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2-10 査察妨害

 とある会議室で、5人の男達が円卓を囲んでいた。

 一人を除いて表情は険しい。

 つい先日、彼らの拠点の多くが帝国軍の襲撃を受けて壊滅したためだ。


 表情に余裕がある唯一の人物であり、襲撃を受けながらも唯一戦力を維持して脱出に成功した男、第3行動部隊長のダスティは、エルザから聞いた計画を彼らに説明していた。


「場は整えるから巡察使の目の前で反乱の存在を大々的にアピールしろ、か」


 補給部門をまとめている男が苦々しげにつぶやいた。良くは思っていないことがそれで分かる。


「長年反乱などないかのように扱っておいて、今更手のひらを返そうというのか」

「だがチャンスなのは確かだ。残された行動部隊は半分重傷の第3もいれて2つしかない。大侯爵領の政治を正すという我々の目的に有用なのであれば、乗るべきではないか」


 乗り気なのは第1行動部隊長であった。彼にしてみれば、現状の戦力ではもはや逃げ回ることしかできない状況に陥っているから、状況を打開できるのならそれも一案と考えているようだ。


「我々を壊滅させようという罠ではないのか?」

「既に壊滅状態にされているのにか? 大侯爵領の連中ならこんな芝居をするまでもなく叩き潰せるだろうさ」

「大侯爵だけが罠を仕掛けてくるわけではなかろう。だいたい、その連中は信用できるのか?

 公爵令嬢と名乗ったというが、我々はそれが真実かどうか確認することも出来ないのだぞ」

「公爵令嬢の方は分からないが」


 ダスティが口を挟んだ。


「海賊の方は、例の“海賊令嬢”で間違いない。うちのゴードフがカーリス子爵の元にいたことは皆さんご存知と思うが、彼が確認した」


 彼らの中にカーリス子爵を知らない者はいない。大侯爵の政治に真っ先に異を唱え、そのために大侯爵によって出奔させられてしまった男である。解放戦線の中には子爵の知己であったり、部下であったりした者が多くいる。彼らは子爵の出奔を大侯爵の不当な策略によるものとして、今でも『元』を付けずに呼んでいた。

 その名前は彼らにとって非常に重たい意味を持つ。


「カーリス子爵の娘を信頼できんとは言えんな」


 補給部門長でさえそう言うしかないほどだ。


「これまでは我々に接触はなかったが、長年帝国と敵対して海賊行為を行っている。簡単に帝国の口車に乗るとは思えない人物だ」

「ならば、信じるだけの根拠を得たか」


 どうやら話に乗る方に進みそうだな。

 ダスティは思った。




 惑星バルカン。サリアフェ大侯爵領の領都があるアードメ星系の外縁にある氷惑星である。同惑星の衛星との間で成立しているL4領域に、サリアフェ大侯爵領最大の艦隊基地があった。

 レオンハルトは、大侯爵軍のフリゲート艦に乗って同基地に入った。


「お会いできて光栄です、アルバス伯爵。私は大侯爵よりバルカン港を預かっております騎士ノード・ノートリアと申します」


 部下を引き連れた1人の騎士がレオンハルトを出迎え、礼をした。


「ありがとう、ノートリア殿。突然の訪問で手間かとは思うが、よろしく頼む」

「はい」

「さて、まずは事前に伝えたとおり、この基地の状況についてのデータをみせていただきたい」

「もちろんでございます。おい、閣下をご案内して差し上げろ」


 ノートリアに命じられた部下がレオンハルトの案内をするべく前に進み出た。


「閣下、本官がご案内させていただきます!」

「頼む」


 レオンハルトが部下に連れられて去って行く。後にはレオンハルトを案内してきたディートリヒが残った。


「若、あの方が巡察使殿ですか」

「あぁ。これまで領都の方でいろいろと資料を調べていたが、いよいよこれから領内の各地を巡る予定だ」

「どのような方です?」

「切れる。大侯爵領に対して隔意はないようだが、良くも悪くも職務に忠実にやっているようだ。何かに目をつぶってもらえるとは思わない方が良い」

「なるほど。籠絡できませんでしたか」


 ノートリアの問いかけにディートリヒは肩をすくめた。


「金には興味がない男だ。女はどうかと思って何人か文句を言われない程度に当たらせてみたが、全くなびかない。どうも妹がかわいすぎて他に目が行かないなどと言っているらしいが」

「やれやれ。嘘ですかね」

「昔から妹大好き人間ではあったが、過剰に演出している感じもする。ここでの監査は1週間ほどかかるはずだ。私もその間ここにいることになる。頼むぞ」

「えぇ、やりきりましょう」


 ディートリヒとノートリアはうなずき合った。

 だがその日のうちに始まった監査は、2人の予想以上のものとなった。


「この25番ドックというのはどこでしょうか。見に行きたいのですが」

「監査事項とは関係ないのですが、横流しの証拠を見つけてしまいました」

「修理備品在庫の現物を確認したいのですが」


 などなど、レオンハルトはことあるごとに基地の者たちをてんてこ舞いにさせたのである。

 もちろん基地には通常業務というものがある。それだけですら十分に忙しいのに、そこに巡察使の監査対応が最優先でねじ込まれてくるのである。


 1日とかからずに通常業務が滞るようになった。


「アルバス伯爵、どうかもう少し業務に対する思慮をしていただきたい」


 たちまち部下に突き上げられ、ディートリヒが苦情を言いに現われた。


「はて。思慮とは?」

「通常の事務に支障が出ております」


 レオンハルトはぽんと手を打った。


「なるほど。それはすまないことをした。だがこれも勅命を遂行するためだ。しばし耐えて欲しい」


 答えはこれからも配慮せずやります、だった。


「そこをどうにか。事務作業が滞ってしまってこのままでは大きな支障が出てしまうのです」


 ディートリヒは芸のない頼み方をすることしか出来なかった。変な言葉を使って『巡察使の監査が妨害を受けた』などと言われては一層大変なことになってしまう。


「そうは言われてもなぁ。この基地を見てみて、これは当初予定していたことよりもじっくり見る必要があるなと感じているのだ。それでも予定通りの期間済ませようと思ったらこのようにしていくほかないと思っている」


(……何が目的だ?)


 ディートリヒは訝しんだ。

 これまでレオンハルトが監査で無茶を言ったり予定にないことをしたことはなかった。

 元々何か企んでいるのではないかとの疑惑のある監査である。


「じっくり見る必要があるとはどのような理由でしょうか」

「監査の内情にかかわる。答えられない」

「わかりました。たとえばここでの監査期間を延ばすというのはどうでしょうか」

「そうすると今後の予定が全て後ろ倒しになるが、いいのだろうか?」

「問題ありません」


 今後予定される場所についても日程に合わせての手配はしている。予定をずらせば各所が困るだろう。だが今目の前の基地業務の停滞を解決することの方が重要だとディートリヒは判断した。


「そうか、わかった。見るべきものを見られるのであれば私は構わない。事務作業が進められるよう配慮して監査しよう」


 翌日、レオンハルトからの要求は少なくなった。これで事務の停滞が解消されるだろう、とノートリアは胸をなで下ろしたが、完全に早合点であった。


「あの、巡察使閣下が、機兵に乗って外から基地を見たいと仰っているのですが……」

「はぁっ!?」

「もうすでにご自身の騎士鎧の用意を進めておりまして、いまにも外に出そうです」

「護衛は!?」

「頼むと」

「今すぐ手配しろ! 巡察使に万が一があったら反逆と言われても否定できんぞ!」


 それは基地の警備体制に急な変更を加え混乱を招く指示であるが、背に腹は代えられない。


「くそ、疫病神め!」


 彼の部下達はノートリアの叫びを聞かなかったことにした。心は一つだ。


 翌日もレオンハルトは唐突に機兵に乗った。

 もはや基地中が引っかき回されていると言っても良い。たしかに機兵で外に出ていれば事務作業は滞らない。だが、基地としての根本業務が滞ってしまっている。


 だから。


「急報です、超空間をこちらに向けて全速で迫ってくるフリゲートがあります!」


 その報告は、基地にさらなる混迷をもたらした。


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― 新着の感想 ―
証拠見つけた言うてもとるやん。
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