコーヒーを飲んだ。

 店内には意外と客の姿がある。


 なにか深刻なことを話している様子の男2人組、酔い潰れた男を目の前において飲み物を飲んでいる派手な女性、女性3人で元気に笑い声を響かせている客もいる。

 様々な声をBGMとして聞き流しながら、セツトは何を考えるでもなく、ぼうっと街の様子を眺めていた。


「あの」


 突然声をかけられて見ると、愛想の欠片もない店員の男だった。


「閉店の時間なんで」


 見るといつの間にか他の客の姿がない。外はすっかり明るくなってきていた。

 セツトは無言で席を立ち、店を出た。


(どこにいこう)


 ここは知らない街だ。

 時々家族と行っていた街はここではない、貴族や富裕層向けの高級店しか存在しない場所で、セツトはこの場所に来たことがない。

 そのあてのなさがここを目的地にした理由ではあったが。


(まずは、そうだ、服かな)


 これまでにここで見かけた人達と比べて、セツトの服は上等すぎた。これからどうするにしても、もうすこし場所になじんだ服に変えた方がいいだろう。

 セツトは、店を求めて、深夜より人通りが減り寂しさを感じさせる街を歩き始めた。




「坊主、なにしてんだ?」


 その日の夜、セツトに声をかけてきたのは二人の男だった。二人とも50は超えていそうな、いわゆるおっさんで、顔に心配そうな表情を浮かべている。


「なにとは?」

「昼間から俺も何度かここを通りがかってるけどよ、お前一日中ここに座ってたろ」

「それがなにか」


 セツトがとげのある視線を送っても、男達は慌てる様子はない。


「心配してんだろうが。家は?」

「……」

「さては家出か」

「……」

「まぁそういう気分になるときもあるよな。俺も昔は年に何度も家出して街をさまよってたもんよ」


 片方の男はセツトの無反応にかかわらず言葉を続けていく。もう片方の男はやれやれと言いたげな顔を浮かべているが、彼を止めるでもなく任せていた。


「だからよ、すぐ家に帰れとまでは言わねえが、家出するにはこの辺は危なすぎんだよ。人さらいするような奴も時々いるしな。あ、俺は違うぞ?」

「…それで?」

「家出じゃ金もねぇだろ。家に帰る気になるまで俺んち来るか?」

「おいブルーク」


 ようやく片割れが制止の声を挟んだ。


「いいじゃねぇか、社長も分かってくれるさ」

「そうじゃねぇよ、これからエリカちゃんとこ行く約束してたんじゃねえのか」

「あ、お前俺のこと何だと思ってんだ。迷えるガキをほっといて会いに行けって? そんなことしたら人でなしって逆に怒られちまうよ。お前だけ行って、エリカに俺がどんなに崇高なことをしているのか伝えといてくれよ」

「じゃあ今日の分全部お前の驕りな」

「20万までだ」

「OK、任せろ。お前の名前でボトル入れてかっこよく伝えといてやる」

「頼んだぜ、エリカの目をハートマークにしてやってくれ」


 とんとんと男二人の間で話がついた。話の内容的に、おそらくお姉さんがいる店に二人で行く予定だったようだ。その俗っぽさにセツトの警戒心が少し薄らいだ。


「待たせたな、坊主。俺んちは別に危ない場所じゃねぇぞ。俺たち街外れのスクラップ作業場で働いててよ、そのすぐそばに会社の寮があんだよ」

「わかった」


 どうせ行く当てもない。この2人なら危険なこともなさそうだと思い、セツトは話に乗っかることにした。


「俺はブルーク。お前は?」

「カルスト」


 セツトは偽名を名乗った。家で働いている使用人の1人の名だ。


「よっしゃカルスト、ついてきな」


 セツトはブルークと一緒に流しのタクシーに乗りブルークの家に向かった。

 家はブルークが自分で言っていたとおり、街外れのスクラップ場の隣に立つ古い集合住宅だった。


「よぉ、はやいな。フラれたのか」


 スクラップ場から出てきた男がブルークをからかった。


「ちげぇよバーカ」


 ブルークはそう返して集合住宅の方へ向かっていった。




 翌日、セツトが目を覚ますと、ブルークはもう仕事に出かけていた。

 部屋は散らかっていて決して綺麗とはいえなかったが、居心地が悪いほどでもない。窓を開けると、左手にバラック住宅が所狭しと並んでいて、右手には家具や家電、廃棄された車が山のように積み上がったスクラップ場があった。


 それはセツトがこれまで見たことのない光景だった。


(こういう場所もあるんだな)


 セツトは窓から見えるものを一つ一つ、じっくりと観察した。

 行き交い、仕事をする人々が見える。

 スクラップ場では、キャタピラ足をした人型もどきの重機が積み上がったゴミからなにかを引き上げたり、細かく切断したりといった作業をしている。


 貴族街で暮らしていても一生見ることはなかっただろう景色だ。

 昼頃になると、スクラップ場からブルークが戻ってきた。


「カルスト、ほれ」


 ブルークが袋からサンドイッチを出して渡してきた。


「作業場で配ってる昼飯だよ。お前の分ももらってきた」

「いいの?」

「いっぱいあるからな。ただ社長から伝言がある。それ食うなら働けだとさ」


 そうしようか。

 どうせ行く当てもやりたいこともない。それならここで働いておくのも悪くないかもしれない。


「わかったよ」

「よっしゃ。お前なにできる?」

「あー、えーと」


 セツトは午前中スクラップ場で見たものを思い出した。その中で何が一番自分に向いているだろうか。


「重機動かせるよ」


 人型重機の操縦は騎士鎧とは異なり操縦桿によって行う。セツトが受けた軍事の基礎教育の中には重機の使用訓練も含まれていた。

 さっき動きを見ていた限り、セツトにも十分にできそうだった。


「お、まじか。そりゃ助かるね。じゃあ食ったら行こうぜ。あとそう、夜も行くとこないよな? 夜もちょっと仕事があるから、頼むぜ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ