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2-7 反乱軍討伐戦

「スループ艦<アシモフ>より入電。『我、超空間ニテ所属不明フリゲート艦発見セリ。当惑星域ニ向ケテ接近中』です!」


 戦列母艦<アードベグ>の艦橋に通信士の声が響いた。

 誰よりも先に反応したのはディートリヒであった。


「ここに来たか!」


 期待していた展開に彼は高揚していた。


「時刻はどうだ!?」

「はい。<アシモフ>からの情報に基づいて計算すると、反乱分子と合流するのは最短で4時間後と思われます」

「それなら連中、反乱分子の救出は不可能だな」


 <アードベグ>の他にフリゲート艦2隻、それに搭載されていた70を超える機兵が、衛星軌道上に設置された反乱分子の拠点から逃げ出した輸送船を攻撃するための展開を終えていた。

 あとは突撃命令を待つのみ。正体不明のフリゲートは、おそらく<黒銀の栄光>だろうが、そんな状況で現われたのだった。


 反乱分子を制圧するのに2~3時間もあれば十分だろう。少し手こずったとしても4時間。奴らが到着することには全てが終わっているだろう。


「作戦決行だ。速やかに反乱分子を制圧する。海賊が戦闘を仕掛けてくるのなら、その後に相手をしてやる」


 ディートリヒは身を翻して艦橋から出るべく歩き始めた。


出撃()られるのですか?」


 <アードベグ>の艦長が尋ねた。


「あぁ。反乱分子相手に戦果を上げようとは思わぬが、空気は感じたいのだ」

「ご武運を」


 艦長が一礼した。




 <黒銀の栄光>号は、超空間から通常空間に突入した。

 レーダーやカメラによる観測が可能になり、艦橋の中に情報がなだれ込んできた。


「おかしら、やっぱもう戦闘中ですぜ」


 優雅に赤い扇子を仰いでいたキティの手が止まった。


「ま、そうよね。間に合う?」

「難しいすね。数の差がでかい。もってあと1時間でしょうが、こっちは機兵を飛ばしても間に合いません」

「……引き返すしかないかな?」


 ここで反乱軍と接触できないと、いろいろと計画を修正する必要があるはずだ。できることなら救出したいが、時間の制約はどうしようもない。


「あの」


 そこにセツトが手を上げた。


「エリュテリオスなら間に合うのじゃないかと」

「一機で助け出せる?」

「敵は多いようですが、反乱軍の機兵と協力して時間稼ぎを延長することはできるんじゃないかと思います」


 エリュテリオスが対多数の戦闘を得意にしていることは分かっている。まして今回の大公爵領軍はエリュテリオスの事を知らないはずだし、エリュテリオスの剣は初見殺しだ。


「やる価値はあるか。行ってもらえる?」

「はい!」


 セツトは席を立ち、ミツキを見た。ミツキは頷く。


「いつでも出れます」


 ほどなくエリュテリオスは<黒銀の栄光>から離れた。

 すぐに加速を開始し、ビームが飛び交っている反乱軍の拠点に向かって行く。




 フリゲート艦が現われたことは、反乱軍の側でも把握していた。

 最初、帝国軍の遅れてきた船ではないかとさえ思われ、反乱軍の間に絶望的な空気が広がった。


『こちら、<鋼鉄の義手>を持つ者だ』


 輸送艦にその通信が入ったとき、輸送艦の者たちは一瞬顔を見合わせ、後に歓声を上げた。

 反乱軍を影から支援してくれている商人から、<鋼鉄の義手>という連中が反乱軍の味方として現われることは伝えられていたのである。

 まさかそれが今来るとは。


「味方だ!」「フリゲートだ、味方だ!」「援軍が来たぞ!」


 反乱軍の機兵同士で同じような言葉が飛び交った。間に合うか間に合わないかではない。帝国軍に追われこのままでは逃げ切れない状況の中、援軍が来たという事実が彼らの心を奮わせた。あの船と合流すれば逃げられるのだ。


『ゴードフ、援軍だそうだぞ』

「ほほう、うれしいねぇ。どうやら今日は死なずにまだ戦い続けられるというわけだ」


 ゴードフと呼ばれた男は、機兵隊を指揮する友人の言葉に戦意が高い返答をした。


『間に合えばの話なんだがね』

「それについてダスティ君の見解を聞こうか」


 ゴードフの戦歴は長い。その経験からくる勘が、フリゲートの援軍が到着するより先に自分たちが壊滅するだろうことを伝えてきていた。


『簡単さ。それまで俺たちが生き残れば良いんだ』

「なるほど、簡単だ。2倍の機兵を相手にしてる状況じゃなきゃあな」

『俺に任せてくれ』

「任せたよ」


 ダスティからの通信が個別ではなく全体への指揮用のチャンネルに切り替わった。


『全員、帝国機兵に勝とうと思うなよ! 機兵の腕がちぎれても、足が吹っ飛んでも、生きて帰るぞ! 家族か恋人がいる者はその顔を思い出せ!』

『隊長、どっちもいない俺はどうしたらいい!?』

『誰でも良いから好きな奴の顔を使わせてもらえ! あとでちゃんと使用料払えよ!』


 通信回線に笑いが満ちた。

 機兵乗りたちの戦意はまだ失われていない。これならまだまだ粘れるだろう。


 その時、援軍のフリゲートから一機の機兵が飛び出したのがレーダーに映った。

 普通の機兵が出せる加速ではない。騎士鎧であっても同様だ。

 なにか特別な仕掛けをした機兵だろうか。分からないが、この状況ならこちらの助けになるもののはずだ。


 ダスティはそう考えてこの情報を共有することにした。


『どうやら援軍には英雄願望がある奴がいるらしい、一機ものすごい速度で向かってきているぞ!』


 回線が歓声で満たされた。


 到着時間は30分後。楽な戦いではないが、それまでは保たせてみせようか。

 ダスティは決意を固めて部隊に命令を送り始めた。


 もっとも、どれほどダスティが有能でも、どれほどパイロット達の戦意が高まっていようと、数の差を覆すことは出来ない。


 帝国軍だけでなく、反乱軍にもところどころ騎士鎧が混じっている。反乱軍はそうした騎士鎧を中核として量産機と編隊を組み、それぞれが連携して戦っていた。


 一方の帝国軍は、一応の編隊はあるものの、個々人の技量に頼った戦いを展開している。これは帝国軍の常である。


 一機、また一機と損傷を受ける機兵が増えていった。通常なら退却するような損傷を負った機兵さえ戦場に残して射撃をさせ、ギリギリのところで粘り続けた。

 だがそういった重大な損傷を受けた機兵は、満足な回避機動を取ることが出来ない状態にある。


 両足を失った状態でビームライフルを撃ち続けていた一機の量産機兵の胸部が、帝国の騎士鎧が放ったビームに打ち抜かれた。

 動力炉を打ち抜かれた機兵が爆発した。


 反乱軍の機兵が一機、また一機と次第に数を減らしていく。

 帝国軍の機兵も損傷を受けているが、反乱軍と比較すると軽微なものが多い。


「あーくそ!」


 ゴードフの騎士鎧も被弾し、左腕を失った。右手のビームライフルで反撃を試みたが、回避されてしまった。


「やばいな」


 腕が一本ないだけでも姿勢を変えるのに支障が発生し、回避は難しくなる。

 だがまだ落とされるわけには、死ぬわけにはいかない。

 ゴードフは機体を加速させ、速度で攻撃を避ける方針に変えた。

 飛び続けながらビームライフルを撃っていく。


(あ)


 ゴードフの目が、一機の帝国軍機を見た。ライフルがちょうどこちらの未来位置を狙っていた。

 旋回は間に合わない。今から動いたところで、敵の照準補正から逃れることはできない。


(まずった!)


 敵機兵の銃口からビームがほとばしる。ゴードフは自機に迫るビームを直視した。


 死を認識した。

 視界をビームの白い光が満たしていく。

 その白い視界を、銀の光が切り裂いた。


 飛来したエリュテリオスの剣が、ゴードフ機に当たる直前のビームの前に飛び出して、その刀身の側面で受け止めたのだ。

 剣がビームを弾き、機体への直撃は防がれた。


(……なんだこれ。剣?)


 ゴードフは自機を救ったそれが何かが分からなかった。

 次の瞬間には剣は向きを変え、帝国機兵めがけて飛んでいった。


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