2-25 科学者の誉れ
「フフフ、できましたよ」
義手の男が眼鏡をクイと持ち上げた。
ディートリヒは隣でそれを見上げていた。
「リミットがあったので性能の調整はできていないですが、まずは動くことの方が重要でしょう」
「あぁ、そうだな。動くのか?」
「ソレはこれから試してみるところですよ。科学の発展に失敗はつきものです」
クロイツは自信たっぷりに不確かなことを言い切った。
「なら早く試してみるべきだな」
「えぇ。もう少しで中佐も来ると思いますので、立ち会っていただきましょう。と、噂をすれば来ましたね」
クロイツは背後を振り返った。
ちょうどアルテアがセツトを連れてやってきたところだった。
「やぁ中佐。と、そちらの方は?」
「セツトという男だ。見学者が増えても問題あるまい?」
「もちろん!」
クロイツは両手を大きく広げた。
「これから行うのは、世紀の大実験です。はたして機能を停止したレガリアを再び起動させることが出来るのか。どうぞ見ていってください!」
セツトはクロイツの背後のソレを見上げた。
赤と青の派手なカラーリングだ。
左腕、右足、頭部は赤い、ロクシアスのパーツだ。それ以外の胴と右腕、左足は青く、造形に見覚えがない。
「大侯爵家のレガリア、ロクシアスと、私が研究対象として弄くっていた動かないレガリアを繋ぎ合わせました。
苦労したんですよ、こいつら機体ごとにかなり構造が違うんです。もっとも、起動システム、セキュリティ周りに比べればそんなものは苦労ですらありませんけどね。レガリアの操縦者認証はアンドロイドが行ってその結果に基づいて機体が起動するんです。いわば起動キーであり頭脳なんですよね。私が持っていたのにはそれがなかったので、まったくとっかかりがなくて。今回ロクシアスに支援アンドロイドの残骸も含まれていたのは僥倖でした。お陰で解析が一気に進みましたよぉ」
クロイツが早口でなにか言っている。
セツトはその言葉よりも目の前の機体に意識を奪われていた。
つぎはぎのレガリア。
右肩の後ろには、大きな細長い花弁状のパーツが下向きについている。まるで羽のようにも見えるその内側にバーニアの噴射口が並んでいた。加速のための装備だろう。
それ以外に目立つものは見当たらない。
「そうしたセキュリティのあれこれをごまかす仕組みは組んでみたのですが、まぁあとはそれがうまくいっているかどうかというところで。
では、ディートリヒ殿、やってみてくださいよ」
ディートリヒは頷いて、そのレガリアへと歩み寄っていった。
垂れ下がっていたワイヤーリフトに足をかけて胸部へと登り、開け放たれているコックピットの中へ入った。
付け加えられた様々な機械を繋ぐコードがむき出しになっている。雑然としたコックピットだ。
ディートリヒは事前にレクチャーを受けたとおりにシートに座り、両手首にリング状の腕輪をはめた。
右手の近くに増設された取っ手のようなハンドルがある。
起動スイッチだ。
ディートリヒはそのハンドルを掴むと、90度回転させ、押し込んだ。
コクピット内のモニターや機器類の照明がつき、機体が鳴動した。
『起動完了』
実験が成功したことを示す表示だ。今、このレガリアは動いている。
ディートリヒはコックピット内に置かれていたフルフェイスのヘルメットを被ると、そのスイッチを入れた。
ディートリヒの脳が機体とつながり、膨大な情報が押し寄せてきた。
「ぐぅっ」
あまりの負荷にディートリヒが声を漏らした。
本来、エリュテリオスやパルテノスなど万全な機体であればシステムが制御して必要な情報のみを渡してくるところ、そのような処理もなく全ての情報が流し込まれてきたのである。
「く、ははっ」
そんな情報の奔流を受けて、ディートリヒは笑った。
動く。動かせる。レガリアだ。
興奮が体中を駆け巡っている。感情が昂ぶる。
『見事だ。それじゃあ、君が手にしたそれがレガリアであることを、連中に証明してみせてあげてはどうかな』
アルテアの声がした。
そうだ、とディートリヒは思った。
この機体がレガリアのフリをした物ではなく、レガリアであることを示さなければならない。
どのように証明するのか。
簡単だ。
戦ってみせれば良い。圧倒的な性能こそレガリアの証明なのだから。
ディートリヒは機体の右手を動かし、立てかけられていたロクシアスの突撃槍を手に取った。
「ロクシアス。いや、もう違うのだな」
ディートリヒは頭を振った。動力炉やコックピットの大部分、機体の根幹はクロイツが持ってきた機体の物で構成されている。この機体はもうロクシアスではない。
さきほどモニターに表示された機体名を思い出し、ディートリヒは呼びかけた。
「征こう、我がレガリア、ノミオスよ!」
機体は槍を掲げ、格納庫の天井を突き破って空へと飛び上がった。
右肩のブースターが炎を吹き、さらに空の上へと機体を押し上げていく。
目指すは宇宙港。
2人の侯爵のレガリアがそこにある。それと戦い、互角であることをみせてやれば、誰の目にもこれがレガリアであることは明らかになるだろう。
「はははははは!」
ディートリヒはコックピットの中で大声を上げて笑っていた。
「レガリアだ! 手にしたぞ! 私こそが大侯爵にふさわしいのだ!」
哄笑がオープンチャンネルで響き渡った。




