31 決着
海賊たちの機兵が次々に<黒銀の栄光>に着艦していく。
その間も<黒銀の栄光>は巨大な惑星の重力に引かれ、加速を続けているのである。
海賊たちの機兵は、いったん最大加速して着艦デッキを追い越し、その後少し加速を緩めて着艦デッキに張られたワイヤーにフックをひっかけ、着艦していく。そして次の機兵が着艦できるよう、すぐに移動してリフトで艦内に入って行った。
海賊たちは、そんな加速しながらの連続着艦という無茶を平然とこなしていった。
最後にフックを装備していないエリュテリオスがワイヤーを使わずに着艦した。
「よーし、着艦に失敗した間抜けはいないね?」
キティが最後に確認をした。見ている限りそんな者はいなかったから、念のための確認に過ぎない。
「損害は?」
『撃墜なし、大破4、小破9です、おかしら』
海賊の機兵は半分以上が損傷を受けたことになる。倍の敵と戦っていたにしては、ましな方だろうか。
「上出来だ。ともあれ、これで連中ともおさらばだね」
『おかしら、それがですね。ちょっと問題が』
艦橋から返ってきた声はひどく言いにくそうだった。
「なんだい、言ってみ?」
『白い奴が、このあとの離脱軌道上で待ち構えようとしてやす』
「……間に合うのかい?」
『どうやら先に入られそうです』
キティ機内の画面に図が映し出された。
<黒銀の栄光>がこれから惑星と距離を取って重力圏を出ていく軌道、その上に白い奴が来ようとしていた。騎士鎧ではありえない速度だ。
キティはため息をついた。
「まだ終わっていなかったようね。少し時間はあるから、中で検討しましょう」
そう言ってキティは艦内へと入って行った。
機体をハンガーに収め、コックピットから出ると、主だったものを集めて作戦会議のための円陣を組んだ。
「奴は以前、惑星に落ちそうになってたフリゲートをホームランキャッチしたことがある。同じことがこの船にできない理由はないね」
キティの言葉に全員が頷いた。
「あんなところで止められたら、磨り潰されて仲良く絞首台行きさ。解決策を持ってるやつはいるかい?」
誰も手を挙げない。
アイデアがないからではない。言い出せない内容だからだった。
「……」
キティは全員の顔を見回した。
「しょうがない奴らだ、全く。セツト!」
そしてちょうどエリュテリオスから降りたセツトに呼び掛けた。
「は、はい」
セツトが駆け寄ってきた。円陣になっている全ての海賊の目がセツトに向いた。
「状況はわかってるね?」
「はい」
セツトは頷く。表情が硬い。何を求められるか分かっているのだろう。
「あんた、あたしを信じるかい?」
予想外の言葉にセツトは一瞬ぽかんとして、しかしすぐに表情を引き締めた。
「はい。信じます」
「分かった。じゃあ頼むよ」
キティはセツトの肩をたたき、仕事を託した。
セツトは再びエリュテリオスのコックピットに戻り、外に出ていた。
頭上にはガス惑星の大きな縞模様がある。間近で見るガス惑星は押しつぶされそうなほど大きかった。
エリュテリオスは<黒銀の栄光>の艦上を歩いて艦首に向かっている。
託された仕事は分かっていた。
真っ先に敵にあたる艦首で、<黒銀の栄光>を止めるために張られるであろうパルテノスの盾を破る。
それがどんなことを引き起こす可能性があるか、分からないセツトではない。
けれどセツトはキティを信じることにした。
キティを信じて剣を振る。ただそれだけに集中することにした。
エリュテリオスが艦首に立った。
4本の剣を展開して構える。
セツトはその時を待った。
パルテノスは、<黒銀の栄光>の予測軌道上にいた。
すべての盾を展開して槍を構えている。
パルテノスのカメラはすでに<黒銀の栄光>の艦首に立って剣を構えるエリュテリオスの姿を捉えていた。
剣より槍の方が長い。
必ずパルテノスの槍の方が相手に先に届く。<黒銀の栄光>がスイングバイによって秒速30キロもの高速度になっている今、交差の瞬間に技をさしはさむ暇さえない。
突っ込んでくるエリュテリオスの前に槍を置くだけ。
それだけでエリュテリオスはおしまいだ。
それだけでセツトは死ぬ。
エルザはエリクが提供する情報に従ってパルテノスと槍の位置を微修正することに集中した。
もうすぐ交差の瞬間が来る。
エリュテリオスは構えた剣にエネルギーを生じさせた。
一点に重なった切っ先にエネルギーが集中して輝きを増していく。
ついに収束しておくことができないほどになり、余波が漏れる。それは加速の影響で後方へと流れ、渦を作った。
<黒銀の栄光>を覆うほどのその余波の流れは大きな尾となる。もはやそれは流星ではなく、彗星のようだった。
剣を突き出すタイミングはミツキの計算に委ねた。
セツトはただ、ミツキを信じ、キティを信じて、剣を突き出す。
その瞬間はもうすぐそこだった。
もうすぐこの槍は、動かす必要すらなくエリュテリオスを貫く。
時間が引き延ばされるような気がした。
黒いエリュテリオスの姿が見える。コックピットの様子を見ることはできないが、きっとそこにいるのだろう。
決意は終えた。
あと1秒。
躊躇はない。これでいいのだ。
帝国貴族としてあの機体が帝国以外に流れることは防がなくてはならない。
私は正しい判断をしている。
これでいい。
あと0.5秒。
槍を固定する。
やらなければならない。
これが私の義務。
0.3秒。
これが正しいこと。
0.1秒。
「駄目っ」
エルザはパルテノスの槍の刃を消した。
盾の配置を組み替え、受け流す角度へと一瞬で切り替える。
パルテノスは<黒銀の栄光>の勢いに逆らわず、むしろ自らが押しのけられるようにしてその軌道からそれた。
<黒銀の栄光>の巨体が一瞬で通り過ぎていった。
(私はセツトを殺せない……)
エルザは大きく息を吐いて力を抜いてから、自身の両掌を見た。
これで正しいのかはわからない。しかし気持ちは妙に落ち着いていた。
「……ミツキ、何があった?」
エリュテリオスに剣を突き出させた状態のまま、セツトは尋ねた。交差する一瞬の出来事はあまりに刹那的過ぎて、セツトの目には何が起こったのか見えなかった。
「パルテノスが槍による攻撃を放棄、軌道から退避しました」
「パルテノスはどうなった?」
「健在です」
「<黒銀の栄光>は?」
「もちろん、健在です。現在超空間転移に向けて宇宙空間を邁進中です」
セツトはため息をついた。
『計画通りだわ、お疲れ様』
キティから通信が入った。
「これが計画通りっていうなら、とんでもない大博打ですね」
『完璧な計画だったさ。さぁ、早く艦内に戻ってらっしゃい』
言うことだけ言って通信は終わった。
だから、艦橋でキティが呟いた一言をセツトは知る由もなかった。
「あのお嬢様が、セツトを殺せるわけないじゃない」
第1章 赤い海賊と紫電の機神 了
第2章 無冠の騎士と白い反逆者 に続く
第1章、これにて終了です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
エルザ、個人的には好きなキャラクターなのですが、私の表現力の限界で魅力をうまく伝えられていないかもしれません。皆さんの目にはどう見えてるのでしょうね。
現時点で3章分はプロットができているので、まだまだ書き続ける予定です。
やりたいこと詰め込んだ感じの作品ですが、引き続きよろしくお願いいたします。




