2-16 決戦②
両軍が機兵を発進させ、隊列を組んで近づいていく。
帝国軍中央部隊100機。対する解放戦線は62機。
明らかな戦力差に、解放戦線は紡錘形の陣形を取っていた。中央に戦力を集中し突破を図る構えである。
帝国軍の陣形は鶴翼、中央をへこませ解放戦線軍を包みこもうという構えだ。
その最前列中央に、紅蓮に燃え上がる特異な機体があった。
長大な突撃槍と盾を携えた真紅の重厚な機兵が、専用に作られたのであろう二輪車のようなフォルムをしたロケットブースターに跨がっている。
その姿はまさに人馬一体となった騎士のようであった。
大侯爵のレガリア、ロクシアスである。
『反乱分子どもに告げる!』
大侯爵は暗号化せず、誰でも受信できるオープンチャンネルを使って呼びかけた。
『我こそは帝国の盾にして比類なき一槍、サリアフェ大侯爵である! 我が槍にかけて予言しよう。この私が出陣した以上、卿らの反乱は既に潰えている。速やかに武装を解き降伏するのが賢明と思うがどうか!』
これに応えるのはカーマイン伯爵である。
『大侯爵御自らの御出陣、痛みいる! 確かに戦力差は大きく、帝国随一の精兵たる大侯爵軍に対し我らは余りに脆弱であるようだ』
言葉の内容と裏腹にカーマイン伯爵の口調は強い。
『だが、我らとて覚悟を持って戦いに臨む者である、降伏を望む者など1人もいないことを知るがいい! このうえは我ら全員の命をかけて、我らが槍の冴えを披露してみせよう!』
その言葉に大侯爵は笑った。嘲りではない、賞賛の笑いである。
『ははは、その言やよし。反乱分子の首領よ、名乗らぬか。もしこの一戦で私が敗れることあらば、その勝利をもって反乱の罪を問わぬと約束しよう!』
『我が名はカーマイン伯爵マルクである』
『おぉ、貴殿であったか。道理で手強いわけよ。しからば伯爵、準備は良いな?』
『無論』
『よろしい、ならば、全軍―――』
『いざ、大侯爵の首を取るぞ。全軍―――』
『『突撃!!』』
同じ号令が両軍に響き渡った。
両軍の機兵が同時に噴射炎を吹き、敵軍へと向かっていく。
ロクシアスは最初他の機兵と速度を合わせて加速をしていた。
しばらくそうしていたが、何かのタイミングを見計らっていたのだろう、突如としてロケットブースターの噴炎が大きく膨れ上がり、暴力的な加速を始めた。
ロクシアスは帝国軍の隊列から離れ、ただ一機、解放戦線軍へと単機駆けを仕掛けていく。
『撃て!』
ロクシアスめがけてビームが集中した。
機体が上下左右へ弾かれるように回避機動を行い、そのことごとくを回避した。その間も加速は続いていく。
ロクシアスが突入する。
解放戦線の先頭にいた騎士鎧がそれに槍を合わせようとしたが、ロクシアスの突撃槍の穂先が先に捉えた。
騎士鎧が胴をえぐられ爆散した。
ロクシアスは速度を緩めぬまま次の獲物へと槍を向けていく。その穂先が2機目の犠牲者へ突き刺さろうとした瞬間、ロクシアスは機体を翻し直角に曲がってその場から離れた。
ロクシアスがいた空間をエリュテリオスの剣が貫いていった。
『来たか!』
大侯爵が叫ぶ。
この戦場でロクシアスに対抗できる機体はただ一つだ。
『来たさ』
黒紫の機兵が、紅い騎兵に迫っていく。
エリュテリオスが手にするビームライフルが火を噴く。
ロクシアスはそれを難なく避けたが、そこへ4本の剣が躍りかかっていった。
そのうちの2本は機体の姿勢制御で回避し、1本は突撃槍で払い、1本を盾で受け止めた。そのままブースターを噴射し一時的に距離を取った。
『見知らぬレガリアよ。どうだ、騎士として名を名乗らぬか?』
大侯爵が挑発した。
『あいにく騎士ではないものでね』
『なんの、好きな名乗り方で良いぞ』
『……海賊船<黒銀の栄光>船長相談役のセツト。機体の名はエリュテリオス』
『そうか。エリュテリオスのセツトよ。いざ戦おう!』
2機の機兵が、槍と剣を向かい合わせた。
エリュテリオスとロクシアスが空戦を始めたころ、両軍の他機兵も戦闘を始める距離まで近づこうとしていた。
「あれがレガリア同士の空戦か……」
ディートリヒは自らの騎士鎧のコックピットでその戦いに気圧されていた。
2機は騎士鎧では不可能な速度で飛翔し、さらに慣性という本来絶対である物理法則を無視した自在な機動を行っていた。
空戦の次元が違う。
『すさまじいですね、若』
フレッドも同じ感想を抱いたようだ。
「あぁ。確かに騎士鎧すら相手になるまい」
『いずれ、若のものになるのですね』
「そう考えると、楽しみになってくるな」
『若、そろそろですぞ』
グスタフが口を挟んできた。そろそろ接敵である。大侯爵が敵レガリアと戦っている間の部隊指揮はディートリヒが執るように命じられていたのだった。
「よし諸君、数が多いからと慢心するなよ! かかれぇ!」
互いに機兵のライフルの射程に入り、ビームが飛び交い始めた。
そこからさらに距離が近づくにつれて、ドッグファイトへと移行していく。
「数が多い敵が落ち着いているのは嫌だねぇ、まったく」
ダスティがぼやきながら騎士鎧を操り、帝国軍の量産機兵の足を打ち抜いた。
「いいか、訓練通りやるんだぞ! きれいにコックピットを抜こうとか思うなよ!」
部下たちに呼びかけながら次の1機へ向かう。
機兵同士のドッグファイトで、コックピットを打ち抜いて殺せることはほとんどない。
そう簡単には当たらないのだ。
一番いいのは手足だ。
手足の一本でも失えば機体全体の重心位置が変わるほか、手足の姿勢制御バーニアによる機動も自在にできなくなるため、機動性が格段に落ちる。
そのため前線で戦うことが難しくなり、戦線から離脱していくことになるのである。
戦果の第一歩は『どこでもいいから当てる』ことである。
『さすが大侯爵直属、手ごわいな』
とはゴードフの言葉である。彼は一機の騎士鎧と熾烈なドッグファイトを繰り広げていた。縦横無尽に飛び回り相手に確実にビームを当てられる位置を取ろうとする。それは相手も同じであり、くるくるとお互いに回り、螺旋を描き、時には切り返して激しい機動を展開していた。
精鋭といえる騎士鎧を操る彼らはいい方である。
解放戦線の量産機兵は分の悪い戦いを強いられていた。
『数が多すぎる!』
2機の帝国軍機に挟み撃ちにされた量産機兵が、対処しきれずビームサーベルで右腕を切り落とされた。
戦場の全体を見渡せば、損傷比率が多いのはやはり解放戦線の側である。
『おかしら、前の方押されてますぜ』
<黒銀の栄光>の海賊機兵たちは解放戦線部隊の後方に配置されていた。
「そんなの当然だからいいのよ」
キティも自身の機兵で出てきていた。その赤い機兵の背後に、通常より長い銃身を持つビームライフルを構える海賊機兵が5機いた。
「大侯爵を落としたら勝ち、できなきゃ負け。そういう戦いなんだからさ。シェリー、どんな感じだい?」
その中の一機がシェリーの機体であった。ライフルの銃口はロクシアスを捉えようとせわしなく動いていた。
『動きがめちゃくちゃすぎて、これ当てられたら神業ってレベルかな』
近距離からの射撃は、銃身角度を解析されて避けられてしまう。シェリーたちは、ミツキと相談し、銃身を解析できない距離を算出、その距離より遠いところから狙撃することでロクシアスにダメージを与えることを狙っていた。
『一瞬でいいから隙がほしいな。セツト君がんばれぇ』




