3-1 王女様襲来
第3章 金色の侵略者と敗残の羊飼 になります。引き続き楽しんでいきます。
海賊はバカンス好きだ。
海賊はバカンスが好きだ。
海賊はバカンスが大好きだ。
一仕事終えたらバカンスに行く。セツトにはまだ知らされていない海賊の法典にはそう記されているのかもしれない。
サリアフェ大侯爵領での作戦を終え、セツト達は惑星ハァワゥイーンへと戻ってきたのである。場所はもちろんおなじみの水着限定ビーチだ。
「新入りぃー、ちょっとサンオイル塗ってもらっていいかなぁ?」
シェリーがボトルを手にディートリヒに命令していた。語調に騙されてはいけない。これは命令なのである。
「え、俺が?」
「そう。雑用は一番の新入りの仕事なのよぅ」
シェリーの声は猫なで声である。
「そういうのは俺が」
忠臣フレッドがしゃしゃり出てこようとしたが、シェリーに一睨みされた。
「あんたたちが若扱いを続ける限り、こいつは変われないわよ?」
意外と鋭い忠告である。
だがセツトには分かっている。シェリーはただ長身で程よく鍛えられ引き締まったディートリヒに塗られたいだけなのだと。誰でもいいわけではないのだ。
「いい、フレッド。シェリー姐さんの言うとおりだ」
ディートリヒは深刻そうな顔をしている。明らかに重く考えすぎである。
「それでは、塗らせていただきます姐さん」
「はぁい」
「……なぜ水着の紐をほどくのですか」
「こうしないと塗れないじゃない?」
ディートリヒはまだまだ苦労しそうだ。
彼らの様子を見てセツトは遠い目をした。ディートリヒは、セツトの誘いを受けて<黒銀の栄光>号へとやってきた。
誘っておいてなんだが、よくやってきたなと思う。ちょっとした事件は起こしたとはいえ、あのまま帝国にいれば爵位を得ることはできただろう。正直、そうしたものを捨てて来るとは意外でもあった。
もしかするとそれだけ彼の中では追い詰められていたのかもしれない。
「セツトもだいぶ慣れてきたねぇ」
キティはいつも通りの真っ赤な水着でくつろいでいる。
「そりゃ、まぁ」
セツトはあいまいに笑った。慣れたのもあるが、戸惑っているディートリヒたちを見ていると冷静にもなるというものだ。
「見つけたわ、黒銀のキティ!」
くつろいだ雰囲気のビーチに緊張を呼ぶ声が響いた。
声の主に注目が集まる。
声の主は15歳前後の少女だ。茶褐色の髪をポニーテールにして、ピンクのフリフリのついたワンピース型の水着を着ている。
背後には油断のない目つきをした屈強な女性が二人。その雰囲気は海賊などのならず者ではなく軍人のようだった。おそらくボディーガードだろう。
「いかにもあたしはキティだけど、お嬢ちゃんは?」
キティは少女に面識がないようだった。
「私は、ベルンシュタイン王国第2王女クラリッサよ。あなたにお願いがあって来たの、あ、来ましたの」
クラリッサは護衛に指でつんつんされて語尾を丁寧に言い直した。
「ベルンシュタイン王国……?」
キティは首をかしげている。セツトには聞き覚えがあった。連邦よりの中立国の一つが確かそんな名前だった。
「たしか、中立国のひとつじゃなかったかと」
セツトがキティに言うと、クラリッサは胸を張った。
「そうよ! 人類連邦友好国の一つなのよ」
友好国。連邦における属国の柔らかい言い方である。
「なるほど。それで、その王国の姫様が海賊に何の用かしら?」
「仕事をやっても―――お仕事のお願いをしたいのです」
腹芸の苦手そうな王女だな。セツトは率直にそう思った。
「ふぅん。どういう仕事?」
キティは明らかにやる気がなさそうだった。断るにしてもまず聞いてからじゃないとな、くらいの雰囲気である。
「人類連邦の企みを、ぶっつぶしてもらいたいのよ!」
クラリッサはそう言い切った。
人類連邦友好国の姫がである。
キティのみならず、声が聞こえてしまった周囲の関係のない男たちがぎょっとした。
キティは大きくため息をついた。
「お断りだわ」
キティもあえて大きい声で返した。
当然である。いかに完全中立国ハァワゥイーンとはいえ、大きな声で言っていいことと悪いことがある。仮に興味があったとしてもこの場で聞きたいという表明さえできないし、断ってみせなければ我が身に危険が及ぶというものだ。
「セツト、お帰りいただいて」
キティはあえてセツトを指名した。セツトがキティに目を向けると、ウィンクが返ってきた。
セツトは意図を了解して立ち上がると、クラリッサ達3人に向かって両手を広げた。
「だ、そうだ。お頭は興味ないってよ。帰った帰った」
追いやるように近づいていく。
「話くらい聞いてくれてもいいじゃない!」
クラリッサはヒートアップしている。
「話聞くほどの興味もないってさ」
セツトは護衛の一人、さきほどクラリッサに指ツンをしていた方に目を向けた。意をくんでくれたのか、彼女は一歩前に出てセツトの前に立ちふさがった。
「それ以上近づかないでいただきたい」
お互い手を伸ばせば相手に触れられる、殴れる距離である。セツトと護衛はにらみ合った。
「今夜20時、メイリアホテル4649号室へ」
護衛に小声で伝えた。
「わかった」
どうやら護衛の方は事情を理解してくれたらしい。
「だったら早くどこへなりとも行ってくれ。俺たちは国同士のでかい話には興味ないんだよ!」
セツトは再び演技をして、彼女たちから離れた。




