2-28 決闘法
「交代?」
フォルテ侯爵からの申出にレイズ侯爵は不審を覚えた。
(テーセウ公爵家がここで出張ってくるとは)
元々何かを企んでいる疑いがあった。まさかレガリアの修復自体にもかかわっているのではないだろうか。どこからどこまでがテーセウ公爵の企みだろうか。
集中が戦闘からそれた。
それだけの余裕がある戦いではあった。ディートリヒは、初めてにしてはレガリアを良く扱っているとはいえ、まだまだ性能に振り回されているといってよかった。右肩の巨大なブースターも、機体のバランスを悪くしていて、それのフォローに機体性能の多くを費やしていることも見て取れた。
イオクァイラの幻影は十全に機能し、被弾の可能性などないと思われた。
だがそれがいけなかった。
これまで同様に幻を追いかけていたノミオスが、急遽方向転換し、隠された本物のイオクァイラへと向かってきた。
「なっ!」
見破られる兆候など何もなかった。とっさに回避を試みるが、間に合わない。
イオクァイラが左腕を突撃槍の穂先に突き出し、腕を犠牲にして槍を受け流した。
当然左腕は大破する。だがその代わりに機体中枢へのダメージは免れた。
『ははは、やった! やったぞ!』
ディートリヒはまるで撃破したかのようにはしゃいでいる。薬物でも使っているのではないかという異様なハイテンションだ。
本来行うべき追撃もされなかったため、イオクァイラはノミオスから距離を取ることが出来た。
「……交代に同意する」
レイズ侯爵はフォルテ侯爵にそう返した。
不覚を取った。
侮っていた。
レイズ侯爵はシートの肘掛けを拳で強く叩いた。
イオクァイラが離脱していく。ディートリヒはそれを追うことはせず、新たに接近する機体を注視していた。
見間違えるはずもない、黒紫のレガリア。
反乱軍に与し、父の駆るロクシアスと戦い打ち勝った機兵。
どこの誰かは今だ分からない。海賊の一味だと言うが、そのような者がレガリアを保有しているはずがない。
(こいつだ)
この機体がいたからロクシアスは敗れた。
(こいつのせいだ!!)
ディートリヒの思考をただそれだけが染め上げていく。
「名を名乗るがいい! 反乱軍の一味として我が父を打ち倒したレガリアの乗り手よ!!」
ディートリヒは叫んだ。
こいつを倒す。こいつを落とせば、負けた父の汚名も漱がれる。そして正々堂々と大侯爵位を継ぐ。
『テーセウ公爵麾下、ダイオン伯爵の子、セツト』
名乗りが返ってきた。
伯爵の子。帝国貴族。しかもテーセウ公爵の麾下とはどういうことか。
『たったいま、貴公より看過しがたい名誉の侵害を受けた。反乱軍に属したなどと貶された我が名誉を回復するため、私は、決闘法に基づき貴公に決闘を申込む!』
「決闘だと!?」
突然何を言っているのか。
そのような申し入れなどせずとも、今戦えば良いだけのことだ。
ディートリヒはその意図が理解できない。
『フォルテ侯爵、この決闘の立ち会いをお願いできないでしょうか』
『ほぅ、面白い。承りましょう。ではディートリヒ殿、そちらも立会人を選ばれるといいでしょう』
フォルテ侯爵は、より茶番劇らしい展開に乗っかることにしたようだった。
『そちらの立会人をフォルテ侯爵がやるのであれば、ディートリヒ殿の立会人は私が』
レイズ侯爵が立候補してきた。
「……レイズ侯爵、お願いする」
ディートリヒは今すぐ戦いたい欲を抑え応じることにした。正式な決闘と言うことになれば第三者からの手出しはない。思う存分黒紫のレガリアと戦うことが出来る。
『双方が決闘に合意した。決闘法及び古くからの慣習に則り、決闘の時刻場所方式は後ほど通知される。この場で双方が刃を交えることは許されない』
フォルテ侯爵が粛々と宣言した。
決闘などそうそう行われることはない。貴族達が機兵に乗るようになって次第に行われなくなった。突然立会人を要請されてもまず規定を読むことから始める貴族の方が多いだろう。その点フォルテ侯爵はさすがだった。
フォルテ侯爵が場を取り仕切り、各機はちりぢりにその場を去った。
セツトはエルザと共に宇宙港に停泊している<サファイアス>へと着艦した。レオンハルトが乗ってきた船である。
着艦し、機体から降りるなり、セツトとエルザは艦内の一室に通された。
そこで待っていたのはレオンハルトである。
「お久しぶりです、レオンハルト様」
「うん。いろいろあったと聞いているが、元気そうだね」
軽く挨拶をしてから、3人はソファーに座った。
「で、決闘とはね」
レオンハルトがため息をついた。この状況を歓迎していないことは明らかだった。
「テーセウ公爵麾下と表明したことは、非常に危険なことだと理解しているね?」
「はい」
セツトは頷いた。
その表明は、サリアフェ大侯爵領の騒動にかなり危険な首の突っ込み方をしたことが明らかになるリスクを含むものだ。
海賊として反乱軍を手伝うのであれば問題ない。だがその者がテーセウ公爵家に関係する者だとなれば、話は変わってきてしまう。
「あの場で戦いを継続しないためには必要なことでした」
「戦いを回避するという効果はその通りだね。ただ、君がそれを止める必要はなかっただろう?」
レオンハルトはごまかされない。
「必要はありません。しかし理由はあります」
「聞こう」
「彼の叫びを聞きました。レガリアを求め、囚われた叫びです。あのままでは彼の心は破滅へと向かうだろうと思いました。
僕は彼とは面識もありません。正直に言って、関係ないといえば関係ないでしょう。
ただ僕は、彼をこのままにしてはいけないと思っています」
「……」
レオンハルトは沈黙した。
何を考えているかはその表情からはうかがい知れない。
「……彼にとってレガリアは過ぎた物だとでも?」
「いいえ、しかし囚われるべき物ではないと思います。僕は、騎士鎧に乗れないことが分かったときに、たまたまそれが全てではないと思わせてくれる人に出会うことが出来ました。
彼にはまだそれがいません」
「君がそれをするために、必要だったと?」
「はい」
「……エルザ、君の意見は?」
「お兄様とお父様なら大丈夫ですわ」
答えになっていない答えに、レオンハルトは目を見開いてエルザを見た。
これはセツトの行動を全面的に支持しているからリスクへの対処はがんばってくれ、弁論と政治でうやむやにできるだろ、と言っているのである。
「まずは、この決闘をどうするつもりなのか聞いてからにしようか」
聞かれてセツトは、レオンハルトに自身がやろうと思っていることを説明した。
レオンハルトはふむふむと相づちを打ちながら説明を聞いていたが、やがて合点がいったように笑顔で膝を叩いた。
「素晴らしい考えだ。それでいこう。何、公爵家の立場など私がなんとかしてみせるから、気にせず思う存分やるといい!」
綺麗な手のひら返しであった。
私ごとなんですが、この作品が何があったのかなろうの「注目度ランキング」で9位に入ったようです。
どんな基準なのかさっぱりわからないのですが、きっと読みに来ていただいた皆様のおかげだろうと思います。
ありがとうございます。




