29 海賊の連携
2枚抜かれた。
その事実はエルザに大きな衝撃を与えていた。
パルテノスの盾はついこの間初めて戦い、初めて見せたものだ。その時は1枚も破られることなく完封できていた。
もう対抗手を打たれた。
(さすがですわ)
舌を巻かざるを得ない。
パルテノスの盾は優秀だが、絶対ではない。加えられるエネルギーを吸収発散することがその機能の本質で、当然瞬間的に過剰なエネルギーが加えられれば吸収しきれず破綻する。
セツトはその限界があるだろうことを推測し、もう対処して見せたのだ。
高い問題解決能力。さすがとしか言いようがなかった。
そのうえでセツトは帝国機兵を翻弄している。
帝国機兵の攻撃は当たらない。エリュテリオスの回避が予測できないうえに、あらぬ方向から襲ってくる剣のために射撃に集中力を欠いている。
幸い帝国機兵も、剣については一度見ているため、なすすべなくやられるほどではない。しかしこのままではエリュテリオスを捕獲することは極めて難しいだろう。
海賊どもの機兵が戦場に突入してくる。
エルザはパルテノスが持つ杖に力を籠めて起動した。
杖の先端に長いエネルギーの刃が生まれ、槍の形となった。
破られた2枚の円盤ユニットはしばらく使えない。復旧にはしばらく時間がいる。
それでもまだあと2枚は健在である。1枚は他の機兵の支援のために回すとして、1枚は近接戦闘の盾として使える。
セツトの機兵での近接戦闘の腕前はよく知っている。
同じ条件ではエルザはまず勝てない。
しかし槍と剣というリーチの差に、破られることのない盾もある。勝ち目はあると思えた。
「行きます」
決意を口に自らを鼓舞して、エルザはパルテノスを突っ込ませた。
しかし。
「さぁせぇるぅぅかぁぁぁ!!」
集中されたビームがその足を止めさせた。
海賊達の黒い機兵が8機、ライフルをパルテノスに向けていた。シェリー率いるパルテノス釘付け班である。
『姐さん姐さん、なんか槍っぽいの持ってんすけど聞いてないっすよ?』
「当たり前のことでうろたえてんじゃない」
『だってこないだは使ってなかったじゃないですかぁ!』
「なんでかわいい男の子相手の顔をお前にも向けてくれるって思えるの? 頭沸いてんの?」
『ひぃぃぃ』
「私たちがやることは一緒よぅ。さぁやるよ!」
シェリー達はパルテノスを遠巻きに取り囲んだ。
(海賊の機兵くらいで)
パルテノスを止められるものか。エルザは身構えた。撃たれるであろうビームを回避し、包囲を突破しようとした。
機体性能としてエリュテリオスにできることは、パルテノスにも出来る。
エルザはエリクから送られてきた情報を認識して戦慄した。
「これは!」
海賊たちがほぼ同時にビームを放った。
パルテノスの盾が動き、半球状のシールドがビームを遮った。機体はその場から動いていない。否、動けなかった。
(動いたら被弾する……)
8機の射線が完全に統制されていた。半球で防ぎつつその場から動かないことが回避の最適解。そうなるような完璧な一斉射撃だった。当てるのではなく、動けなくさせる射撃だ。
(ただの海賊じゃない)
帝国から要注意されるだけのことはある。船長の出自によるマークだけではなかったのだ。
エルザが海賊達の認識を改めている間に、第2射。
やはりこれも同様にその場が最適解となる射撃。
「なら!」
射撃を『避けた』瞬間にエルザは機体を発進させた。
急加速。
次の射撃までに包囲の外に出ることは出来ないが、動き回ることで統制された射線を崩す。
『ざーんねーん』
敵の声が聞こえた気がした。たぶんちょっと甘ったるい感じの嫌味の効いた声で。
第3射。
エルザは機体を減速させて用意された安全なスポットに入るしかなかった。
その間包囲する海賊機兵はパルテノスが再び球の中心に来るように移動している。
「そう簡単には出してくれないつもりですわね」
エルザは眉を寄せた。
被弾覚悟で突破する手もある。しかしそれは余りいい手ではないだろう。
「1隊、支援をお願いします」
エルザは友軍に呼びかけた。帝国軍は数で圧倒しているのだ。一機で難しいなら仲間に助けて貰えばいい。
『エルザ様、私騎士ウルリッヒ隊が!』
「お願いします」
騎士鎧1機に率いられた量産機兵3機がこちらに向かってくる。
海賊達に彼らウルリッヒ隊を阻害できる機兵はいない。数の差がこういうところにも表れていた。
騎士ウルリッヒ・リヒテンシュタインは騎士の子である。
騎士というのは帝国貴族の序列では最下級である。継ぐべき爵位がない貴族の子や、爵位を継ぐ前の嗣子がなっていることもある。
騎士鎧を扱える血であることをもって貴族とする帝国においては、騎士の子も騎士である。ウルリッヒは騎士を父に持ち、庶民出の女性を母に持つ男であった。
所属はフリゲート艦<ザナリア>。
エルザに救い出された例の艦である。
(エルザ様をお助けする)
彼はそう決意してこの戦いに臨んでいた。
命の恩ある慈悲深く気高い美しきご令嬢にこの剣を捧げたい。彼女のために戦いたい。
彼は初めて会う公爵令嬢という超高位の姫が自分たちを助けてくれたという事実に感動して、ハイになっていた。
「突っ込めぇー!」
ウルリッヒの騎士鎧が勇猛果敢にシェリー達の海賊機兵に攻撃を加える。
たちまち包囲の一角が崩れた。
その一角からパルテノスが飛び出していく。
パルテノスを追おうとするシェリー達の前にウルリッヒ隊が立ちはだかった。
「行かせはせんぞ、海賊ども!」
彼の騎士道は今始まったのであった。
そのころエリュテリオスは、圧倒的多数の帝国機兵とドッグファイトを繰り広げていた。
普通なら一方的になる戦力比である。
そうならないのは、ひとえにエリュテリオスの活躍があればこそだった。
自在に飛び回る4本の剣。それを防ぐパルテノスの盾は1つしか帝国機兵の元にない。
そのうえエリュテリオス自身も、機動力を活かして殴る蹴る投げるといった格闘で攻撃を加えていた。格闘は決定的なダメージをもたらさないとはいえ、その衝撃で崩れた姿勢の立て直しを余儀なくされてしまう。
その隙を的確に海賊達が突く。
戦況は奇跡的なバランスで拮抗していた。
『ごめん、白い奴に抜かれた!』
そこにシェリーからの通信が流れてきた。
それは均衡が崩れるかもしれない情報だ。
『こっちも足止め食らってるけど、5機は送るから頑張って!』
セツトは迷った。
このまま戦った方がいいだろうか。それともエリュテリオスだけ距離を取った方がいいだろうか。
『このまま乱戦!』
キティの声が響いた。
「了解!」
セツトは戦い方を変えず、そのまま戦いながら待った。
彼女は来る。必ず。
楽しくなってくるとその場の思いつきでキャラクターが増えます。だいたい便利に場を盛り上げてくれます。
シェリーはそんな思いつき系でしたが、今また1人生まれました。ところで君が敬愛してるそのお嬢様はちょっと病んでるけど大丈夫?




