2章 オープニング
第2章 無冠の騎士と白い反逆者 よろしくおねがいします。
惑星ハァワゥイーン。
帝国に対し中立を宣言している国家に属する惑星で、1年中温暖な気候が保たれているバカンスエリアがあることで有名な惑星である。
居住可能な惑星は数多あっても、意外と安心してバカンスを楽しめる惑星は少ない。まず大気や海水が人類に適していること、原生動植物に毒や狂暴性など危険なものがいない、あるいは極めて少ないこと、内政外交共に政治的に安定していること、近くに宇宙船の離発着場が用意できること、あまりにも通いづらい辺境ではないことなど多くの条件を満たさなければならない。
ハァワゥイーンは、そのすべての条件を満たした完璧な“バカンス惑星”であった。
『帝国』と『人類連邦』という二つの超大国に挟まれた緩衝地帯である中立国家群のほぼ中央に位置し、奇跡的にどちらの超大国にも寄らずに、むしろどちらにも寄らないことを両大国から求められたことで成立した本当の意味での中立国。
そしてその中立性は、海賊に対しても発揮される。
「セツト、あんたいつまでびくびくしてんのよ」
キティはあきれた口調で隣に座るセツトに声をかけた。
完全におくつろぎモードである。波が打ち寄せる白い砂浜にパラソルを立てイスとテーブルを設置し、赤い目立つ水着で堂々と椅子に寝そべっている。
「そうは言ってもですね……」
セツトは左右に視線を走らせた。
どこを見ても堅気っぽい人間がいない。顔つきや体つき、刺青の模様、気合の入った挨拶など、完全に“あちら側”の皆様がめいめいに過ごしている。
「あたしの連れに喧嘩売ってくるような阿呆はいないよ」
「そうは言ってもね……」
これまで、キティに声をかけようと寄ってきてはパラソルに描かれた紋章に気付き引き返していった男たちが何人もいた。パラソルには<黒銀の栄光>の輝ける深紅の髑髏マークが燦然と輝き、彼女が何者かを主張していた。
「まぁ筋金入ったやつなら売ってくるかもしれないけど」
それです。安心できないのそれです。
セツトとて、生身での近接格闘術も習っている。だからといってこういった場で堂々とくつろぐことができるかは別の話だ。
「問題ありません、マスター。この砂浜にいるすべての人間は私単独で制圧可能です」
とは大きな団扇を持ってセツトを柔らかく扇ぎ続けているミツキの言葉である。こちらも水着だ。この砂浜のドレスコードは体に密着する水着指定なのである。安全上の理由で。
感覚の違いにセツトは空を仰ぎ見た。
真っ青だった。
(あれから三か月かぁ)
パルテノスを振り切って超空間に突入した後は帝国軍の追跡を受けることはなかった。
<黒銀の栄光>は一つずつ星系を結ぶ恒星間航路を辿って帝国を出て、この惑星までたどり着いていた。途中ちょっと稼ぎをあげたり、小さなトラブルに巻き込まれたりはしたものの、大きくまとめれば順調な航海だった。
激しく戦ったからしばらく休む。
そんなキティの宣言によってセツトは地表まで連れてこられた。
「セツトくん、楽しんでる?」
いつの間にかシェリーが近づいてきていた。
「何しに来たのよシェリー。いい男探しに行ったんじゃなかったの」
「今日はダメね。うちの船の連中の方がましなくらいのやつしかいなくて。だからセツトくんと遊ぼうかなぁって」
「ふぅん」
キティは興味なさげだった。
「だからセツトくん、泳ぎいこ? あっちの岩陰でもいいよぉ」
「岩陰はダメよ」
風紀に厳しい船長である。
「姐さんも来る?」
「そうね、岩陰じゃなかったらいいわ」
キティが体を起こした。
と、その視線がセツトの背後に向いて固まった。
シェリー、ミツキがその様子にそちらを見て、やはり固まった。
(……嫌な予感がする)
セツトはゆっくりと振り返った。そちらにいるのは鬼か般若か。
「……」
その2人の姿を見てセツトも固まった。
手入れの行き届いた鮮やかな金髪が風に流れている。
顔の形は柔らかに微笑んでいるが、なぜか怖い。
完璧にドレスコードを順守した純白の水着は、通りすがった男たちの視線を奪い集めていた。
彼女の斜め後ろでは初老の男性(水着)が無表情で日傘を彼女に差し掛けていた。
「エ、エルザ……」
セツトは動けなかった。
「楽しそうね、セツト」
やばい。
理屈ではセツトに何らやましいところはないし何もやばくないのだが、本能がそう叫んだ。
「ちょっとお話したいことがありますの。あなたと」
エルザの視線が、す、とキティの方へ。
「“海賊令嬢”“黒銀の”キティに」
キティは面白いものを見つけたように獰猛に笑った。
「いいね、聞こうじゃないか」




