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2−5 護衛役ミツキ

 使えるものは使う。

 それがキティの信条である。


 たとえ初めて会った人物から『父親に世話になったから』と便宜を図られた場合でも、それが使えるものなら遠慮なく使う。


 <黒銀の栄光>と通信をして区画封鎖が真実だと確認すると、キティはカーベの申し出を入れて車を受け取ることにした。


 車にエルザのための荷物を積み、乗り込もうとしたとき、車庫の出口に警備隊の制服を着た男たちが2人現れた。


「いたぞ!」


 彼らはキティの姿を認めるなり腰のホルスターに手を伸ばした。


「ままま待ってくれ!」


 カーベが両手を上げて叫んだ。


「人質なんだ、たすけてくれぇ!」

「おいうるさいぞ」


 セツトは手に持った銃をカーベに突き付けた。もちろん演技である。


 警備隊の男たちは、一瞬視線を合わせると、キティたちに向けてハンドガンを構えて撃った。

 互いの距離は20メートル。この距離では弾は狙ったところになど行かない。人質などお構いなしの射撃だった。


 火薬の炸裂音が2度響いた。

 火薬が炸裂してから着弾するまでの時間は約0.05秒。人間には反応不可能な時間だが、警備隊員の引き金を引こうとする指が動いた瞬間に反応していて動き出していた者がいた。


 ミツキである。

 エリュテリオスに乗っている時と同様に銃の角度から射線を計算、彼女にとっての最重要護衛対象であるセツトの前に飛び出して、両手の手刀が銃弾を迎撃した。


 手刀が銃弾を斬った。

 次の瞬間にはミツキは警備隊員へ向かって踏み込み、一瞬で20メートルを走破して懐に飛び込んでいた。


「なっ―――!」


 にものだ、と誰何する間もなく、ミツキのボディブローが決まった。肝臓をきれいに打ち抜いた一撃が1人目の警備隊員の意識を刈り取った。


 次の瞬間ミツキに銃を向けようとした2人目の警備隊員の目には、懐に飛び込んでくるミツキの姿が消えたように見えた。

 2人目にもボディが決まり、その身体が崩れ落ちた。


 その間にキティは車の運転席に飛び込んでスイッチを入れた。


「早く乗んな!」


 その言葉にセツトとアンネが後部座席に飛び込んだ。

 ミツキが右手を外に向けて振った。行けという合図だと判断したキティは、車のアクセルを目一杯踏み込んだ。

 モーターが回り急発進する。

 車がミツキと警備隊員達の橫を通り過ぎ、車庫から外に出た。


「ミツキは!?」


 後部座席でセツトが叫んで振り返った時には、ミツキは走って車に追いついていた。

 現在時速60キロ。

 ミツキは自らの足で車に並走している。ものすごい速度なのに上体が全くブレない。怖い。


『お呼びですか、マスター』


 車のスピーカーからミツキの声がした。


「あ、うん……」


 セツトはドン引きしていた。


『無駄な殺しはしないとの<黒銀の栄光>の規定に則り無力化いたしました』

「……なんか一人だけ剣と魔法の(ファンタジー)世界の戦士がいるわね」


 キティのコメントが全員の気持ちを代表していた。

 キティは車を走らせてシャトルを係留している桟橋へと向かった。


 幸い道中に警備隊員は現れず、一行は邪魔されることなくシャトルに乗り込むことができた。


 キティが起動用のカードキーを持って操縦席に向かおうとしたが、その動きをミツキが止めた。

 ミツキはキティの手からカードキーを抜くと、それに手を当てた。


「登録キーを読取。シャトルの基幹システムに接続、電子キー認証を突破しました。全システム掌握完了」


 言うや否やシャトルのシステムが立ち上がった。ミツキは操縦席に座ってすらいない。


「発進シークエンス開始しております。皆様はどうぞ席に」


 キティは肩をすくめて後部座席に向かった。後部座席は6人分のシートがあり、全員が座ることができた。


「セツト、あんたの護衛すごく便利ね」


 キティの声は純粋な賞賛ではなかった。なんで隠してたの、との非難がある。


「僕も驚いてますよ……」


 セツトとしても『かなり計算ができる』だけだと思い込んでいたのだ。確かに以前護衛と言っていたし、ミツキはセツトに嘘をつかないから、気にしていれば分かったはずではあるのだが。


「何ができて何ができないのか確認しておきなさいよ。肝心な時に足元掬われるわ」

「そうですね」


 セツトは頷いた。何もわからなければ作戦に組み込むことができない。今度じっくり聞き出しておかなければ、と心に刻み込んだ。


「シャトルと<黒銀の栄光>号との通信を確立しました」


 ミツキがそう言った瞬間、


『おかしら、そっちは大丈夫っすか!?』


 とキュークの声が響いた。


「大丈夫よ。そっちは?」

『ベイの正面ゲートを閉じられちまいましたよ。外に出さない気っすね』

「そう。すぐに発進準備をして。こっちはシャトルを手に入れたから、宇宙で合流するわ」

『へい。ゲートはどうしやす?』

「吹っ飛ばせ」


 キティはためらうことなく命じた。


『野郎ども聞いたな! 船首追撃砲(バウチェイサー)エネルギー充填、同時に発進準備急いで終わらせろ!』


 あちらも動き始めたようだ。


「シャトル発進準備完了、桟橋とのドッキングを解除します」


 シャトルが宇宙港から切り離され、施設から離れるための小さな噴射を開始した。


『前進! 同時に、船首追撃砲(バウチェイサー)撃ちやーす!』


 キュークの叫びとともに、宇宙港の一角、<黒銀の栄光>が停泊していた場所から4本のビームが飛び出した。

 ゲートに4つの大きな穴が開いた。加速を始めた<黒銀の栄光>が電磁力による船のロックを引きちぎり、脆弱になったゲートをその船首で押し広げて宇宙へと出た。


「合流軌道算出しました。<黒銀の栄光>と共有します」


 <黒銀の栄光>とシャトルはその計画の通りに無事合流することができた。シャトルは<黒銀の栄光>とドッキングし、キティたちはドッキングハッチから<黒銀の栄光>へと戻った。


 仕事を終えたシャトルが切り離され宇宙を漂う。

 <黒銀の栄光>は最大加速を開始し、シャトルだけがあとに取り残された。


「補給は終わってたわね?」

「へい。積み終わった後でやした」

「上出来ね。そしたら超空間へ。噂の反乱軍とやらに会いに行くわよ」


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