2-11 惑乱の魔術師
<黒銀の栄光>は、超空間から通常空間に出た。
その目の前に、青白いガスを纏う氷惑星があった。惑星バルカンである。
「総員出撃準備―!」
<黒銀の栄光>は、その格納庫だけでなく艦上にも多くの機兵をへばりつかせていた。反乱軍ことサリアフェ解放戦線の機兵達である。
解放戦線の機兵達は、直前までかれら自身の輸送艦でバルカンに向かっていたのだが、その直前で<黒銀の栄光>に移乗したのであった。
それはこの作戦が時間勝負であることに起因している。
バルカン港にいる戦力は解放戦線と<黒銀の栄光>が協力したところでどうにか出来る数ではない。
計画通りであれば、レオンハルトが基地をかき乱しまくっているはずであり、そのイレギュラーな対応に忙殺されているところを奇襲する。
しっかりとした一撃を加え、反乱軍が『バルカン港を攻撃できるだけの強大な戦力』を保っていることをレオンハルトに認知してもらう。
これがこの作戦の目的であった。
作戦時間は、<黒銀の栄光>が減速し反転加速を開始するまで。短時間の勝負である。
「全機発進!」
へばりついていた解放戦線の機兵達が離れた。およそ15機、大きな損傷を受けていない騎士鎧を中心に精鋭が集められていた。
その指揮官はダスティである。
解放戦線の機兵達が離れた後、海賊達が発進していく。
「ついでに基地の物資も奪ってくるねぇ」
シェリー機が手を振りながら離れていく。
「姐さん、一番高いもの奪ったやつになにかご褒美を!」
「ご褒美!」「ご褒美!」
「何も奪ってないうちにねだってんじゃないよ、この早漏どもが。私がきゅんってするような物奪ってから言え」
「何ならいいすか!?」
「レガリア欲しいなぁ」
「そんな無茶な!?」
「あ。セツト君になら、生きて帰るだけで私の初めてあげちゃうよぉー」
「死ねセツト」「爆発しろセツト「呪われろセツト」
「は? お前ら私のセツト君になんて口きいてんの? 死ぬの?」
「「すいやせーん!」」
なお、そのセツトのエリュテリオスもその隊列の中に加わっていた。後ろから撃たれないか不安である。
キティの姿は<黒銀の栄光>の艦橋にあった。今回は機兵に乗らず、全体の指揮に専念する予定だった。
エルザは艦内の自室だ。戦況は共有されるが、何かしてもらうことはない。
「……帝国軍の動きが遅い」
キティはつぶやいた。
フリゲートが艦隊基地めがけて飛び機兵を展開させ始めているというのに、帝国軍の反応は精彩を欠いていた。
やっと機兵が出たと思ったら、<黒銀の栄光>に対する防御位置ではなく、なぜか違う方向へと飛んでいく。
大軍に奇策はいらない。数で勝る方は適切にその優位を守って正攻法をとればいいのであって、リスクのある奇策を取るべきではない。
「これはエルザ兄がうまくやってるようね」
キティはそう判断した。
「全軍突撃!」
号令をかける。機兵たちが全機一斉に加速をはじめ、艦隊基地へと飛んで行った。
ディートリヒがそれに気づいたのは、基地中に警報が鳴らされてからのことだった。
ディートリヒはいそいで指揮所に行ってノートリアの姿を探した。
「ノートリア、敵だと!?」
「あぁ、若。そうです。フリゲートが一隻。ただ機兵が40もいます。背後にもう一隻いるかと」
フリゲートと聞いて、ディートリヒの頭に例の黒紫のレガリアのことが浮かんだ。
「敵機兵の画像を出せるか?」
「少々お待ちを」
兵士が機器を操作し、指揮所のモニターに敵の機兵の姿が映し出された。
ディートリヒはその機兵の姿を一機ずつ見ていった。
「真ん中あたりを拡大してくれ」
指示に従って画像の一部が拡大した。
(いた)
敵のレガリアだ。
(まさかもう再会するとは)
「一機、機体形状の雰囲気が違う奴がいるだろう。そいつは要注意だ。量産機兵を近づかせるな」
「分かりました」
「惑乱の魔術師殿は?」
「基地からやや離れたところにいましたので、現在急いで保護に向かっております」
モニターにその位置が表示された。機兵15機がレオンハルトの下に向かっているようだった。幸い反乱分子が攻めてくる方向とは違うところにいる。これなら巻き込まれることはないだろう。
「私も出よう。前線で指揮を執る。精鋭の騎士を10機あつめて私に預けてくれ」
「はい」
ディートリヒは指揮所を出た。
「お、来たね来たね」
レオンハルトは自身の騎士鎧の中でその状況を把握していた。
(一番来てほしい日にちゃんと来るなんて、よくできるじゃあないか)
星系間の距離がある者と即座に連絡を取ることはできない。そのためこういった合流作戦は、かなり前に『この日』と取り決めて行うことになる。航行速度は風力風向に影響されるため、日程は余裕をもって、かつ数日の幅は持たせることが通常だった。
それだけ長距離航行でタイミングを合わせるのは難しいのだ。狙った期日にドンピシャ、というのはそれだけで超空間航行のセンスがある。
『閣下、お戻りください! 危険です』
帝国軍の騎士がレオンハルトに呼び掛けてくる。
「え、何かあったのかい?」
レオンハルトは気づいていないふりをした。
『海賊が襲ってきました!』
「なんだって、辺境ではよくあることなのかい?」
レオンハルトは大侯爵領をあえて辺境と呼んだ。相手のプライドを刺激したのである。
『よくあることではありません!』
「敵の数は?」
『40機です』
「多いな。戦列母艦一隻分じゃないか。本当に海賊なのか?」
『海賊です』
騎士は断言した。この大侯爵領に反乱などない。それが公式見解である。
「ふぅん」
曖昧な返事をして、レオンハルトはどう振る舞うべきか検討をした。
レオンハルトの手でかなり乱されていたとはいえ、艦隊基地にいる機兵は多い。時間が経てば停泊している軍艦からも機兵が出てくる可能性もある。
そして基地側は一機の騎士鎧を中心にまとまりを取り戻しつつあった。
(あれはディートリヒ殿だな。相変わらず騎士鎧に乗って前線をまとめるのがうまい)
指揮官としてのカリスマというのだろうか、そういうものがディートリヒには備わっていた。部下を良く統率し容易には崩れない。
(ディートリヒ殿がいるとなると、ちょっとエルザたちが厳しいか)
速度の乗った少数の奇襲部隊対落ち着きを取り戻しつつある大軍。戦況は互角か、時間が経つほど大軍の方が有利になるだろう。
レオンハルトはそう判断して、もう少し戦場を乱すことにした。
「ねぇ君、名前は?」
『騎士トルスト・ヴェルナデットと申します』
「よし、トルスト卿。どうやら味方はまだ防衛態勢が整っていないようだ。僕らは味方のために一丸となって敵海賊を止めよう」
『……はい?』
「いざ我に続け、うおおおお!」
レオンハルトは戦場に向けて騎士鎧を加速させた。
『お、お待ちください閣下!!』
慌てて15機の機兵がレオンハルト機を追った。
「我こそは帝国きっての武勇を誇るテーセウ公爵が長子、レオンハルトなり! 我が槍の錆になりたい者からかかってくるがいいー!」
両軍に聞こえるように通信で叫び、レオンハルト機が突っ込んでいった。




