28 必ず殺す技?
作戦は決まった。
帝国軍のフリゲートを振り切る速度を得るため、<黒銀の栄光>がガス惑星の重力を利用して加速を得る天体重力推進を行う。
どのような軌道で加速するかの計算はミツキが行った。
それに基づいて<黒銀の栄光>はガス惑星の周囲をらせん状に回りながら離脱することになる。
問題は最初の1周をするまでである。
その時点では<黒銀の栄光>の速度もさほどではなく、帝国軍による待ち伏せ攻撃を受けざるを得なくなる。
そこで、1周目を開始する前に機兵を出撃させて帝国軍が待ち伏せできるポイントあたりに布陣しておき、逆に待ち構えることにした。
機兵は帝国軍が<黒銀の栄光>を攻撃できない程度に戦い、1周してきた<黒銀の栄光>に着艦する。
2周目の速度になれば機兵でも追いつけない。
これが作戦の全体である。
問題は2倍の数の機兵である。修理やメンテナンスを諦めれば、搭載量オーバーしているといっても1戦することに問題はない。
「対多数ならエリュテリオスの方が有利だと思う」
意見を述べたのはセツトだ。
「敵のパルテノスの盾で防がれるとしても、常に全ての敵機を守ることはできません。円盤ユニットは4つ、つまり絶対に守れる機兵の数は4までです」
「それなら、白い奴の足止めは私が指揮するわよぅ。ビームは当たれば効果あるのよねぇ?」
「はい。私の装甲と同等の物であると仮定した場合、ビーム射撃によって装甲に十分なダメージを蓄積することは可能です。盾に防がれなければですが」
「いいのよぅ、防がせれば。シールドユニットの1つか2つは張り付きっぱなしにしてやるわぁ」
「姐さんと一緒の隊はあっしが!」「いや俺が!」「俺が!」
多くの海賊がシェリーと一緒に戦うべく立候補したが、
「私、私がいないところでも仕事して敵機を落としてくれる人が好きだなぁ」
「どうぞどうぞ」「お前白い奴担当やれよ」「いやお前がやれよ」「やだよなんでだよ」
シェリーの言葉で一斉に撤回した。
「よし、大筋はこれでいいわね。白い奴はシェリーの隊で、普通の機兵はあたしがやるわ」
キティが話をまとめた。
「出るぞー!」「回せー!」
海賊たちの機兵が次々とリフトに乗って船の外へ出て行く。
<黒銀の栄光>は今、隠れていた衛星の地表を離れ、加速を開始しようとしていた。
衛星の地表に着陸していると予想して近くにいた帝国軍のフリゲートは、今こちらに向かってこようとしていた。今頃はあちらでも機兵の出撃準備を進めているだろうか。
海賊の機兵が全て出撃を終えた。
『全機移動!』
キティの号令一下、機兵達は待ち伏せポイントへ向かう軌道を取った。
『<黒銀の栄光>、加速開始しやす。また会いやしょう!』
漆黒の海賊船が噴射炎を吹いて加速していく。
セオリーにない動きである。
通常空間での戦闘において、艦船は機兵に劣る。そのためセオリーとしては、機兵が飛び交う戦いにおいて艦船は距離を取って後方に待機することになる。
当然、普通はどこかに飛んでいくことはない。それでは損傷した機兵を回収できずそのまま失ってしまう。
帝国軍はしばらく<黒銀の栄光>を追うかどうか検討していたようだが、軌道を計算して惑星を一周して戻ってくることに気付いたようだ。
帝国軍が機兵を出撃させ、海賊の機兵へと攻撃を加える準備を始めた。
『よーし食いついてきたわね』
海賊たちの機兵はエリュテリオスを入れて22機。対する帝国軍は37機だが、そのうちの何機かは騎士鎧だ。
まさに戦力比にして2倍。
『おぅおぅ、すごい数だな』
『あれ全部おかしらと姐さんのケツ狙いなんだろ?』
『数をそろえなきゃ女も口説きに来れねぇのか』
『いや、待て。たしか一機はうちの坊ちゃんエース狙いなんじゃなかったっけか?』
『後ろから撃とうかな……』
『おいそんなこと言うと先にお前が撃たれんぞ』
海賊たちは好き放題無駄なことを話している。むしろ全員もれなく『無駄話をしながらでないと戦えない病』なんじゃないだろうか。
「やはりいるよね」
帝国軍の機兵たちを拡大映像にすると、その中にパルテノスの姿があった。
「騎士鎧は、10機かな」
全機がきれいな隊列を組んでこちらに飛行してくる。その飛び方をみるだけで練度の高さがうかがえるというものだ。
『セツト、よろしく』
キティの合図があった。
これは『ひとまず一人で突っ込んでみろ』の合図である。
帝国軍の重要な狙いがセツトとエリュテリオスだ。だからこそ一機で動かしてみて、帝国軍の動きを見る。
「はい」
応えて、セツトはエリュテリオスを加速させた。やんややんやと騒がしい海賊の隊列から離れ、一直線で帝国軍へ。
この動きに対して、パルテノスはじめ半数の帝国騎兵が動いた。
『大人気ね、セツト。うらやましいわ』
「代わります?」
『遠慮しとくわ。セツトはそのまま。ほかは全員で突撃するわよ!』
通信で雄たけびが返ってきた。
海賊機兵が全機加速した。
それを受けて帝国騎兵の残りも動いた。
「やるよ、ミツキ」
「はい」
エリュテリオスが4本の剣を切り離した。1本は機体に持たせ、残りの3本の切っ先をそこにそろえた。
揃えられた切っ先にエネルギーが集中した。集めきれずにあふれた余波が後方に流れ、螺旋を描いて尾を引いていく。
エリュテリオスは最大の力で加速を続け、自ら一筋の光となって流星のように宇宙を走っていく。
パルテノスの盾を破るための対抗策として考え出した方法である。
剣のエネルギーだけでなく、エリュテリオスの質量と速度を掛け合わせた運動エネルギーも加える一撃。
海賊の誰かが勝手に叫んだ。
『いけぇ、必殺、流星螺旋剣!!』
いつの間にか命名されている。
『やれ、黒い彗星!』
『見せてやれ、お前の機兵の性能とやらを!』
全く勝手な連中である。
対する帝国軍からは、パルテノスが前に進み出てきた。シールドユニットを展開し、4枚重ねて盾を張った。
絶対に通さないという構えだ。
(戦力に差があるんだ。やれる限りのことをやる!)
エルザを倒せるのか、殺せるのか。その問いの答えは出せていない。けれどセツトはそういう開き直り方をした。覚悟として甘いと言えば甘い。しかしそれでもベストを尽くして戦えるくらい、パルテノスの防御性能への信頼ができていた。
「いくぞ、エルザ!」
来なさい、と声が返ってきた気がした。
剣と盾がぶつかる。
押し込もうという力と、止める力がぶつかった。
盾が割れた。
1枚目を突破し、2枚目へ。すでにかなりの速度が失われてしまっている。だが流星の切っ先は2枚目も破った。
3枚目。
ついに拮抗した。これ以上は破れそうにない。
だが2枚は破ったのだ。
「よし!」
セツトは快哉を叫んで距離を取った。帝国騎兵がエリュテリオスを囲もうと動き始めていた。ビームライフルがこちらを向いている。
回避機動。
放たれたビームのすべてをよけた。
「当たらなければどうということはありません」
ミツキがつぶやきを漏らした。
エリュテリオスの回避は、ランダムに動いているように見えてそうではない。ミツキが向けられているすべてのライフルの角度を測定し、撃つ直前の補正まで含めて射線を計算し、それに当たらない回避のコースをセツトに提案している。
その機動を可能にしているのが鋭角ターンという、熟練パイロットの軌道先読みさえ裏切る理不尽機動能力である。
当たるわけがなかった。
よけて、よけて、よける。
その最中も剣は戦場を飛び回り、帝国騎兵に攻撃を加えていく。
パルテノスの盾は破られた2枚がまだ新たなシールドを生成できないようだった。残りの2枚で帝国騎兵の防御に回るが、なにしろ機兵の数が多い。剣は盾に阻まれても返す刀とばかりに跳ね返ってみせて別の機兵を攻撃しに行ってしまう。
それでも帝国軍はさすがだった。動きの読めない剣を回避するのではなく、ビームソードで迎撃することで損傷を避けようとしている。
すべての剣を防ぎ切ることはできず、帝国機兵の何機かに大小さまざまなダメージが与えられていく。そのなかでも手足に重大な損傷を負った機兵は、回避機動を取りながら背後へと退いていった。
『おらおらおら、海賊たちのお通りだ!』
そこに、海賊機兵が突入した。




