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2-14 英雄願望②

 サリアフェ解放戦線の本拠地は、領都の隣のヴィグル星系にあった。


 星図には都市や居住地がないものとされており、いくつかの採掘基地があるだけの寂れた星系である。

 そうした場所の一つ、今は使われていない小惑星採掘基地が彼らの本拠地であった。

 <黒銀の栄光>と解放戦線の輸送艦はその小惑星に着陸し、キティとエルザは解放戦線のリーダーに会うべく採掘基地を訪問した。


「エルザ様、そして“黒銀の”キティ様。ようこそ我らが城へ。私はサリアフェ解放戦線のリーダーをさせていただいております、カーマイン伯爵マルクと申します」


 グレーの髪に青い瞳を覗かせた男がそう名乗って礼をした。


「お目にかかれて光栄ですわ、カーマイン伯爵」


 エルザが礼を返し、キティはただ頷いて返した。。


(伯爵ねぇ。ずいぶん戦力を持ってると思ったけど、これほど高位の貴族が参加していたとはね)


 ダスティ達の第3行動部隊ですら数十機の機兵を擁していたのである。第1と第2はあると考えるとその戦力は最低でも100機を超えていたはずだ。帝国の軍備水準で言えば伯爵位が備えるべき軍備の水準であるから、納得のいく地位であった。


「船旅でお疲れでしょう。ひとまず休まれますか?」

「いいえ。今は時間が惜しいですわ。さっそく今後についてお話ししたいのですけれど、いかがでしょうか?」

「分かりました。ご懸念はダスティから聞いております。それではこちらへどうぞ」


 カーマイン伯爵はキティとエルザを作戦会議室へと案内した。少し遅れてダスティや幹部と思われる者たちがきて、めいめいに挨拶をして着席していった。

 ダスティが事前に言い含んでおいたのだろう、誰もキティを『キティシアお嬢様』とか『カーリス子爵令嬢』だとか呼ぶことはなく、ただのキティとして扱ってきた。何人かは目を潤ませていたが。


「さて、諸君。知っての通り艦隊基地襲撃作戦は成功した。近年まれに見る素晴らしい戦果だったと思う。困難な任務を完遂したダスティを賞賛すると共に、この作戦に協力していただいたエルザ様とキティ様に心からの感謝を申し上げたい」


 カーマイン伯爵が会議を切り出した。


「だが、同時にある筋より軽視できない情報がもたらされた。大侯爵が自ら軍を率いてここを強襲する可能性が高いというものだ」


 幹部達がざわめいた。


「当然、小さくない戦力を率いてくることだろう。これまで彼らは反乱などない、との公式見解の元大規模な軍事行動を起こしてくることはなかった。だが今回の作戦の成功でその前提が変わったと見るべきだ。大規模な攻撃が来ることが予想される。

 これまで把握している情報をもとに、大侯爵の動員数を推測した。予想される動員兵力はフリゲート艦10~15隻。これは、我々の逃走を防ぐために最大限迅速に出兵したと想定した場合の数字だ。先遣隊は今から3~6時間後には到達することが予想されている」

「先遣隊の内容は?」

「バルカン艦隊基地にいたフリゲート4隻のうち3隻と考えている。1隻は我々の攻撃で損傷しているから、動員はされないだろう」

「超空間では勝ち目がないな。輸送艦の遅い足では追いつかれて沈められてしまう。脱出は間に合うまい」


 超空間での戦闘は、速度が速い側が接舷しての機兵戦を選択しない限り、戦闘艦の砲撃力で勝負がつくことになる。輸送艦しか持たない解放戦線は超空間では圧倒的に不利であった。


「そうだな。つまり乾坤一擲の勝負に出るか、ダメ元で逃げるかだ」


 会議室の全員が一瞬様子を見合った。


「先に言っておくけど、あたしはエルザを連れて逃げるわよ」


 キティは真っ先に宣言した。何人かが面白くなさそうな顔をした。


「一蓮托生で死ぬ理由がないわ。当然でしょう?」


 先日エルザ達と話しあってギリギリまで助けることを決めたキティだが、この場ではまずそう主張することにしていた。戦力として計算に含まれて戦おうなどと判断されても困る立場である。フリゲート単艦であれば逃げられる可能性が高いということから重要人物を逃がすという判断を誘いたいという考えもあった。


「その通りだ」


 肯定の言葉を発したのはカーマイン伯爵だった。


「本来我々の戦いは我々自身で成し遂げねばならないものを、彼らは彼らの事情に基づいて手助けをしてくれたに過ぎない。

 皆に問いたい。我々は、誰の手も借りず我々の手でこそ幕を引くべきではないか?」


 上手い言い方であった。キティ達が逃げるのを許容しつつ自分たちの戦意を高揚させている。さぞかし騎士心に響くだろう台詞だった。


「そうだな。自殺に巻き込むのはダサいな」


 ダスティがカーマイン伯爵に賛同した。


「じ、自殺だと」

「そうだとも。戦うなら死ぬ気で戦って万に一つを拾うかという世界だろうさ。大いに結構。万に一つもあれば我々には十分ではないか?」


 キティは苦々しい思いでその会話を聞いていた。

 カーマイン伯爵自身も戦うことを望んでいるのだろうと思った。

 解放戦線の者たちの戦意が高い。大侯爵が自ら来るという情報が、彼らを一世一代の大勝負に駆り立ててしまっているのかもしれなかった。

 大侯爵が来るだろうという情報は、それだけの大戦力が来るのだとして逃走を選びやすいよう伝えたのだが、かえって失敗だったかもしれない。そう思わずにはいられなかったのである。


「よろしい、それでは戦おう。キティ様、一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか」


 方針をまとめた後、カーマイン伯爵がキティに向き直った。


「なあに?」

「仮に我々が負けた場合に解放戦線が消滅してしまわないよう、何人か貴艦に乗せてはいただけないだろうか」


 これにはキティも少し安心した。カーマイン伯爵は勝利か死かというほど近視眼的ではなかったらしい。


「いいわよ」


 キティは二つ返事で請け負った。


「逃げられなくなるギリギリまでは協力するわ」


 そのうえで先日決めた自分たちの方針を伝えたのだった。




 ちょうどその頃、帝国軍は先遣隊のフリゲート3隻がヴィグル星系内の超空間を航行していた。


「艦長、あと3時間で反乱軍の本拠地です」

「うん」


 フリゲート艦<リヴァイアス>艦長ピアーズ子爵は艦橋のモニターをにらみつけたまま頷いた。

反乱軍の本拠地はレオンハルトが来る前にと行われた一掃作戦で得たデータや捕虜からの情報により、突き止めることができたものだ。


 先遣隊についてのカーマイン伯爵の予想は正しく、彼らはバルカン艦隊基地にいたフリゲートであった。目の前で反乱軍にしてやられた彼らの戦意も非常に高かった。

 それがカーマイン伯爵の予想時間の中で最も早い時間での到着という結果をもたらしていた。


「作戦通り、僚艦と共に超空間で監視態勢を取るぞ」


 先遣隊の役目は、反乱軍を逃がさないことであった。

 反乱軍の保有する艦艇は武装の乏しい輸送艦しか残っていない。支援に現れた海賊のフリゲートを戦力に加えても、超空間でフリゲート3隻と戦えば帝国軍が勝つ。

 このようにして反乱軍の逃走を防止し、本隊の到着を待つのである。


 本隊は速度を重視してフリゲートのみで16隻。機兵の数は300機を超える規模になる予定だった。これはカーマイン伯爵の予想よりも多いことになる。

 その中にはもちろん大侯爵の乗るレガリア、ロクシアスも含まれている。


 この1戦で確実に反乱軍の息の根を止める。

 帝国軍はその決意の元、艦隊を動かしていた。


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