2-30 出航
「見事な戦いだった!」
<サファイアス>に戻ると、セツトは熱烈な歓迎を受けた。
「戦いは機兵の性能によってのみ決せられるのではない。よく言われることだが、まさにその言葉の通りだ!」
「素晴らしい槍の冴えだ! すごいな!」
<サファイアス>の機兵乗りたちはつい先日セツトのエリュテリオスに散々苦戦させられた者たちだが、そんなことなどなかったかのように褒め称えた。
優れた武勇には陣営を越えて賞賛を。
帝国騎士にはそういう風潮がある。
一通りもみくちゃにされた後、セツトはレオンハルトに呼び出された。
「僕の騎士鎧であんな動きが出来るなんてねぇ。とても真似できそうにないな。まさか本当に騎士鎧でレガリアに勝ってしまえるとは思わなかったよ」
彼らしい表現でセツトを賞賛してきた。
「レオンハルト様が騎士鎧を貸してくれたお陰です。勝てたのは、決闘のルールだからというのもありますけどね」
「ま、僕は騎士鎧なんて使わないから、このまま持って行ってくれたっていいよ」
「はは、使わないまでも騎士鎧を持っていないのは問題になるでしょう」
「まぁね。いかに僕が騎士鎧が嫌いだと言ってもね」
「……嫌いなんですか?」
「あぁ。さらにいえばレガリアも嫌いだ」
レオンハルトが真顔になった。
「セツト、僕は、帝国はレガリアを捨てるべきだと思っている」
「……」
セツトは言葉に窮した。
「……なぜです?」
やっとそれだけ問いかけた。
「頼っていては負けるからだ。その僕の考えからしても、今回の決闘は実に良かった」
「その意見を、なぜ僕に?」
帝国でその意見に同調する者は少ないだろうことは、セツトにも簡単に予想がついた。
「すぐにどうこうできるものではない。ただ、知っておいてもらいたくてね」
「わかりました。心に留めておきます。エルザには?」
「知らせていない」
「そうですか。好きに使われる気はないですが、勝手に利用してください」
セツトは少し突き放した言い方をした。レオンハルトが自身の考えのためにセツトを使おうと打ち明けてきたことを悟ったためである。
「もちろんだ。僕は家族には優しいんだよ。だから君にお願いするのは、エルザを泣かせるなということだけさ」
セツトは苦笑した。
「もっともそのエルザも、何があったのか急に強かになったようだし、簡単には泣きそうにはないのだけど。あぁ、プリティでピュアピュアだった我が妹はどこへいったのやら」
妹バカを発揮し始めたレオンハルトにセットはただ曖昧な笑いを返した。
「レオンハルト様、例の件もちゃんとお願いしますね」
「わかっている、ちゃんと渡すとも」
最後にひとつ頼み事の念押しをして、セツトはレオンハルトと別れた。
その3日後には、セツトは宇宙港の連絡艇乗り場にいた。
「そろそろ時間ですぜ」
その隣ではキュークが暇そうにしている。
セツトは一足先に出港する<サファイアス>に乗るエルザを見送ったあと、もう小一時間ほどこの乗り場に留まっていた。
「あ、セツトくーん!」
シェリーの声だ。
遠くから、帝国軍の服を着た男と腕を組んだまま手を振ってきている。
「シェリーさん、お疲れ様です」
「セツト君は何してるの?」
「ちょっと来るかもしれない人を待っていまして」
「ふぅん」
シェリーはそれ以上の興味を示さず、腕を組んでいた男の頬にキスをすると、腕を放して連絡艇へのハッチへと入っていった。
男は少しの間名残惜しそうにその後ろ姿を見ていたが、その姿が見えなくなると回れ右をして去って行った。
セツトはちらりと腕時計を見た。
時刻はまもなく11時。
「11時までは待ってもらえませんか」
と、キュークに頼んだ。
「いいすけど、来ない方に酒1本」
「お気に入りのラム酒で?」
「10年物でお願いできやすかね」
「遅刻も可なら」
「おーけー、ただ11時になったら出す準備始めやすよ」
「いいとも」
賭けが成立した。
だが待ち人は来ない。
キュークは宣言通り11時になると連絡艇の出発準備を始めた。
10分後には準備が終わり、セツトは酒1本を勝ち取ったキュークの満足げな顔を見ながら連絡艇に乗った。
すぐ近くに係留されている<黒銀の栄光>号に到着すれば、そのまま<黒銀の栄光>の出港準備が進められた。
セツトとキュークが艦橋にいくと、キティがチラリと人数を確認した。
「おかえり」
「ただいま。残念ながら、彼は来なかったみたいです」
「そうみたいね。ま、戦った相手から誘われたって、普通は来ないわよ」
セツトが船長席の隣の定位置に着席すると、キティが手を伸ばしてセツトの頭をくしゃくしゃにした。
「ちょっ」
止めて欲しい、と抗議すると手はすぐに引っ込んだ。
ほどなく、最後の出港準備が終わった。
「艦体ロック解放を要請、リリースされやした」
「微速前進」
「微速前進、よーそろー」
<黒銀の栄光>が弱い噴射を行い、宇宙港の設備から離れていく。
「おかしら、惑星方面から高速で飛んでくる機兵が3機います」
海賊の1人の言葉にキティが片眉を上げた。
「過去データと照合、こいつは例の赤青の機兵っすね。他2機は騎士鎧」
セツトは思わず席を立った。
「そいつから通信依頼が来ましたが、どうしやすか?」
「繋いで頂戴」
「へい」
艦橋のモニターの一つに、機兵のコックピットに座るディートリヒが映しだされた。
『私はディートリヒという者だ。そちらは、<黒銀の栄光>号で間違いないだろうか?』
「えぇ、そうよ。何の用かしら?」
『そちらにいるセツトという者に誘われたのだが、私と友人2名を連れていってもらえないだろうか』
艦橋にいる海賊達の内、事情を知らない何人かの目がセツトに向いた。先日セツトがレオンハルトに念押しした頼み事、それがこの結果だった。『帝国の外を見たいと思うのなら連れて行く。』そういうメッセージを届けてもらったのである。
セツトが連絡艇で待っていた相手こそまさに彼なのだが、まさか機兵で飛んでくるとは思わなかった。
「それは、お客さんとしてかしら、それとも仲間にしてくれと言うことかしら」
『仲間にしてもらえることを希望する』
「戻れないわよ?」
『承知している』
「残りの2人もそうね?」
『説得しても一緒に行くと譲らないのだ』
「そう、いいわよ」
キティはあっさり認めた。もとよりこの件についてはセツトと話がついている。来るなら拒まず、だ。
「キューク、着艦の案内してあげて」
「へい」
ディートリヒの乗るノミオス、フレッドとグスタフの乗る騎士鎧2機が<黒銀の栄光>に着艦した。
直後、<黒銀の栄光>は盛大に噴射炎を吐き出し、超空間転移に向けて加速を始めた。
「あ、キューク。賭けは僕の勝ちだね」
「ちくしょう、遅刻認めんじゃなかった」
第2章 無冠の騎士と白い反逆者 了
第2章、これにて終了となります。
引き続きお読みいただきありがとうございました。
この後第3章なのですが、書いているうちに当初のプロットと細部が変わってきたため、調整が必要そうです。夏休みも兼ねて第3章開始まで少しお時間いただければと思います。
気が向いたらなにか「幕間」的なものを差し挟むかもしれませんが。




